♪♪♪ 今回もドキュメンタリータッチの口調で...(^^) ♪♪♪
10月7日午前3時、枕元で目覚ましが鳴った。慌てて右手で目覚ましを止めて、まずは起き上がってみる。いつもは布団の上で血液が体内に巡り出すのを七転八倒、うごめきながら待つのだが、この日は起き上がってしまった。睡眠時間は2時間半。ね、眠い!それに血液が脳の方にまだ巡っていないのか、思わずめまいがする。
早起きは最近の4週末で3回目だ。3週間前が午前5時起きで彼岸花撮影とコスモスの偵察、2週間前が午前4時起きで早朝コスモス撮影。先週はその2週末で撮影した写真のスキャニングで週末をつぶした。そして今日は午前3時起き。起床時間が1時間づつ早まっている。就眠時間は0時半ぐらいで一定なので、この調子で行くと次々回は睡眠時間がほぼゼロになってしまう計算だが、そこまでの体力は無い(^_^;
今回の撮影目的は三次盆地の霧の海である。私にとって初挑戦となる被写体だ。地表の霧とは違って空の霧は日の出と共に大きく変化することが予想出来る。だから夜明け前から現場にいないと、良い情景には恵まれないと考えた。遅くとも日の出1時間前には現場にいたい。それで午前3時起床となった。
何を着てゆくか迷った。天気予報によれば最低気温は先々週の早朝コスモス撮影の時ほど低くはない。庄原で8度の予想。先々週は6度だった。私の部屋も2週間前ほどには寒くない。しかし今回は山の上だ。油断大敵。それで長袖の綿のシャツにセーターを着て、更にやや薄手のジャンパーを着込んだ。私にとって晩秋や、やや暖かくなりだした晩冬の頃の衣装だ。
服を着て、洗顔し、眠気覚ましの「チオビタ・ゴールド」を一気飲みした。カメラ機材は寝る前に準備してある。500ミリズームが入って一段と重いカメラバッグと、三脚であるマンフロット055CBを持って玄関の扉を開けた。やはりさほど寒くはない。
良い天気だ。空には星がきらめき、雲は無い。午前3時25分、まだ新聞配達の人も来ていない。クルマに乗り、エンジンをかける。温度計を外気に切り替えると17度をさした。天気予報どおり、先々週よりも2度高い。そして走り出す。午前3時過ぎというのは夜の延長、一日の終演の前なのだろうか?クルマや歩行者を結構見かける。丁度1時間遅く出発した先々週には無かったことだ。三次に通じる県道に出るまでの10kmはドライバーの暖気運転なので、比較的ゆっくりと走る。その間に走行風を受けたクルマの外気温計はどんどん下がり、みるみる11度まで下がっていった。
やがてT路地を右折し広島市内から三次まで通じる県道に入った。ここからは道幅も拡がり、例によって都市間横断運転モードに切り替わる。眠気も消えてきた。しかし、対抗車が先々週よりも多い。やはり午前3時過ぎというのは人々にとってまだその日の終演前の時間の様だ。
星空が先々週同様に綺麗だったが、霧の海を撮影に行く身としては、霧が出ているかどうかの方に関心がある。向原を過ぎて吉田分れに近づいた頃、心配された霧が出てきた。これで一安心だ。
午前4時20分に三次駅に着く。これからトイレの無い山の上に向かうのでトイレを借りる。しかし時間が早すぎたのか照明がついていない。それでカメラバッグの中から懐中電灯を取り出しトイレを済ませた。残念ながらまだ駅舎は閉まっていた。10月1日にダイヤ改正があったので時刻表の新しいものを入手したかったのだが、それは出来なかった。
三次駅を後にして目的地に向かう。三次の霧の海と言えば三次市西部にある高谷山が全国的に有名で、朝のNHKの全国版ニュースでも最近放映されたばかり。しかし高谷山の入口看板をやり過ごし、私は別の場所に向かった。高谷山を訪れたことのある友人M氏の報告によれば、頂上に向かう道は狭く、頂上付近に駐車スペースも多くは無いそうだ。にも関わらずNHKのニュースで放映されたときには、頂上は多数のカメラマンでごったがえしていた。そんな所に小回りのきかない私のクルマで乗りつければ面倒な事になりそうだからだ。インターネットで調べてみれば、薄明の始まる前までには着かないと三脚の立てる場所も無いぐらい混雑しているという。私はそんな所は嫌いだ。
目的地は2年ほど前に地元の人に紹介してもらった「秘密の場所」である。そこに上がる道はマップルにも掲載されていない。国道から細い林道に入り登って行く。対抗車が来てもすれ違うことの出来ない細い道だ。10分ほど林の中の道を登りつづけて、突然視界が開けた。頂上付近である。眼前には雲海(霧の海)が見えた!「やった!」と思わずつぶやく。
頂上付近に1ヶ所だけあるクルマの退避スペースにクルマを止めて、懐中電灯だけを持って歩いてみる。半月を過ぎた月がほぼ真上に有り、山の上を照らしていたので、懐中電灯が無くても足元が見え、また周りの景色も見えた。霧から上は快晴で雲は無い。高層に雲のある方が朝焼けが綺麗なのだが、こればかりは自然相手なので文句も言えない。クルマを停めた場所の視界は南に開けているので、太陽が登る東の視界がよく見えるところを探す。しかしコンパスは持っていない。どうやって東を判断するか?その場であれこれ方法を考えてみて、一つ思いついた。月の形は太陽のある方向から引いた線に線対称の形をしている。だから月の形を見て、その対称軸を伸ばした地平線が太陽の登る場所の筈だ。そこにはひときわ明るく輝く星(多分水星)が輝いていた。その星を頼りに、景色がよく見える場所を探した。そして撮影ポイントを決める。
一方の霧の海は、私の予想と異なる状況を呈していた。一般的に雲海の写真を見ると、みな頂上よりもやや下の方に雲海が有り、山の頂上は見えているものだ。しかし今日の霧の海はとても量が多く厚く、隣の山以外の山々をことごとく覆い隠していた。これでは絵になりにくい...
だけど月明かりがあるので、まずは月に照らされた雲海と星野を交えた写真を撮ろうと思い、クルマに戻り、機材一式を持ってくる。そして三脚とカメラをセットした。しかし、露出を計り撮影準備が整って撮影しようと思った頃に異変が起こった。星が消えて行くのだ!なんと霧が私のいる場所を襲ってきた。そういえば、カメラのセットをしている時に既に隣の山は霧に呑み込まれていたっけ。
辺りは真っ白になってしまった。濃霧である。その場でじっと霧の晴れるのを待つ。ふと気づくとカメラや三脚が結露し始めていたので、レンズとアイピースに手持ちのレンズ袋を被せて結露を防ぐ。この様な道具は特に用意していなかったので、手持ちの機材で急場しのぎをするのだ。緊急事態には思考回路が全速回転する。
時折霧が薄くなると、霧の海の様子が見える。それは大きな生き物のようにうごめいていた。ふと冷静になると風を感じた。コスモス撮影の時には、朝霧のある朝には風が無いと思ったのだが、空の上は別の様だ。常に風が吹いている。そよ風とは言い難いほど存在感ある風だ。それに乗って霧が大きく形を変え移動していた。
風の吹く山の上、しかも霧の中。とても寒い。私はポケットに手を入れて、震えながら待つが、一向に霧の晴れる気配が無い。薄明が本格的に始まったのか、既に辺りは明るくなり始めていた。とうとう寒さに耐えかね、機材を持って一旦クルマに引き揚げる。そして霧の晴れるのを待った。
しばらくすると、結露したバックウィンドウが明るく輝くのがルームミラーに映った。外に出てみると霧が晴れている。それで急いで機材を持ち、撮影ポイントに行く。霧は相変わらず厚く、周りの山を覆い隠している。既に日の出の時刻を過ぎていたので、空はうっすらと焼けているだけであまり色気がない。太陽は霧に隠されてまだ顔を出していない。
目の前の情景にあまり感動は無かったが、取り敢えず撮影する。霧は相変わらずうごめいており、隣の山も姿を見せたり隠したり。そんな霧の動きを予測しながら構図をつくり、急いで撮影した。その時に風向きが先ほどと変わっていることに気づいた。眼前の霧の方向からこちらに向かって風が吹いている!やがて眼前の霧がみるみる大きくなり、私の方に向かってきた!それが霧とわかっているから良いようなものの、結構な迫力である。巨大な津波にスローモーションで呑み込まれて行く様な感覚、と言えばわかりやすい。そしてまた霧の中....(トホホ)。
しばし待つとその霧はまた晴れた。そしてすっかり白くなった太陽が霧の間から顔を出した。その太陽を入れてまた何枚か撮影する。しかしあまり気乗りする情景ではない。
このまま暫く待っていれば霧は完全に晴れ、その過程で遠くの山まで見え出して、霧と山肌のハーモニーが作る良い景色に恵まれるかもしれない。しかし私は機材を片づけだした。下界に霧の残るうちに風景を撮っておこうと思ったのだ。
その時に軽トラックが通りかかり、運転手のおじさんが声をかけてくれた。
「良い物が撮れましたか?」
「ええ、まあまあです」
「そうですか。霧は動くけぇね」
「10本撮っても、良いのは1枚あるかないかですからな」
「そうなんですか」
その運転手さんは霧の写真の腕に覚えがあるようだった。その人の言葉に、霧撮影の奥深さ、要求される根気を感じとった。
今回の撮影枚数はフィルム1本にも満たない。先々週よりも1時間も早く起きて来たというのに、量的にも質的にも手ごたえのある撮影は出来なかった。
「早起きは三本の徳」とは限らない様である。
とは言えまだ午前7時頃。新たなる被写体を求めて林道をクルマで駆け下りた。
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うごめく霧に呑み込まれてしまった中で、霧の晴れるのをじっと待つ。低温に加えて霧の湿気でカメラや三脚はどんどん結露してゆく。霧が晴れたらすぐに撮影できるように、手持ちのレンズ袋でご覧のようにレンズとアイピースをカバーした。これはカメラショップで売っている布製の蓋付きのレンズ袋である。急場のアイデアとしては良い出来だと思う。 |
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撮影場所の霧が晴れたときの霧の海の様子。ご覧のように物凄く量が多く厚い。本来は多くの山々が見えるはずなのだが、みな霧に呑み込まれてしまっている。名所・高谷山もこの霧の下にある。これでは写真にならない。
いずれもデジカメで撮影。 |
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