前回つぶやきからの続きです。
10. 何を撮っても図鑑写真...
別にこのレンズに限らず、初めてマクロレンズを手にした人が撮影する写真は単純に物を大きく写しただけの図鑑写真になりやすい物です。それで色々な作例を見ながら勉強して、図鑑写真でない作品を作り上げて行くようになります。ある人が私を語る言葉に「KENの目の視野がマクロレンズになっている」というものがあります。これはタムロンマクロで数多く撮影を繰り返した結果身についた物です。マクロレンズに限らず、あるレンズなりの視野をカメラマン自身が持てるようになると、撮影する前に作品のイメージとレンズの関係が掴める様になると思います。
しかしこのレンズは人間の視覚を遥かに越えています。5倍という撮影倍率はグラニュー糖が氷砂糖に見える倍率です。その視野に慣れないと何を撮っても図鑑写真になってしまいそうです。このレンズに相応しい視野を身に付けるためには、シャーロック・ホームズ同様に虫眼鏡を持ち歩くことが必要かも知れません。
もう一つの図鑑写真への落とし穴がマクロストロボです。このストロボを用いると常に順光無影撮影になってしまいます。片側発光などの機能もありますが多少影が出来るだけでほとんど役に立ちません。これを解消する術はオフカメラシューコードを用いて外部ストロボを併用することです。外部ストロボだけだと正面が逆光になって超スローシャッターを使わない限り暗く落ちてしまいます。だからマクロストロボとの併用多灯撮影が必要なのです。MLー3には光量調整がありませんので、マクロストロボと外部ストロボの光量比調整はストロボ同志の距離とガイドナンバーの違いなどによるカンに頼ることになります。しかしこれは大変です。既にマクロスライダー、マクロストロボなどを装備した上で追加のストロボを持つことは、一人ではとても困難です。550EXの調光範囲は最短50cmであり、それだけ被写体から引き離して持つ必要が出ます。しかし取扱説明書にはシャッターを押すときにファインダーから目を離すなとあります。アイピースからの逆入光で露出が狂うのです。それを防ぐアイピースシャッターはEOS1シリーズにしか装備されていません。助手が欲しくなりますね。
それでもこのレンズでしか撮れない写真が沢山ある!
このレンズ、見かけは一般のレンズと大差ありません。それに惑わされているからこのような「ジャジャ馬評」が生まれるのでしょうね。もともと等倍以上5倍などと言う撮影領域はベローズとマクロフォトレンズの世界です。つまりこのレンズはベローズ内蔵マクロフォトレンズだと思えば良いのです。実際の名前もMPーEです。MPはもちろんMacro
Photoの略、最後のEはAE可能なレンズに与えられる記号です。ベローズレンズだと思うと、ある意味使いやすいレンズかも知れません。少なくとも開放測光絞り優先AEの出来るベローズを私は知りません。それだけでも大いなる進歩でしょう。レンズの見掛けに騙されない頭の切り替えが必要ですね。
このレンズのファインダーを覗いていると新しい発見が沢山あります。このレンズでなければ撮れない写真が沢山ありそうなのです。しかし使いこなしはとてつもなく難しく面倒で目的を持って取り組んで行かないと無用の長物になるレンズです。最近中古をぼちぼち見かけるようになりましたが、Lレンズを沢山買い揃えられる様な人が何げなく買ってしまい、全く使いこなせずに手放すのでしょう。私の入手したレンズもその様な運命を辿ったレンズなのだと思います。これから無用の長物にしないように挑戦して行きたいと思います。
ところでこのレンズ、EDレンズを用いているのにLレンズではありません。キャノンのこれ迄のルールでは研削非球面レンズかEDレンズ、蛍石レンズを用いたレンズはLレンズでした。なぜこのレンズだけL扱いでは無いのでしょう?価格は十分にLレンズ並みです。第一群レンズ径が20mmしか無いレンズなのに138000円もしますから、価格÷第一群レンズ径ではEF1200mm
F5.6に次いで高いレンズかも知れません。恐らくは高倍率撮影時の画質がLの基準に達していないのでしょうか?
MP-E 65mm F2.8 作例写真
|
まず最初はタムロン90mmマクロによる写真です。被写体はヒネムノキの花。撮影倍率は1/3倍ぐらいでしょうか?通常のマクロレンズで撮るとこの様な写真になりますが、MP-E
65mm F2.8は等倍以上でしか撮影できませんので、この様な「普通の」写真は撮れません。
EOS3, Tamron SP-AF 90mm F2.8 Macro, F2.8, AE(+0.3EV補正,
1/40sec.), RVP |
|
MPーE65mmによるヒネムノキの花。撮影倍率は3倍です。このレンズではウニの様に球状に拡がったシベを写しても点在する点にしかなりません。中心の白い物にピントを合せました。薄曇りの日の温室内ですが、この倍率だとストロボ無しでは撮影不可能です。
EOS3, MP-E 65mm F2.8, Manual Mode, F8, 1/4 sec.
(-2EV相当), RVP, ストロボ550EXを右上から照射。調光補正無し。撮影倍率3倍。 |
|
これはあまり大きくないベゴニアの花です。撮影倍率2倍で撮影していますので、この写真ですら普通のマクロレンズだと2倍テレコンにお世話にならないと撮影出来ない世界です。温室の床に散って落ちていた花をひろって、陽のあたる所において撮影しました。太陽光が直接あたっているので、なんとかストロボ無しで撮影できています。
この倍率で見ると、ベゴニアのシベって妖艶ですね。
EOS3, MP-E 65mm F2.8, F16, AE(+1.0EV補正 , 0.8
sec.), RVP, 撮影倍率2倍 |
|
同じ花を撮影倍率5倍で撮影しました。露出倍数がかかり俄然スローシャッターになります。撮影には三脚、マクロスライダー、ケーブルレリーズ、そしてミラーアップを使っています。この写真はF8で1秒のカットです。F16まで絞って4秒で撮影したカットはミラーアップをしたにも拘わらず微妙にブレてシャープさに欠けていました。ブレない写真を撮るのが極めて難しいレンズです。
このカットを撮るときにプレビューで被写界深度を確認しようとしましたが、太陽光があたっているのにも拘わらずファインダーが真っ暗になるだけで殆ど何も見えませんでした。F16の時の実効F値はF91です!。
ホームページ上では分かりにくいですが、花粉のひとつひとつがシャープに捉えられ、人間の視覚を越えた妖艶な美しさを醸し出しています。この倍率での撮影は屋外ではまず不可能でしょう。散った花を温室内のコンクリートの台の上にのせ、太陽の光を直接あてて撮影しています。それでも被写界深度を稼ぐべくF8に絞ると1秒というシャッター速度になるのです。屋外の草木に咲いている花だと確実にブレてしまいます。
EOS3, MP-E 65mm F2.8, F8, AE(+1.0EV 補正, 1sec.),
RVP, 撮影倍率5倍。 |
|