レンズベビー・ベルベット 85mm F1.8(その2、撮影サンプル)
画像をクリックすると拡大されます
大口径ソフトフォーカス・マクロレンズとして迎え入れたレンズベビー・ベルベット(LENSBABY VELVET) 85mm F1.8で実際に撮影した写真をこれからご覧頂きますが、その前にちょっと脱線を。
メーカーはこのレンズの主な撮影対象をポートレートに置いて、作例写真ポートレートが大半です。人物という姿そのものが強いメッセージを持つ被写体だと、開放付近でボケボケになるこのレンズでも魅力的な絵になります。実は知人の女性にモデルになってもらい、ポートレート的なテスト撮影もしたのですが、結構良い感じでした。その写真をお見せできないので、「ヒント」になる枯れかけた花の写真を3枚。写真をクリックして拡大し、画像右側の「>」をクリックすると連続で閲覧出来ますので、絞り値ごとの描写の違いを見て下さい。
F2.8よりも絞り込んだ写真だと花弁が酷く傷んでいる事が分かりますが、開放だとそれらを全て覆い隠し、あたかも綺麗な花のように描写しています。ポートレート撮影でもこの特性は生きて、実際には多少なりともある肌のしわ、しみ、ニキビやホクロなどを全て覆い隠し、レンズ名どおりのVelvetの様なスムーズなお肌として描写されていました。被写体が女性であればベールを被ったようなソフト表現も活きて、かなり良い感じでした。
しかし、私の主目的はマクロ撮影なので状況は変わり、かなり手強いレンズというか、良い作品に恵まれにくいという印象です。花は人物よりも小さく、花自体を大きく写したとしても見る人は花のシベの先端とか、花弁の先端とか、小さい部分に目が行くので、ボケボケになるこのレンズだと厳しいですね。マクロ撮影の場合、F1.8、F2はほぼ使い物にならず、F2.4かF2.8で勝負する事になります。
先ずは睡蓮の写真を6枚ご覧下さい。
傾向として、F1.8ではピント位置の滲みが大きくつかみ所のない写真になりがち。F2.8だと描写がマトモになって、このレンズの特性を生かし切れていない、、、F2.4はスリリングだけど、決まればピントとファンタジックなボケが同居する写真になる。という事で、スイートスポットはF2.4(F2とF2.8の中間)かな?という気がします。
盛大な像面湾曲で、画面中央部以外でピント合わせするのは至難の業で、どうしても日の丸構図になりがちです。加えて大きな球面収差のせいで、光学ファインダーだと見た目のピント位置と実際のピント位置がかなり違っていて、これらの写真はファインダー中央部を拡大出来る、キヤノン・アングルファインダーCを付けて2.5倍に拡大してピント合わせをしています。これも日の丸構図になる要因です。
続いて、彼岸花の写真を3枚ご覧下さい。
水滴を沢山まとった雨の日の彼岸花ですが、沢山の水滴が光り輝いて、惚けていても存在感を発揮し、開放F1.8の写真が絵になった数少ない写真になりました。それでもバランスはF2.4の方が良い感じがします。
この3枚は像面湾曲が活かせるか?と思って撮影した写真。奥にある中央の花と、周辺の手前にある花の両方にピントが来ることを狙いました。ただ、像面湾曲によるピント面に正確に花を配置できる訳では無いので、開放の写真は中央の花がボケボケで絵にならず、F2.8まで絞り込まないと全体にピントが来ませんでした。
この3枚は少し離れた彼岸花を撮影した物。他のレンズベビーにも共通する像面湾曲によるグルグルボケが得られています。開放はボケすぎ、F2.8では少しまとも過ぎ。F2.4のバランスが良いかな?と思います。
この3枚は彼岸花を真上から撮影した物です。開放だと花弁が大きく滲み、空気の中に溶けているかの様な描写になります。F2.8だと描写がかなりまともになり、やはりF2.4がこのレンズの特性が一番生きる絞りかなと思います。
この写真、赤い花の背景を緑色にしていますが、これまでの全ての彼岸花の写真の背景が赤ではない事にお気づきでしょうか?同系色の背景を持ってくると、主たる被写体が背景に溶け込んでしまい、浮かび上がらず絵になりませんでした。
この2枚も彼岸花を真上から撮影していますが、同じ場所で撮影したレンズベビーと通常のマクロレンズとの比較です。1枚目はレンズベビーのF2.4で撮影した写真。2枚目はフォクトレンダー・マクロアポランター 125mm F2.5SLの開放で撮影した写真です。マクロアポランターも薄氷の被写界深度を持つレンズですが、ピントのあった所はシャープに描写され、背景はクリーミーに溶けて、より安心して見ることの出来る写真になっています。
ここからはレンズベビー・ベルベット 85mm f/1.8で撮影した単写真を4枚。
F2.4で撮影したコスモス。強風で大きく揺れていた花を撮影したので超日の丸構図になっています。球面収差によるソフト効果に加えて、像面湾曲で画面中央部以外を大きくぼかすので、独特な描写になっています。
一般的な情景を撮影すると、画面中央部にしかピントが来なくて、ジオラマ的な写真になります。
地面に落ちたもみじの葉です。普通のレンズで撮影すれば画面全体にピントが来ますが、レンズベビーだと中央部以外はぼけて、グルグルぼけと合わせて独特の描写になります。
成功させるのはかなり難易度の高い構図ですが、像面湾曲を活用して、奥の木と手前の灯篭の両方にピントを合わせながら、画面全体はボケボケのファンタジックな描写にした写真です。
レンズベビー・ベルベット 85mm f/1.8 で1時間も撮影するとヘトヘトに疲れて、精力回復の為に使い慣れたフォクトレンダー・マクロアポランター 125mm F2.5SLで撮影し直したりしています。レンズベビーは大きな球面収差があるために、光学ファインダーでの見た目のピント位置と実際のピント位置が違うので、兎に角ピントが来ない。ライブビューが使えるなら使い、日の丸構図覚悟でファインダーを拡大出来るアングルファインダーCを使える時には使い、やっとの事でピントの合った写真を得ています。それに加えて大きなソフトフォーカス効果で、思ったような絵を得るのに何枚も絞りを変えて撮り直ししています。似たような写真をフォクトレンダー・マクロアポランター 125mm F2.5SL なら10倍簡単に得ることが出来ます。描写が独特である事は確かですが、マクロレズとしてその価値があるかどうか、、、
これらの写真を見て、皆さんならどう判断されるでしょうか?
2021年1月12日