もしフォトコンテスト誌1999年6月号をお持ちなら、61ページを開いて下さい。そこには池に浮かぶ一輪の赤い睡蓮の花と数枚の葉、そしてその背後を泳ぐ金色の鯉をぶらして撮影した見事な写真が掲載されています。その写真が私の地元の広島県廿日市市の極楽寺山で撮られたと知って、私も似たような写真を撮ってみたくなりました。それである日曜日、カメラを担いで、家族と一緒に極楽寺山に出かけてみました。
極楽寺山の池に着くと、睡蓮はほぼ盛りを迎えていて、沢山の美しい姿を私たちに見せてくれていました。一方のカメラマンの方も既に数多く参じていて、美味しい睡蓮スポットは、三脚が触れんばかりの混雑ぶり。
今回は睡蓮と鯉を撮りたかったので、まず美しい睡蓮を探し、そこでカメラを設置して構図を決めて、鯉の来るのを待ってみました。しかし、鯉はなかなか来てくれません。そこで次は鯉の沢山いる辺りに行って、その周辺で比較的綺麗な睡蓮にカメラを設置して、鯉を待ってみます。しかしそれでも鯉はなかなか来てくれません。
しばらくの間、泳ぎ回る鯉を眺めていると、鯉の道がある事に気づきました。鯉の泳ぐ場所がほぼ一定なのです。一定のルートをぐるぐると回遊しているのです。そのルートを見定めて、ルート上にある睡蓮にカメラを設置しました。そして暫く待っていると、来ました!鯉が。それですかさず連写!!!
しかし、その場所は睡蓮の花の周りに葉が沢山有って、せっかく来た鯉の姿が部分的にしか見えませんでした。これでは良い写真にはなりにくいです。
段々コツがつかめてきた私は、鯉のルートを探りながら、そのルート上にある葉の少ない美しい睡蓮の花を探して歩きました。そしてありました!花一輪、葉が数枚。周りはグルリと葉のない水面があります。ここだな!と思ったのですが、そこは既に先客がいました。明らかにベストアングルと思われる所には、所狭しと三脚が立てられ、サンニッパ、白レンズ、その他望遠系レンズが立派なカメラと共に設置されていました。それらのカメラの主は、定年後の人生を謳歌していると思われるシニアのカメラ仲間の人達。その人達は水面を事細かに観察しているのですが、カメラを構えてはいません。そしておもむろに釣竿(!)を取り出して水面をかき回したのです。「え??」と思ってみると、釣竿の先にはお風呂でゴミ取りに使う目の細かいネットがついていました。時々流れてくるゴミとか木の枝、葉っぱなどをそれですくい取り、主役の花の周りの水面をゴミ一つ無い状態にしていたのです。私は感心すると同時に、「何もそこまでしなくても...」と思ってしまいました。
ベストアングルの場所は既に占拠されていましたから、私は少し離れたところから同じ花を狙うことにしました。この様なときにシグマの170-500mmズームはポジション選びに無敵の威力を発揮してくれます。かなり離れたところからでも主役だけを切り取れますので。その後しばらくの間、私は鯉が画面の中に来たのを確認して、撮影を繰り返していましたが、シニアの方々というと、写すときには凄い連写をするのですが、全く写さない時も多々ありました。その理由はその時には分かりませんでした。
二時間ほどで、睡蓮と鯉だけでフィルム一本撮影し、翌日には現像ができ上がりました。そのポジを見て、私はシニアカメラマンの方々の行動の意味を知ることになりました。まず、私のコマには、水面に浮かぶ木の小枝が写っていて台無しの物が幾つかありました。そしてもう一つ、鯉は確かに写ってはいるのですが、鯉の向き大きさが、花や葉とは構図的なバランスの取れていない写真が大半だったのです。シニアの方は専用飛び道具(釣竿+ゴミ取りネット)を用意するほどですから、相当に撮り慣れているのでしょう。きっと頭の中に鯉の構図も出来上がっていたと思います。それで、その通りの向きと大きさに鯉が来たときにだけ連写を繰り返していたのだと思います。一方の私は、鯉がどの様な動きをするのか予想できない、と言う前提の下に、鯉が来ただけで連写してしまいました。また私の連写はブラケッティングも同時にしていたので、構図は良いのに露出がダメと言うコマも結構ありました。結局の所わたしはフィルムの無駄遣いを繰り返しただけのようです(授業料と思いましょう・・・トホホ)。
この日の教訓、睡蓮と鯉の写真を撮るコツ
1 鯉の回遊するルートを見つけ、そのルート上の睡蓮を探す。
2 スイレンの花の周りの葉は、多すぎてはいけない。
3 水面のゴミに気を配る。
4 鯉の構図を予め想定する。
5 露出は予め決めておく(スポット測光で花を計り、適切なプラス補正)
6 構図が完璧になった瞬間に、モードラの威力を最大限に発揮させ、連写!
このコツを実証するには、もう一度撮影に出かけなければならないなぁ...
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