ジャジャ馬参上!(Canon MP-E 65mm F2.8)
KENのつぶやき vol. 72  (2001.2.17)
キャノンMP-E 65mm F2.8 1-5x Macro Photo を購入しました。もちろん中古購入で、価格はKENに相応しい安値です。定価138000円のレンズで中古相場は定価の60〜65%(8万円台)ぐらいですが、私は定価の半額以下で入手しました。とはいえ絶対額はそれほど安い物ではありません。

取り敢えずは主なスペックを...

正式名称  ;キャノンMP-E 65mm F2.8 1-5x マクロフォト
レンズ構成 ;8群10枚(EDレンズ1枚)
絞り羽   ;6枚
最小絞り  ;F16
フィルター径;58mm
大きさ   ;81φx98mm(三脚座除く、前後キャップ装着時長さ115mm)
重さ    ;845g(三脚座無し710g)
撮影倍率、撮影領域;1倍 36x24mm〜5倍 7.2x4.8mm
このレンズ、等倍から5倍までの拡大撮影が可能なマクロレンズですが、使ってみるととんでもないジャジャ馬レンズ(使いこなしが難しいレンズ)です。等倍以上でしか撮影できないという事実だけでも、等倍マクロを使ったことのある人なら難しさを想像出来るでしょう。しかしそれ以外にも相当にジャジャ馬なのです。これからこのレンズが如何にジャジャ馬であるかを説明しましょう。

1. EOS用のレンズでありながら、使えるカメラはEOS1/1N/1V/(3)だけである。

このレンズはレーザーマットスクリーンを装備したEOS1シリーズのみでAE撮影が可能です。EOS3(標準はニューレーザーマット、0.5段明るく見えるスクリーン)の場合はレーザーマットスクリーンに交換すればAE撮影が可能です。ということは1/1N/1Vでもニューレーザーマットスクリーンに交換してしまうとAE撮影が出来なくなります。レーザーマットスクリーンへの交換が出来ない他の機種(600シリーズを除く)ではAE撮影が出来ません。600シリーズにはレーザーマットの用意もありますが、恐らくはスクリーンごとの露出補正カスタムファンクションが無いからでしょう(これは3と1Vにのみあります)、対象機種としてあげられていません。EOS1NーRSは標準がニューレーザーマットです。レーザーマットへの交換は出来ますが前述の露出補正カスタムファンクションがありませんのでAE撮影できません。私が入手した取扱説明書にはその記述がありませんでしたが、レンズカタログのAE対象機種からはRSが除外されていました。かなり不備だらけの取扱説明書の様です。
AE対象機種以外のカメラについて、レンズカタログには「他の機種では露出補正が必要」と書いてあります。しかしレンズの取扱説明書にはその様な記述は無く、単体露出計と撮影倍率別の実効F値から露出を決めろと書いてありました。新世代レンズでありながら一部機種を除いてAEの出来ないレンズなのです。
加えて説明書には「近接撮影では一度で適正な露出の得られないことが多くなります。同じ被写体をできるだけ露出を変えて撮影しておくことをお勧めします」ともあります。つまりキャノンとしてAEに全く自信の無いレンズなのです。なんとまぁ!
なおAEの出来るカメラでも、スポット測光は使えません。

2. ピントリングはあるけど、単体ではピント合せが出来ない。

このレンズにはピントリングが一応あります。しかし実態としてピントリングは「撮影倍率変更リング」と考えた方が無難です。実際にこのピントリングに距離目盛はありません。撮影倍率とワーキングディスタンスが撮影倍率で1倍ごとの間隔で刻まれているのみです。
このレンズ、ピントリングを回すとニョキニョキっと鏡筒が伸びます。等倍時の長さは98mm(マウント面からレンズ先端まで)ですが、5倍時には何と2倍以上の227mmになります(いずれも実測)。その結果このレンズ、等倍から2倍までは撮影距離が縮まるのですが、そこから先は倍率を上げると撮影距離も伸びて5倍の時に最も撮影距離が遠くなります。つまり倍率と距離の関係が一様ではなくカメラを固定してピントリングでピントを合わせるという方法はほとんどの場合出来ません。むしろ先に撮影倍率を決めて、カメラを前後してピント合せをする事が必要なのです。
さらに被写界深度の浅さが驚異的です。撮影倍率5倍で開放の被写界深度は0.048mmです。このピント面を微動装置無しで調整するのは不可能であり、マクロスライダーやフォーカシングレールなどの装置が無いと使い物になりません。
 

撮影倍率による撮影距離と被写界深度
(レンズ長を除きキャノン発表値)
撮影倍率
撮影距離
(m)
ワーキン
グディス
タンス
(mm)
レンズ
全長
(mm)
(実測)
公称絞り値と被写界深度(mm)
F2.8 F4 F5.6 F8 F11 F16
1x 0.243 101 98 0.396 0.560 0.792 1.120 1.584 2.240
2x 0.238 63 130 0.148 0.210 0.297 0.420 0.594 0.840
3x 0.253 51 157 0.088 0.124 0.176 0.249 0.352 0.498
4x 0.285 44 196 0.062 0.088 0.124 0.175 0.247 0.350
5x 0.313 41 227 0.048 0.067 0.095 0.134 0.190 0.269

 
等倍時(左)と5倍時(右)の長さの違い

 
ピントリング部。距離目盛は無く、撮影倍率とワーキングディスタンス(mmとインチが併記)の表示があるのみ。

3. 被写界深度0.1mmのピント合せはそれでなくても難しいのに、レンズが暗い!

このレンズを買ったときに取り扱い説明書がついていませんでした。マクロレンズは撮影倍率に応じて露出倍数がかかりますので、それが知りたいと思いテストをしました。室内の薄暗い均等に照明された白い壁を測定したのです。結果は以下の通り。
 

露出倍数計測結果
撮影倍率 F2.8時のシャッター速度 露出倍数 実効開放値
タムロン90mm MP-E 65mm タムロン90mm MP-E 65mm タムロン90mm MP-E 65mm
0x(∞) 0.25 sec. - 1 - 2.8 -
0.5x 0.5 sec. - 2 - 4 -
1x 1.0 sec. 1.0 sec. 4 4 5.6 5.6
2x - 2.0 sec. - 8 - 8
3x - 3.2 sec. - 12.8 - 10
4x - 5.0 sec. - 20 - 13
5x - 8.0 sec. - 32 - 16

このレンズの公称開放F値は2.8ですが、このレンズの一番明るい状態(等倍開放時)の実効F値は5.6です。等倍時には無限遠撮影の4倍の露出倍数がかかることはタムロンでも一緒。このレンズの場合は等倍からしか撮影できないので、F5.6が最も明るい状態なのです。これが5倍撮影時には実効開放F値が16になってしまいます。等倍から更に3段(8倍)もの露出倍数がかかるのです。F16のファインダーでピント合せすることがどれだけ難しいかお判りですよね。室内や日影での5倍撮影ではファインダーが真っ暗で、ピント補助光無しにピント合せすることは困難です。
余談ですが後日取扱説明書を入手し、実効F値の記述を調べたら面白い記載になっていました。5倍開放時の実効F値がF16.8とあります。何か変ですね!もともとレンズのF値は理論値ではなく、それに近い値で代表させているのは周知の事実です(詳細はこちらを参照)。F16の理論値はF16.0であり、そこから1/3段絞った値は理論値F17.96、公称値18です。16.8という絞り値をカメラ業界が使うことはありません。単体露出計でもこんな表示値は出ないですよ。ちなみに11.2という数字も出てきますが、F11の理論値はF11.3でありF11.2ではありません。それ以外でもF5.6以外はルール違反の数字です。多分、この表を作ったキャノンの社員は新入社員かなにかで、絞り値表示ルールと言う物を知らなかったのでしょう。それで電卓か何かで計算した絞り値をそのまま掲載したと思われます。それをチェックできなかったキャノンの社内的知識の浅はかさにも笑いが込み上げてきます。
 

取扱説明書に記載された実効開放値
撮影倍率 1x 2x 3x 4x 5x
実効開放値 F5.6 F8.4 F11.2 F14.0 F16.8

まだまだこのレンズのジャジャ馬ぶりは続きます


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