センターフィルターとハーフNDフィルターを同時に使う方法
KENのつぶやき vol. 338
(2011.2.13)
出来そうで出来ない、センターフィルターとハーフNDフィルターの併用
ミラーボックスを持たないカメラ(大判カメラ、中判パノラマカメラ、ライカM、コンタックスG、フジTX-1など)用の超広角レンズは、高画質を実現するために対称型レンズ構成(ビオゴンタイプなど)を採用しているので、絞り込んで撮影してもコサイン四乗則の影響を強く受けて大きな周辺減光が発生します。上の写真はトミヤマ・アートパノラマ170(6x17判)+Nikkor SW90mm F8s(35mmカメラ換算で19mm程度の画角)で絞りF32で撮影したものですが、ご覧の通りの周辺減光があります。これを是正するために用意されているのがセンターフィルター(センターNDフィルター)で、中央部が暗く、周辺に行くほど明るいNDフィルターになっています。一方で日の出/日没などの画面上下で明るさが大きく異なる情景では、ハーフNDフィルターを用いて画面内をラティチュードに収めるのも常套手段です。今回のつぶやきはこの二種類のフィルターを同時に使うというのがお題目。一見簡単な様ですが、これが緻密な工夫無しには不可能なのです。
センターフィルターは必ず超広角レンズと組み合わされる為、ケラレない様にフィルターの二枚重ね使用を考慮していないか、していたとしても通常フィルター一枚までの前提です。一方のハーフNDフィルターは構図調整に角形フィルター+専用の大型ホルダーを必要としますが、ホルダー単品ですら超広角レンズに対応していないケースが殆どです。長い写真経験の中で一度だけセンターフィルターとハーフNDを併用したカメラマンを見掛けたことがありますが、その人はハーフNDフィルターを手持ちでレンズの前にかざしていました。しかしセンターフィルターが必要なカメラは一眼レフでは無いので撮影時に実際の画面を見ることが出来ず、手持ちではハーフNDの境界線を正しい位置に置くことが困難です。
ここで紹介するアイデアが使えるのは67mmのフィルター枠を持つ広角レンズで、大判レンズにはNikkor SW65mm F4s, SW75mm F4.5s, SW90mm F8s, Fujinon SWD65mm F5.6, SWD75mm F5.6, SW90mm F8, Schneider Super Angulon 38mm F5.6XL, 47mm F5.6XL, 58mm F5.6XL、旧90mm F8など数多くあり、ポピュラーなフィルターサイズになっています。67mmより小さなレンズにも応用が利きますが、より大きなフィルター枠のレンズではLEEのアダプターリングの構造から使えません。
シュナイダーのセンターフィルターではLEEが併用できない
シュナイダーは各レンズ専用のセンターフィルターを用意しているメーカーで、67mmセンターフィルターだけでも沢山の種類がありますが、その前面には86mmのフィルターネジが切ってあります。超広角でのケラレを防止するために4サイズも大きなフィルターを使う設計になっています。だからLEEの86mmアダプターを介してハーフNDフィルターを使えば良いと考えがちですが、これが出来ません。理由は上の写真を見れば分かるように、86mmアダプターは通常フィルターの2倍程度の厚みのあるリングであることに加えて、フィルターネジ径(水色の矢印)は86mmでもリング内径(白い矢印)は82mmリングと同じ寸法しか無いからです(=必ずケラレます)。これはLEEのホルダー取り付け部の寸法からくる制約です。LEEには更に95mm, 105mmなどのアダプターもありますが、内径は小さく、望遠レンズ以外では使えない構造になっています。
LEEのアダプターリングの中では最大の内径と、実効厚みの最も薄い構造を併せ持つ82mmワイドアングルアダプターが今回の主役になります。
フィルターサイズ67mmのレンズに77mmセンターフィルターを使うことが解決のプロローグ
シュナイダー製フィルターが高価なこともあり、マルミ製の77mmセンターNDフィルターを入手しました。日本メーカー製のセンターNDフィルターは他にケンコー製がありましたが、どちらも既に生産中止なので気長に中古を探すしかないようです。67mmではなく77mmを購入したのは偶々見つけた中古が77mmだったのと、将来Nikkor SW120mm F8sを入手した際にも使えるなぁと思っての事ですが、今回77mmである事が鍵となりました。
このフィルターは枠のサイズが82mmありケラレを防止しています。また前側にはフィルターネジが切られておらず、重ね合わせ使用は出来ません。
67-77mmステップアップリングを介してNikkor 90mm F8sに装着してケラレの全く無いことを確認しています。厚みの殆ど無いステップアップリングでふたまわり大きなフィルターを使うので余裕だろうと思いますが、、
図面化してみると超広角レンズでは余り余裕のないことが分かります。
図面の見方は、左がレンズに67mmの通常フィルターを装着した状態で、これでカタログスペックの包括角度105度を満足する前提で105度のラインを引きました。右は同じ位置関係のままで67-77mmステップアップリングとマルミ77mmセンターフィルターを装着した状態ですが、フィルターが前に出た為に77mmでも余裕がありません。
LEEのホルダーを改造
超広角レンズに使えるホルダーはA1タイプですが、販売時の状態ではフィルター取り付け部が分厚くケラレが発生します。そのためにこの部分を分解して差し込み部一つのみで使用出来るように専用の短い取り付けネジが別売りになっています。今回はセンターフィルターを付けてその上からハーフNDフィルターを使う為に、センターフィルター分の厚みだけ浮かす必要があります。薄枠、2mm枠、2mm枠、4mm厚枠の四つの差し込み部から4mm厚枠を取り除くことで丁度良い寸法になりました。枠全体が薄くなった分、取り付けネジが反対側に飛び出しレンズ他を傷つける心配がありますので、ワッシャーを追加してネジの出っ張りを無くしました。
さて、写真はあとでお見せしますが、ホルダー改造後に最初に試したことはLEEの77mmアダプターを用いた併用でした。通常タイプのアダプターには前面にもフィルターネジが切られている為に、レンズ→67-77mmステップアップリング→77mm LEEアダプター→77mmセンターフィルター→ハーフNDフィルターという順番で取り付ける事が出来ます。しかしハーフNDフィルターを付けるまでもなくセンターフィルター自身で大きくケラレが発生してしまい、この案は頓挫しました。
LEE 82mm WAアダプターの内側に67-77mmステップアップリングが綺麗に嵌った事で道が拓けた
この状況打開は、機材を色々と触っているときに、LEEの82mmワイドアングル用アダプターリングの内側に67-77mmステップアップリングが芸術的に綺麗に嵌ることを発見したときに起きました。この状況を眺めていて、77-82mmステップアップリングを瞬間接着剤で67-77mmステップアップリングの後側に取り付ければ、ケラレが無いことを確認している67-77mmステップアップリング+77mmセンターフィルター構造に全く影響を与えることなく、その後側だけでハーフNDフィルター取り付け構造を実現出来ることに気づいたのです。
そこで、67-77mmステップアップリングと77-82mmステップアップリングを瞬間接着剤で接着した、67-77-82mmカスタムリングを製作しました。作業はまずLEEの82mm WAアダプターリングに77-82mmステップアップリングを軽く取り付け、瞬間接着剤を塗布してから、アダプターリング前側からゆっくりと67-77mmステップアップリングを穴に填めてゆくことで、精度高く同心円状に二つのリングを接着出来ました。瞬間接着剤がLEEのアダプターリングに着かないように気をつけることが肝です。
では、センターフィルターとLEEハーフNDフィルター併用システムをご覧頂きましょう
まず図面です。左は77mmのLEEアダプターリングを用いて没になった方法です。センターフィルターが分厚いアダプターリングの分だけ前進し、大きなケラレが発生していることが分かります。右は今回の解決策で、67-77mmステップアップリングの後ろに77-82mmステップアップリングを接着し、82mm部に実効厚みの殆ど無いLEE 82mm WAアダプターリングを装着。改造版フィルターホルダーA1を介して、センターフィルターの前方1mmにも満たない位置に100mm幅(実効幅90mm)のLEEハーフNDフィルターを取り付けています。
機材取り付けのステップバイステップの写真。上が今回採用になった方法で、下が没になった方法です。レンズの中央部を注意してご覧頂ければ、上段の方ではケラレの無いことが分かります。
より見易いように拡大してみました。レンズ中央部で光っている部分の見え具合、シャッター部の「COPAL 0」の文字の見え方からOKスペックではフィルター全体が後退して取り付けられておりケラレが起きにくいことが分かります。
そして、これが完成形。
このシステムを作った翌朝には実戦に持ち出しました。愛媛県今治市の岡村島で日の出を待っています。
その時に撮影した写真です。日の出の情景は太陽から離れるほどに暗くなるので、見た目で明るさが均質な写真にはなりませんが、冒頭でお見せした日の出写真と比較すれば周辺部まで露出バランスの整った写真に仕上がっています。これで心置きなく日の出時に大判/中判超広角撮影が出来ます。
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