前田真三さんの写真集を見ていて思うことがありました。前田さんの写真はもちろん素晴らしいのですが、私が撮ろうとしても撮れない作品ばかりなのです。腕の違いは当然としても、前田さんの写真集にあるような構図がなかなか思いつかないのです。何故だろう?と考えて原因が分かりました。フィルムフォーマットが違うのです。前田さんの愛機は、ハッセルブラッドとリンホフテヒニカ。フィルムは前者がもちろん6x6で、後者は4x5と恐らくはロールフィルムホルダーによる6x12に近い横長の物があります(トリミングかも知れません)。私はEOSですからもちろん24x36mmで、縦横比は中判の6x9相当です。
このフィルムの縦横比の違いというのは写真撮影、特に構図において大きな違いを生みます。35mmカメラに対する中判、大判カメラの魅力には大伸ばしでも粒子が目立たないという解像度の高さもありますが、フィルムの縦横比の違いというのも有るのではないでしょうか?私は個人的に6x6の正方形にとても惹かれますし、6x7や大判の4x5(6x7.5相当)の縦横比には慣れていないせいもあり構図作りの難しさを感じます。
一方で作品の良し悪しに、大伸ばしプリント時に粒子が見えるとか見えないとかはあまり関係ないと思っています(心地よさは異なりますが)。作品の本質はやはり被写体と構図と光と色と露出、そしてそれらにより伝わってくるメッセージでしょう。それに一応現代の35mmフィルムの粒状性は全倍程度までなら個展などに使えますし、実際に35mmからの全倍プリントで個展をされている方も多くいらっしゃいます。だったら35mmカメラでも2:3(24x36mm)以外の縦横比が使えれば、それだけ写真の世界が広がるのでは無いでしょうか?中判、大判カメラは特に超望遠、超広角撮影を不得手としていますが、35mmカメラで縦横比が変更出来れば簡単に中判/大判構図で超望遠、超広角撮影に対応出来ます。異なる縦横比を得る為にわざわざ大きなカメラシステムを併有する事はある意味で無駄かも知れません。
そこで思いついたのが「逆パノラマ」カメラです。いわゆるパノラマカメラが24x36mmのフレームの上下をカットして横長画面を得ていますが、逆に左右をカットして、中判、大判同様の縦横比を実現するのです。主なフィルムフォーマットと縦横比を並べると以下のようになります。
フィルムフォーマット |
フィルムサイズ(公称) |
縦横比(縦=6) |
35mmフィルム上でのサイズ |
35mm |
24x36mm |
6x9 |
24x36mm |
中判6x9 |
6x9cm |
6x9 |
24x36mm |
大判5x7 |
5x7インチ |
6x8.4 |
24x33.6mm |
中判6x8 |
6x8cm |
6x8 |
24x32mm |
中判6x4.5 |
4.5x6cm |
6x8 |
24x32mm |
大判4x5 |
4x5インチ |
6x7.5 |
24x30mm |
大判8x10 |
8x10インチ |
6x7.5 |
24x30mm |
中判6x7 |
6x7cm |
6x7 (6x7.5*) |
24x28mm (24x30mm*) |
中判6x6 |
6x6cm |
6x6 |
24x24mm |
*注釈;掲示板の方に6x7の実際の縦横比は6x7でないとのコメントを頂きました。調べてみるとメーカーにより多少の差がありますが、実寸は56mmx69〜70mm程度で縦横比は1.25前後、つまり6x7.5となり4x5と同じになります。 |
こうして見てみると、横幅を24mmから36mmまで2mm間隔で調整出来れば、6x12などのパノラマタイプを除いてほぼ全てのフィルムフォーマットの縦横比が実現できます。
このカメラに対して幾つかの提案があります。第一の提案は、画面の縦横比を変えてもフィルムのコマとコマのピッチ(2つのコマの画面中心間の距離)は変更しないという事です。逆パノラマのアイデアはフジのTXー1や、ジナーのズームロールフィルムホルダーなどに前例があります。これらは横長のパノラマと通常のフォーマットにいつでも切り替えが出来、その際にはフィルムを送ったり戻したりしてコマとコマの間を調整して無駄を無くすようにしています。(ジナーはなんと6x4.5,
6x6, 6x7, 6x9, 6x12の5段階の切り替えが無駄なくできる!!)しかし35mmの逆パノラマカメラの場合に、これはいりません。コマとコマのピッチは通常の24x36mm撮影時のままで、単に露光エリアの横幅が狭くなれば良いと思っています。無駄を無くそうとして、画面サイズを変更する度にコマ間ピッチを調整していると、出来上がったフィルムは整理に困るからです。スリーブ仕上げにしても長さがバラバラになってスリーブ袋に入らなくなるし、マウント仕上げはひとこまずつサイズを判断して、そのサイズ用のマウントにマウントしなければならなくなるので、ラボが受けないでしょう。実際TXー1やジナーのズームホルダーで撮影したフィルムは「長巻き仕上げ」以外では受けてもらえません。ネガで撮影した場合は、99%が完全機械化されているネガプリントで、機械が対応出来なくなる恐れがあります。
一方でコマとコマのピッチを24x36mm撮影時と同じにしておけば、全て通常の24x36mmのマウントにマウントすれば作品になりますし、スリーブ仕上げも今までのままで可能です。但しカメラ側の工夫として、コマとコマの間の未露光部分の寸法がコマ毎に変化しますので、フィルムをカットする位置の目印をパーフォレーション部分に印字することぐらいは必要でしょう。これはデート機能、コマ間データ印字機能などを流用して、24x36mm撮影時のコマ間の丁度中間位置に目印を印字すると簡単に出来ます。
第二の提案はもちろん、縦横比変更によってファインダーの視野範囲はきっちり横幅調整されなければなりません。でないと構図が作りにくいからです。これもミノルタαスイートのパノラマにはある機能なので簡単でしょう。
ここで「24x36mmで撮影しておいて、後でトリミングすればいいのでは?」という意見が出そうですね。私にとって現像後のトリミングは、撮影時のフレーミングとは全く異なります。トリミングは撮影時には気づかなかった欠点を是正する為の手段です。撮影時にはトリミングの事など考えずに、その場でベストな構図を目指してフレーミングしているのです。だからこそ撮影時に、必要な縦横比の画面とフィルムが欲しいのです。
また、あらかじめプリントのサイズを想定しておけば、そのプリントと同じ縦横比で撮影するとで不本意なトリミングを避けることも出来ます。
「逆パノラマカメラ」によって様々な縦横比に慣れていれば、中判、大判にステップアップした時に迷うことなく最初から「素敵な作品」が撮れる可能性も高くなるでしょう。
どうでしょう?このカメラ、現存するカメラをベースにして(メーカーが)作るのにさほど手間はかかりません。どこかのカメラメーカーさん作りませんか?。特にデメリットの無いシステムなので、どこかのメーカーが採用すると流行疾患の様に伝染する機能だと思いますよ。 |