レンズベビー・ベルベット 85mm F1.8(その1)
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キタムラのネット中古に見慣れないレンズが現れて、「これは何だ?」とネットで調べてみると、85mmF1.8のレンズで0.5倍までのマクロ撮影が出来るとありました。私の知る限り、ハーフマクロで最も明るいレンズはマクロプラナーの100mm F2と50mm F2、そして古きズイコー・オートマクロ90mm F2。最近はこれ以外にもミラーレス用に幾つかF2ハーフマクロが出て来ましたが、F1.8のレンズは知らず、焦点距離も使いやすそうなので、マクロ屋のKENは購入しました。値段も安かったし、、、
ところで私の購入値は12800円。しかし通常相場は中古3万円前後、新品6万円前後と安くはなくて、マクロレンズとして暫く使った経験からすれば相場価格ほどの価値は全く無し。銘玉タムロン90mm F2.8マクロは中古2万円で買えるし、素直に普通のマクロレンズを買った方が幸せになれます、、といきなりの結論(笑)。例外はポートレート命の人かなぁ、、、
そのレンズの名は、レンズベビー・ベルベット(LENSBABY VELVET) 85mm F1.8。一般的にはソフトフォーカスレンズに分類されるレンズです。
左は素の状態。総金属製のレンズで結構重いです。レンズキャップも金属製。ちなみにカタログスペックは全長89mm、最大径76mm、重量530g、フィルター径67mm、レンズ構成3群4枚マルチコート、最短撮影距離230mm(レンズ前面からの距離)、最大撮影倍率1:2、最小絞りF16、絞り羽枚数12枚。フルマニュアルのレンズで、EOS用でも絞り環があり、電子接点はありません。
右はレンズ前面。すり鉢状の環があり、フィルタースレッドから15mm下がって遮光環になっていて、そこから更に5mm下がってレンズがあります。
このレンズ、一眼レフ用はフードの設定が無いので(ミラーレス用にはあり、但しレンズ構造が違うので流用出来ません)、どの長さのフードまで使えるかとレンズの各部寸法を測っていたら驚くべき発見が、、。何と遮光環の開口部が45mmしか無い。85mm F1.8に求められる最小径は47.2mmで、遮光環がレンズから5mm浮いている事を考慮すれば50mmの開口部が必要。これからすると、このレンズの真のスペックは85mmF2ですね。それを裏付ける測定結果は後ほど、、、
右の写真は絞った時の絞り羽で、F2では殆ど閉じていません。これからもこのレンズが真の1.8の開口部を持っていないのが分かります。絞り羽は12枚あり、かなり綺麗な円形絞りになっています。
プロテクトフィルターを付けるとご覧の通り。67mmフィルターの外径70mmに対してレンズ鏡筒の先端外径は73mm。純正レンズキャップは嵌らなくなります。
そこで市販のレンズキャップを入手。右のフードは手持ちのFujica GW670用。フィルターに被せるので無粋なフィルター枠が見え無いのはGood。でも広角レンズ用なので、もっと良いフードが無いか探査中。
2021/7/5追記。中華製の67mm望遠レンズ用フードをAmazonで見つけました。品名はSIOTIメタルレンズフード・67mmロング。フード先端には72mmのキャップ(フードに付属)を取り付けられて、良い感じです。全長35mmのこのフード、私の計測ではこのレンズに対してギリギリの長さで、これ以上長いフードを付けるとケラれますので要注意!
レンズの開口と露出の測定
妖しいメーカーの絞りはスペック通りでは無いことが多いので、古くはケンコーのMCソフト85mmから実戦しているレンズ開口度測定を実施。更に、電子接点の無いレンズでは実絞り測光になるけど、AF時代の一眼レフは実絞り測光に対応しておらず、絞り値で露出が大きく暴れるので、これも測定しました。
右側の表がレンズ開口の測定で、測定方法は、まずレンズを下向きにしてライトボックスの上に置きます。レンズマウント側には中間リングを填めて「穴」を作り、その穴の中に入射光式露出計の受光部を入れて外光の影響を排除。これで絞りを動かしながら露出値を計ることで、精密にレンズの絞り値の相対値を得ることが出来ます。私の単体露出計の露出値は一段ごとのシャッタースピードと追加の露出補正値(0.1EV単位)で表示されます。
この結果、冒頭で指摘したとおりF2の時では開放から殆ど絞り込まれない結果、F1.8とF2の間には0.1EVの違いしかありませんでした。本来は0.3EV必要です。それに加えてF4とF5.6の間が0.8EVしか無く0.2EV不足。それ以外は1EVで綺麗に揃っています。
この測定結果は、小絞り(F16側)から1EVごとに開けてくると、丁度開放F1.8の所でF2.0の露出値になります。物理的レンズ開口部の不足、F1.8とF2の小さすぎる開口差から、恐らく85mm F2で設計されたレンズを発売するに当たり、F1.8の方が売りやすいという事で、F1.8-F2、F4-F5.6の間の絞り差をごまかしてF1.8のカタログスペックにしたのだと思われます。
右側はEOS 6Dでの露出の暴れ具合の測定。本題に入る前に、
F1.8とF2の間に0.1EVの開口差しか無かった為か、カメラの露出計は全く変化しませんでした。実際の撮影結果でもF1.8とF2の間に描写の差はありませんでした。
ここから本題。ミラーのある一眼レフの場合、レンズを通った光の全てがペンタプリズムの向こう側にある露出計に届く訳では無く、大口径レンズだとミラーで半分程度の光がカットされて届かず、加えてファインダースクリーンの散光特性でまた露出計への光の届き具合が変わります。電子接点がありレンズの開放値をカメラが認識出来れば露出値を正しく補正出来るのですが、電子接点の無いレンズの場合は露出が撮影時の絞り値によって大きく暴れてしまいます。
暴れの測定方法は明るさが安定した白壁などを、先ず電子接点のある信頼を置けるレンズで測定し、その後でマニュアルレンズで各絞りごとの露出値を測定します。
右側の表がEOS 6Dでの暴れ具合。開放側でプラス補正が必要になるほか、絞り込むと大きなマイナス補正も必要になります。但しこの暴れはカメラボディ依存なので、EOS 6D以外のカメラをお使いの場合はご自身で測定し直して下さい。私も過去手持ちのボディで色々と測定しましたが、暴れ度合いは大きく異なりました。
あるボディの露出の暴れ度合いは撮影時のレンズの実絞り値のみに依存し、レンズに依りません。この辺りの詳細は古い記事ですが、
つぶやき247
をご覧下さい。
レンズの壁面撮影テスト
レンズベビー・ベルベットシリーズは、像面湾曲と球面収差を意図的に「極度」に残して、他のレンズでは得られない独特の描写を得ているという情報があったので、その度合いをタイル張りの壁面で確認しました。
手始めは周辺減光のチェック。F1.8、F2では顕著に目立ちますが、F2.8で余り気にならなくなり、F4でほぼ解消されます。但しこのレンズでF2.8よりも絞り込んで使う事は滅多に無いと思います。
像面湾曲の測定の前に、簡単な説明を。理想的なレンズはピント面が撮像素子に対して平行ですが、像面湾曲とは平面を撮影した時に、撮像素子側に出来るピント面がお椀の様に湾曲してしまう収差のことを言います。これは画面周辺部でレンズを繰り出したのと同じ効果を生むので、実際の写真では右の絵の様に、被写体側のピント面がすり鉢か漏斗の様に変形した写真として得られ、画面周辺部の画質が損なわれてしまいます。レンズベビーの像面湾曲は意図的に残しただけあって、想像を絶する物でした。
F1.8
ピントは画面中央にある赤丸付近のタイルの目地交点に合わせています。開放だと大きな像面湾曲で画面中央部以外にはピントが来ないのと、中央部でも大きな球面収差で目地の線が滲み、コントラストが落ちています。画像を拡大し、画像右側の「>」をクリックすると連続で写真を見ることが出来ますので、絞りごとの描写の違いが分かりやすいと思います。
F2
子細に見てもF1.8との違いは見いだせません。
F2.8
画面中央部の画質が一気に改善し、シャープになっています。しかし画面周辺部はボケたまま。被写体にも依りますが、画面中央部がシャープになり過ぎた感があって、レンズベビーの特徴を活かした写真は中間絞りのF2.4ぐらいにスイートスポットがありそうです。
F4
ここから先はどんどん画質が改善し、被写界深度が深まった為もあり、画面周辺部のボケも小さくなって行きます。しかし、レンズベビーならではの写真を撮るなら、ここから先の絞り値で撮影する必要は無いでしょう。
F5.6
F8
F11
F1.8
ピント面が大きく湾曲しているなら、壁を斜めから撮影したら半分だけパンフォーカスの写真が撮れるはず、、、と思って撮影したのがここからの写真。湾曲度合いは想像以上で、45度よりも壁に近寄った気がします。ピントは中央にある丸印あたりに合わせましたが、開放では少しピントを外しました。
像面湾曲によるパンフォーカスなので、チルトレンズとは違って、左半部では大きくボケています。
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
さて、次の写真のピント面を皆さんは理解してレンズベビーを使いこなせるでしょうか?
ピントリングは無限遠位置で星空を撮影した写真です。実は壁面以外ではレンズベビーで初めて撮影した写真で、右側中央で大きくボケていいる星(木星)にピントが来なくて焦りました。それは兎も角、、
画面中央部、屋根の棟(一番上の部分)の右端の後にある星は星像が小さく写り、ここにピントがあることが分かりますが、左側に行くに連れて、屋根の棟にそってピント面が手前に来て、最後は至近距離にある立木の葉にピントが合っています。チルトレンズとの違いは屋根の右下にピントが来ないこと。これだけ極端にピント面が傾くレンズは私の想像を遙かに超えていました。
それ以外にも色々と撮影しましたので、絞りごとの実際の描写の違いとかは、次の記事で、、
2021年1月12日