皆さんの中で、撮影時のデータをキチンと記録している人はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。ここでいう記録とは、記憶で済ますことではありません。撮影直後にキチンとメモに残すと言う事です。
私はポジ初体験撮影の際の二本を除いて、全てのポジ撮影データをメモ帳に記録しています。私の娘は最初にポジを使い出したときからデータを記録するように躾けられたため、やはり全てのポジ撮影データを残してあります。さすがにネガの時にはデータを残しませんが(あまり意味が無いので)、ネガ撮影は一年に1〜2本あるかないかです。
データを記録するなんて面倒臭い!という声が聞こえて来ますが、慣れてしまえばさほど面倒な物ではありません。いわば車のシートベルトのような物で、最初は面倒かも知れませんが、慣れてしまえば却ってしない方が不安になるような性質の習慣です。小学生の娘(私の娘は今中学生ですが、ポジを初めて使ったのは小学校6年の時です)でも出来ることですから、大人のあなたが出来ないことはありません。
私の記録方法をご紹介しましょう。
メモ帳は胸ポケットに入るサイズのリングノート状のもので、縦に開く物を使います。リングノートにする理由は、データを記入するときに他のページを完全に折り返せるので邪魔にならない事と、後でページを切り離してスリーブと一緒に保管するのに便利だからです。縦に開くノートを使う理由はリングがノート上部にあるので胸ポケットへの出し入れで引っ掛からないからです。普通の横開きのノートだと出し入れの際にリングがポケットの縁に引っ掛かってしまいます。
データはフィルム一本につきメモ帳1ページ(表裏)に記録し、現像が仕上がったらメモ帳から該当するページを切り取りスリーブと共に保管します。ページの先頭には撮影開始日、撮影開始時の被写体、カメラ、フィルム名を記入します。そして1〜3コマ撮影を終えると、コマ番号、レンズ、焦点距離(ズームの場合)、絞り(絞り優先AE、マニュアルの場合。シャッター優先AEの場合はシャッタースピード)、露出補正値(AEの場合、マニュアルの場合はシャッタースピード)、AE時のシャッタースピード(シャッター優先AEの場合は絞り)、その他の注釈、例えばAEロック使用とか、スポット測光を使ったとか、ストロボ使用、調光補正の有無などです。これらを略号、略数字で記入して行きます。例えばこんな感じです。
9/20 ネコ 55 RVP
1,2 90 F2.8
+1(125), +1.5(90)
3〜5 70-200 (135)
F4 0(125), +0.5(90), +1(60), spot AEL
6,7 28-105 (28), F8, 90 (-1EV),
ストロボ+1EVx2
この意味は、最初の行が撮影開始日9月20日、最初のコマの被写体がネコ。カメラはEOS55、フィルムはベルビアです。
2行目は;コマ番号1と2、レンズはタムロンマクロ90mmF2.8、絞り開放(F2.8)、絞り優先AE、露出はコマ順に+1補正、シャッタースピード1/125秒、+1.5補正1/90秒
3行目は;コマ番号3〜5、レンズはシグマ70-200mm
F2.8 EX HSMで135mm域で使用、絞りF4、絞り優先AE、露出はコマ順に補正無し1/125秒、+0.5補正1/90秒、+1補正1/60秒、いずれもスポット測光でAEロック使用
4行目は;コマ番号6と7、レンズはEF28-105mm
F3.5-4.5を28mm域で使用、絞りF8、マニュアルモード、シャッター1/90秒でこれは測光値に対し-1EV相当の露出値。ストロボを調光補正+1EVで使用。それを同一露出値で2枚撮影。
という具合です。大体一行2〜3コマ分のデータを記録するのに要する時間は10秒程度です。短い時間で立ち姿勢で書きますからそのデータを記述した文字は恐ろしい乱筆です(笑)。
撮影データを記録するメリットには次のような物があります。
第一のメリットは、コンテストに応募したりホームページに掲載する際に、ウソ偽り想像の無いキチンとしたデータを記載できます。しかしこれだけなら皆さんに撮影データ記録をお勧めするには不十分でしょう。
第二のメリットは、ポジの現像が出来上がった後で露出の復習が出来ることです。あるコマの撮影に際して何をしたのか全て記録に残っていますので、成功も失敗も次のステップに向けた礎とすることが出来ます。この様な復習は極めて有益で、例えば被写体別の露出補正とか、絞り(ホケ、被写界深度)、シャッター速度(ブレ具合)のありかた、段階露出する場合の露出ステップの適正値などが手を取るように判ります。また撮影に出かける前に前回同じような被写体を撮影した時のデータとポジを見直すことで、その日の露出方針みたいな物も確認できます。
第三のメリットは、撮影に際して注意力が格段に高まることです。過去の復習から膨大なノウハウが蓄積されていますから、ある程度成功するポイントへの露出コントロールを意図的にするようになります。それから撮影した瞬間の露出値(絞り、シャッター)をしばし(メモ帳に記入するまでの10数秒)覚えておかなければなりませんから、ファインダー情報に対する注意力が高まり、小さなミスを未然に防ぐことも出来ます。
最近、撮影データを自動的に記録してくれるカメラが増えつつあります。コマ間記録や内部メモリー/スマートメディアへの記録など様々です。これは多くの人にとって福音で今後この機能の無いカメラは売れにくくなるでしょう。段階露出機能に続く次世代カメラのスタンダードになると個人的に思っています。しかし...それでもなお私はメモ帳によるデータ記録をお勧めします。データ自動記録だと第一のメリット(コンテスト等へのデータ記載)と第二のメリットの「一部」しか享受出来ないからです。自動記録方式は撮影者の「意図」までは記録されません。メモ帳の場合は必要な情報を必要とあらば全て記録できます。またメモ帳方式は「記録しなければならない」という目的感から、撮影者の一つ一つの露出操作に格段の意図と注意力が生まれます。自動記録では後でデータを見て「あ、そういうシャッタースピードなの?」と恐らく思うだけでしょう。
撮影データを記録していてシャッターチャンスを逃すことが無いのか?...ありますよ(笑)
要はバランスの問題です。フィルム一本を数分で撮影するような状況では私でもひとコマづつのデータは残していません。例えばApendix
Galleryにあるビックリシャワーの写真を撮影した時のあるフィルムのデータを記載したメモ帳には
9/17、丘陵公園水遊び、EOS3、RVP
70-200, F2.8, +0.3, 1000〜
とだけ書かれています。このフィルム(ベルビア)の36コマ全てが
EOS-3, Sigma AF70-200mm F2.8EX HSM, F2.8,
+0.3EV補正で撮影し、シャッタースピードは1/1000秒前後が多かったという意味です。このデータはフィルムの交換時に記載しました。
被写体が目まぐるしく変化して、一瞬のチャンスを物にするような場合にはデータ記録に完璧は狙いません。しかし大切なことは、それでもなお判る限りのデータはメモ帳で残すと言うことです。一旦これをサボったら、次からのんびりした撮影でもサボるでしょう。その場での記録を怠ると後でデータを思い出すことは40を過ぎると極めて難しくなります。だから皆さんも40を越える前に習慣としてのデータ記録を身に付けた方が良いですよ(笑)
撮影データを記載したメモ帳の切れ端(左)と、そのスリーブ袋。
スリーブ袋には通し番号、撮影日、撮影内容、カメラ、フィルム名を記載している。
データはこのスリーブ袋の中に入れて保管する。
|