このつぶやきは改訂しました。当初「露出補正の誤った知識」という題で掲載したのですが、その後その知識に誤りが指摘され、確認されたのです。さてさて、KENは何を間違ったのか....推理ゲームをしてみたいと思います。まずは最初のつぶやきをお読みください。その上で誤りの内容と訂正について語りたいと思います。
露出補正の誤った知識
某誌のEOS7の新製品記事に以下の文章がありました。
「露出補正は1/2EVステップでプラスマイナス2EVまで設定可能だ。1/3EVステップ幅を選ぶことは出来ないが、ISO感度を変更する方法を利用することで補正は不可能ではない。」
また、かなり前に某カメラ関係の掲示板の書き込みで、
「1/2段の露出補正と1/3段のISO感度補正の組み合わせで、1/6段の補正も可能...」
というのもありました。
おいおいおいおい!プロもハイアマも何か勘違いしている!
結論から言いましょう。1/2段ステップでしかシャッター、絞りを制御出来ないカメラでは、何を如何様にしようとも1/2段の倍数以外の露出補正は出来ません。同様に1/3段ステップしか使えないカメラでは、同様に1/3段の倍数以外の露出補正は出来ません。
この証明にはまず、露出補正の原点となる標準露出の定義が必要です。ここで標準露出とはカメラの露出計がはじき出した適正露出となるシャッタースピードと絞り値の組みわせとします。これは例えば「1/125秒、F5.6」という様な組み合わせです。
さて、いまここに1/2段刻みでシャッターと絞りを制御するカメラがあるとします。現在適正露出値として1/125秒とF5.6という組み合わせの露出値を表示しています。装填しているフィルムの感度はISO100です。ISO感度は1/3段刻みで設定可能です。
さて、このカメラがはじき出した標準露出「1/125秒、F5.6」という値に対して、どのようにしたら1/3段プラス補正した露出を与えることが出来るでしょうか。考えてください。選択できるパラメーターは以下の通りです。
フィルム感度;...200、160、125、100、80、64、50、40、32、25...
シャッタースピード;...1/250、1/180、1/125、1/90、1/60、1/45、1/30...
絞り値;...F11、F9.5、F8、F6.7、F5.6、F4.5、F4、F3.5、F2.8...
勘の良い人はここでおわかりだと思いますが、このカメラで「1/125秒、F5.6」という露出値から1/3段プラスに振った露出の組み合わせは上記のパラメーターの中に無いのです。
「いや、そんなはずは無い!ISO感度を80にセットすれば良いのだ!」と思われた方もいらっしゃるでしょうね。では質問、その時、カメラには何が起きるのでしょう?
答えは二通りの現象しかありません。話を簡単にするために、絞り優先AEだとします。つまりF5.6は固定として、シャッタースピードのみが変化します。ISO感度を100から80にした場合に起こり得ることは、
1. シャッタースピードが変化せず、1/125秒のままを表示する。
2. シャッタースピードが低速側に動き、1/90秒を表示する。
このどちらかが、1/3段プラス補正の結果になるでしょうか?いいえなりませんね。1は露出補正無し。2は1/2段のプラス補正なのですから。
ではISO100のフィルムを、ISO80で撮影することの意味はなんでしょう。これは「撮影全コマの平均値として、1/3段明るめにする」と言う事になります。個々のコマは、ISO100で撮影した場合と同じ露出のコマか、それよりも1/2段明るいコマかのどちらかで、それぞれの比率は確率的に1:2になります。だから総平均としては0(補正無しのコマ)x1/3(全コマ数に対する比率)+1/2(半段プラスのコマ)x2/3(全コマ数に対する比率)=1/3(プラス寄り)となるのです。なぜこの様になるのかを説明しだすと難解になりますのでやめておきます。が、確率的には必ずこうなります。
ISO値変更で、平均として露出傾向を変更出来たとしても、露出補正とは本質的に個別のコマに対して行う操作です。平均値の問題ではありません。従って「1/2段制御のカメラでの」ISO値変更は露出補正にはなりません。ここで赤字&カッコを付けた意味は、1/3段制御のカメラだと、ISO値変更もまた露出補正になってしまうからです。う〜ん、ややこしいですね。
1/2段制御のカメラで、1/3段刻みの段階露出をしようとして、フィルム感度を100、80、64と言うように変化させて撮影する。これがまさに「某誌」の記事が示唆していた事ですが、この結果が所詮1/2段系列の段階露出にしかならない事はもうおわかりでしょう。
露出の原理はこうです。
「ある感度のフィルムに対して、露出は絞り(注)とシャッタースピードのみで決まる。それ以外のパラメーターは露出値をはじき出すための参考値であり、最終露出には直接関与しない。」
だから、絞りとシャッターを1/2段でしか制御出来ないカメラで1/3段の露出補正は不可能なのです。1/3段のみのカメラでの1/2段の露出補正もまた不可能です。
(注)ここで言う絞りとは正確には撮影時のレンズの明るさの事で、レンズ繰り出し、フィルターなどによる露出倍数を含みます。ND1/3とか言うフィルターがもしあれば1/3段露出補正も不可能ではありませんが、現存していませんね。実用的で無いからでしょう。ストロボ撮影の場合の露出はストロボ側の制御でも変化し複雑になりますので、ここでは考えないことにしてください。
質問があれば、掲示板にどうぞ!
さて、誤りがお判りになりましたでしょうか?
実は「言葉を厳密に」捉えた場合、誤りはたった一箇所だけです。それは「ND1/3とか言うフィルターが現存していない」という意味の部分です。実はフジフィルム製のプロ用シートフィルターに露出倍数1/3のNDフィルターがあります。友人の「ま」から教えてもらいました。
しかし、それだけならここまで改訂する必要などありませんね。私の実質的な、より大きな間違いは、1/2段ステップでコントロールするカメラの全てが「シャッターも1/2段でコントロールする」という前提を暗黙の内に置いたことです。オリンパスOMー1など電子シャッターを採用した初期のカメラには無段階シャッター制御があるのは知っていましたが、それは昔だけの流行りだと思い込んでいたのです。実はいろいろ調べると、最新機種でも絞り優先AEの時にシャッター速度が無段階(もしくは実質的に無段階に相当するような多段階)で制御されるカメラが多数あったのです。ニコンとペンタックスの一眼レフの殆どはその制御をしていました。これらのカメラなら、ISO値の変更で、1/2段制御のカメラでも絞り優先AE時に1/3段の露出補正、AEB撮影が可能です。ということで、私が1/2段制御のカメラでは何を如何様にしても1/3段の露出補正は出来ない、と断言したのは誤りですし、冒頭にある「1/2段の露出補正と1/3段のフィルム感度補正で1/6段の露出補正も可能」という文章は、ニコン、ペンタックスなどの無段階制御のシャッターを持つカメラの場合は正しいことになります。
ちなみにこの誤りは、ニコン愛用者の「M」から教えてもらいました。
一方で、私の愛用しているキヤノンEOSと現在カタログに載っているミノルタαシリーズは、1/2段制御のカメラの場合にシャッターも1/2段制御となり、中間速度は使えません。ですから、つぶやきに書いた様にISO値の変更では1/3段の露出補正、AEB撮影は不可能です。フィルム感度の変更でEOS7で1/3段露出補正が可能と書いた某雑誌編集者は、従って間違いを犯しています。
もう一つの可能性、あるいは興味として、シャッタースピード優先AEの時に、絞りを無段階に制御するカメラがあれば、シャッタースピード優先モードでもISO値の変更により1/3段の露出補正が可能になることがあります。その様なカメラがあるのかどうか、実は謎です。その様な一眼レフがあったら教えてください。灯台もと暗しで、私の持っているコニカFSー1あたりがデジタル制御シャッター優先AEを使っているような気もしますが....説明書もカタログもがないので判りません。
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