F3.5という絞り値が、1/2段系列のカメラだとF2.8から1/2段暗いだけなのに、1/3段系列のカメラだと2/3段も暗い値となってしまう。このパラドックスが私はとても気になります。その理由を今度は逆にF4側から語りましょう。F3.5はF4側から見ると1/2段系列のカメラでは1/2段明るいですが、1/3段系列のカメラでは1/3段しか明るくなりません。
1/3段か、1/2段か、これは結構大きな差です。例えば段階露出をした場合、1/3段だと露出の変化はとても微妙です。それが1/2段になるとかなり明瞭になり、2/3段だとはっきりと差が出ます。これは手持ち撮影でシャッタースピードを稼ぎたいときにも大きな差になります。1/3段違いのスピード差はあまり気になりませんが、1/2段だと画然と「遅いなぁ」というスピード差になり、2/3段も違うと手持ち撮影を諦めなければならないような差になります。つまり私には、絞り値の違いは1/2段の違いからが問題であって、1/3段の違いは味付けの違いにしか過ぎない、という感覚があるのです。これには個人差があるでしょうから、ここから先は「1/3段の違いに実用的な差は少ない」という視点で語らせていただきます。異論のある方は申し訳ありませんが読み飛ばしてください。
F1.2、F1.8、F3.5、これらの絞り値はそれよりもひとつ暗い絞り値から1/3段しか明るくありません。しかしその1/3段の違いを得る為に、レンズの方は大きく高価になっている例が沢山有ります。
典型的な例をひとつ挙てみましょう。私はいずれ85mm単焦点レンズが欲しいと思っています。EOSの場合は選択肢はEF85mm
F1.8とEF85mm F1.2Lです。ここでちょっとキャノンの枠を飛び越えて、コンタックス・プラナー85mm
F1.4とペンタックスFA85mm F1.4(あるいはミノルタ85mm F1.4G)を選択肢に加えてみましょう。もちろんこれらのレンズを使うには各々のメーカーのカメラを買わなければ使えません。これらのレンズの中古相場は:
EF85mm F1.8 USM 30000〜35000円
EF85mm F1.2L USM 98000〜120000円
Planer 85mm F1.4(J) 50000〜55000円
Pentax FA85mm F1.4 50000〜55000円
ぐらいでしょうか。私がまず気になるのが価格差。2/3段も明るさの違うEF85mm
F1.8と、プラナー、ペンタックスのF1.4のレンズとの価格差が2万円ぐらいで、一方でF1.4のレンズから見て1/3段しか明るくないEF85mm
F1.2Lが更に5万円以上高いと言う事です。明るさ以外のレンズの性能は、各レンズそれぞれが銘レンズと言われるだけあって特徴があり、どれも捨てがたい物があります。敢えて言うならEF85mm
F1.2Lのボケ味(ボケの大きさではなく)はあまり良い物ではない事が気がかりな点でしょうか。これは大口径EFマウントを最大限に活かした最後群レンズの径に理由があると思います。85mm
F1.2の最後群レンズはバヨネットマウント・ギリギリの大きさがあり、結果的にレンズ側の電子接点は最後群レンズの上に被いかぶさるように配置されています。これではボケの形が綺麗な円形にはなりません。別に丸ボケだけがボケ味ではありませんが、ミノルタあたりがしきりに円形絞りにこだわるのは、ボケの美しさを追求した故です。キヤノンはボケ味に対しては全くもって無頓着なのです。
さてEF85mm F1.2L USMを使う意味は何でしょう。一つあるのは格好良さ。これは認めます。しかし明るさは実用上大差無い1/3段しか違わず、価格が5万円以上違うなら、コンタックスの中級機の中古ボディを買い足しても、プラナー85mm
F1.4を買う方が得ではないかと私は思ってしまいます。
もう一つの例を取り出しましょう。これはちょっと極端な例ですが、旧型となったEF500mm
F4.5L USMと、新型のEF500mm F4L IS USMです。重さと値段(定価)は、旧型が3kg丁度で77万円、新型が3.9kgで98万円です。手ぶれ補正を除けば1/3段の明るさ改善でこれだけ高く、重くなってしまいました。新型はマグネシウムを多用していますので(サンニッパの方はISがついて、なお295gの軽量化が計られています)、もし開放値をF4.5のままにしていたら、重さは2kg台半ばに収まったはずです。手持ち撮影も可能な超望遠として重宝された旧型の特徴は、新型では失われてしまいました。明るさの改善はたったの1/3段だけです。さて、500mmを必要とする人にはどちらが良いのでしょうね。
実はこの様な考えは、1/3段系列のカメラを買って、絞り値のパラドックスに気づくまではありませんでした。1/2段の絞りの違いがあるなら(この違いは結構大きい)、この様な考えには至らなかったでしょう。
個人的には中間絞りの開放値表示のレンズには余りこだわらない様にしたいと思います。やっぱりレンズは古来からある一段単位の、F1.4、F2、F2.8、F4に限るかな(笑)。
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