シグマAF70-200mm F2.8EX HSMは逆光性能が思わしくなく、頻繁に日の出、日没撮影する私には使う機会の限られるレンズでした。そこでキャノンEF70-200mm
F2.8Lに買い換えることにしました。価格と程度にはうるさいKENですので、いつものカメラショップは私の条件に合うレンズを数カ月かけて探し出しました。そしてコスモスの季節の直前に、とても綺麗なEF70-200mm
F2.8Lが私の手元にやってきました。店頭でチェックした範囲ではレンズ内には特にゴミも無く外観にも傷はありません。レンズマウント部に刻まれている暗号を解読すれば製造年は1999年なので、比較的新しいレンズです。
レンズがやってきて一週間目の夜、私はオートドライからレンズを取り出してレンズを何気なくチェックしました。レンズの綺麗さを再確認する為です。たまたまズームリングを200mmに合わせて、レンズを蛍光灯にかざしてレンズ前方から中を覗いたところ、綺麗なレンズを確認する筈の私の目には信じられないモノが飛び込んできました。その時に肉眼のピントを合わせる事の出来たレンズ全て(中群の3〜4枚)の全面に無数の細かい気泡があったのです。これはズームリングが他の焦点距離にあると殆ど目立ちません(気泡のあるレンズに肉眼の焦点が合わないため)。最初は内部を結露させた跡かと思いましたが、よく観察すると、レンズ製造時に既に存在した「す(鬆)」の様です。細かく泡立てたガラスでレンズを作ってあった、と言えば分かりやすいでしょうか?
私は手持ちの他のレンズを幾つかチェックしてみましたが、この様なレンズに多数の気泡があるものは一本もありません。やっぱりこのEF70-200mm
F2.8Lは製造不良品の様です。
このレンズは次の週末にカメラショップに持って行き、返品となりました。改めてチェックしたカメラショップも「こりゃ酷いですね」との事。この中古は別の店の「程度A〜AB」の品物を取り寄せたモノなので、その店のチェックの甘さにカメラショップも少し怒っていました。私自身も大切なコスモス&彼岸花満開の週末に70-200mm
F2.8ズームを持つことが出来ず、怒り心頭です。(注;この怒りは販売店にではなく、製造不良品を世に垂れ流したメーカーに対してです。)
更に追い討ちをかける事件がありました。いつものカメラショップは滅多に怒らぬKENの怒った姿を見て、一週間で代わりのレンズを2本全国からかき集めました。2本見て良い方を前回と同じ条件で販売する為です。その2本を見ると、一本は仕入れた店のチェックが甘いのかABランクなのに僅かなカビがありました(これは前ユーザーの保管の不適切さによる物なので、今回の事件とは関係有りません)。もう一本はあらかじめ「レンズ内にゴミあり」という表記があり、ちゃんとゴミが着いていました。しかしその場所は最後群レンズのすぐ裏で、ズーミングなどでレンズ間隔が伸縮する場所ではありません。しかも付着していたゴミは1mm径ぐらいの白いものでレンズ鏡筒の塗装片の様です。従ってこのゴミは使用過程におけるレンズのポンピング作用による付着(レンズ間隔の伸縮により外気を吸入/排出を繰り返して埃を吸い込む現象。全長が伸縮するズームは特に顕著だが、全長が変化しなくてもインナーフォーカス/ズーム方式では発生)では無く、製造時にあらかじめ鏡筒内部に付着していた塗装片が、使用過程で剥離してレンズに付着したものでしょう。レンズ組立前に部品をきちんと清掃しておけば、この様な事は起こりません。
※かくして次の週末にも、私はEF70-200mm
F2.8Lを入手することは出来ませんでした。
この一連の事件で、キャノンのLレンズの製造品質に関する疑惑が確信に変わりました。実はインターネット上にはLレンズにまつわる不良品の話題には事欠きません。Lレンズの有名な不良にはレンズコーティングの経年変色があります。これはカメラショップ間でも有名な不良で、しかしキャノンは製造不良/欠陥とは認めないために、保証期間外の修理は有償で2万円程度かかります。最近のISバージョンや新しいEF16-35mm
F2.8Lなどの作動不良の情報も沢山あります。新品時からレンズ内にゴミのある事は殆ど当たり前のようです(あるLレンズを買おうと思った人が、東京の大手カメラショップの在庫を全てチェックして、ゴミのなかったのは一本だけだったとかいう逸話もあります)。
レンズではありませんが、EOSー1Vも大量の不具合を出して、初期に購入したプロ、ハイアマチュアは怒り心頭に達していた人も多かったようです。EOSー1Dも初期の物は不具合だらけでまともな映像が得られず、例の店は「あれは商品とは言えません」と客に売るのを止めていたほどです。だから遠い将来1Vや1Dの中古を買う機会があった場合でも、製造年が2002年の物は避けて通ろうと思っています。
ご参考) EOS 1Vの不具合とキャノンの対応について記したこんなホームページもあります。但しこのページには筆者の情報も連絡先も何もありません。内容の解釈については私も判断出来ませんので、皆さんにお任せします。
Lレンズに1V/1Dと言えば超高性能高額商品ですから、ユーザーとしては製造にも完成検査にも最上級の物を期待しますよね。しかしキャノンの高額商品はちょっとおかしいのではないかと思います。(これは廉価商品なら安心、という意味ではありません)
皆さんもキャノンの高額商品を買われるときには、新品であっても必ず箱から取り出し、良くチェックしましょう。私が最初に返品したレンズも、ほぼ間違いなく新品時からの不良品で、それを最初に購入した人はまさかその様な所まではチェックしていないでしょう。しかしその様な不良品を掴んでしまうと、価格なりの性能は出ないし、下取り時には不良品として二束三文になってしまいます。
一部の業界では企業倫理がニュースで取りざたされていますが、不具合やミスを犯しても人命や健康に関係のないカメラ業界の場合には問題にはならないみたいですね。しかし自分自身の精神的な健康を守るためには、残念ながら企業を性善説ではなく性悪説で見なければならない哀しい時代がやってきている様です。
読者の方から、Nikon Nice Shotという雑誌にレンズの泡について下記の記載があったとの連絡を頂きました。
レンズのアワ
レンズ内にある小さな気泡のこと。レンズの収差を取り除くために特殊な元素を使った高性能ガラスほど、その製造の過程でアワが生じやすい。一般的には撮影上まったく無害と考えてさしつかえない。ただし、アワが大きすぎたり、絞りに近いレンズやレンズの中心付近に生じた場合は、光量の損失の影響を考慮しなければならない。
この文章を解釈すれば、特殊分散ガラスなどのガラスには気泡が発生しやすいとの事です。「撮影上まったく無害と考えてさしつかえない」との断り書きがありますので、メーカーとしては気泡があっても正常品であるとの宣言の様です。この事からすれば、キャノンに限らずニコンを含めた他のメーカーの高性能レンズにも気泡の含まれたレンズが流通していると言う事になります。但し気泡のないレンズも勿論沢山あります。皆さん、どう考えられますか??(2002.11.23追記) |
読者の方からの追加情報
追記日
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内容
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2002.11.4 |
NFD 80-200mm F4Lで、一枚のレンズの半分の周囲に気泡のある物をお持ちの方がおられました。レンズの気泡問題は最近始まった事では無いようです。 |
2002.11.4 |
EF70-200mm F2.8L IS USMを新品で購入された方が、自宅でレンズをチェックしたら内部がゴミだらけだったそうです。チリやホコリというレベルではなく「ゴミ」が目視出来るだけで4つ。早速購入した店(東京の大手ショップ)に返品に行き、その店の残りの在庫3本をチェックした所、2本にはやはり「ゴミ」がありました。1本だけは「ゴミ」が無かったので、これを持ち帰られましたが、チリ、ホコリはそれでも混入していたそうです。Lレンズ、新品買うなら「ゴミ」は当たり前???持ち帰る前に店頭で良くチェックしましょう。 |
2002.11.6 |
新品で購入したEF70-200mm F2.8L IS USM, EF135mm F2L USMに均一、かつ高密度な気泡のあるレンズを含むものが報告されました。(正確には、レンズそのものの気泡か、レンズエレメント接着剤への気泡混入かは判断付かないとの事でした。しかし気泡による弊害<コントラスト低下、フレア>はどちらも同様に発生します)。この方は購入直後に発見したものの、返品に行った店の在庫にも全て気泡があったようで「そういう物かな?」と思ってそのまま使用されています。
またEF70-200mm F2.8L IS USMの前から2〜3枚目のレンズの周辺部にコーティングが無い様に見えるそうです。店頭の別のレンズもその様に見えたそうです。
この報告からすると、不具合はあるロットまとめて発生する様です(製造上の不具合なら十分考えられる事です)。チェックする際には、同じ店の店頭展示品だけではなく、例えば同型品の中古とか、違う店の展示品とか生産ロットの異なる物とも比較しないと、何が本来の姿なのか確認出来ないかも知れません。 |
2002.11.6 |
新品で購入したばかりのEF85mm F1.8 USMで、レンズの一枚に気泡から延びたクラックのある物が報告されました。早速返品するそうです。 |
2002.11.7 |
EF35mm F1.4L USMの一枚のレンズの中央部に、小さな気泡三つある物が報告されました。この程度ならLレンズとしてはマシな方かも知れません...と言わなければならないのが悲しいですね。 |
2002.11.9 |
EF85mm F1.8 USMの後群レンズに米粒大の気泡のあるレンズが報告されました。小さな気泡は無数にあったとしてもチョット見には分かりにくいのですが、米粒大といえば一目見れば分かるのでちょっとビックリです。この報告でハッキリした事は、キャノンはレンズエレメントの完成検査をまともにしていない、という事です。皆さん、レンズを買われるときには念入りにチェックしましょう。 |
2002.11.14 |
FD 20-35mm F3.5Lで気泡のあるレンズが報告されました。症状は私が購入したEF70-200mm
F2.8L同様に、全面に小さな気泡が散在しているとの事です。 |
2002.11.23 |
レンズのアワに関するNikon Nice Shotの掲載文の報告がありましたので、上記に追記しました。 |
2002.12.15 |
EOS 1V不具合を記載したホームページへのリンクを参考として追加。 |
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