今回は電子接点の無いレンズをEOSで使った場合の露出テストのお話です。
ひょんな事から臨時収入が入ったので、KENとしては珍しく使用目的の無い、しかし以前から欲しかったレンズを購入しました。Y-CマウントのCarl
Zeiss Planar 85mm F1.4 MMJです。ネイチャー派の私にとってポートレイト用のレンズが必要になる事はまずありません。また85mm付近の焦点距離は、タムロン90mm
F2.8 MacroとEF70-200mm F2.8Lでカバー出来ており、どちらのレンズも描写には定評があるので、F2.8よりも明るい開放値を活かした撮影の機会が無ければオブジェかも知れません。まあ月夜の風景撮影なんかには使えるかも知れませんね。
そんな私がこのレンズを購入した理由ですが、Planar
85mm F1.4は長年写真界を代表するレンズで、その「ガラスの塊」という容姿と「中味が詰まっているぞ」と謂わんばかりのずっしりとした重さは、男心をくすぐるものがありました。それ故に写真を始めた頃から欲しいレンズの一つでしたが、今までは理性が購入を止めさせていました。それが京セラのカメラ事業からの撤退で相場が下がり、中古価格がEF85mm
F1.8USMと大差無くなった頃に、臨時収入が入って理性が一瞬消えた、というわけです(^^;
手に入れて、早速マウントアダプターを介してEOS3に装着してみましたが、露出でおかしな事に気付きました。F2.8よりも小絞り側ではシャッタースピードと絞り値はリニアに変化するのですが、F2.8からF2にしてもシャッターは0.7段しか変化せず、更にF2からF1.4にしても0.3段しか変化しません。状況を様々に変えても同じ現象を起こしました。つまりF2.8の露出を基準にすると開放値F2のレンズの露出値をEOS3が返してきたのです。前玉口径から計算される開放F値はほぼF1.4になるので、これはカメラの露出計がオカシイと思って、ネット上を検索してみましたが、探し方が悪かったのか、EOSとマウントアダプターを使ったレンズの露出誤差についての記述を見つける事が出来ませんでした。露出計の癖、あるいは露出計とレンズの相性を知らなければポジ撮影は出来ませんから、早速テストする事にしました。
念の為の、Planar 85mm F1.4 MMJの絞り開口テスト
「まさかPlanarの絞りが狂ってるって事は無いよね〜」という事で、念の為にPlanar
85mm F1.4の絞り開口テストをしてみました。テスト方法はKenko
MC Soft 85mm F2.5でも用いた方法ですが、レンズをライトボックスの上に置き、レンズの後ろ側に外光を遮断する形で入射光露出計を置いて光量を測定するものです。Planar
85mm F1.4はマウント部ギリギリまで後群レンズが出ていますので、中間リングを追加して露出計受光部をすっぽり覆える様にしました。結果は表の通りで、プラスマイナス0.2EV程の開口誤差がありますが、実用上問題になるほどのものではありません。これでPlanar
85mm F1.4をEOSに装着した場合の変な露出指示の原因はEOS側にある事が分りました。
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Planar 85mm F1.4 MMJの絞り開口テスト。入射光露出計を用いて、各絞り値につき5回測定した平均値を用いています。絶対光量の測定はしていないので、F2.8の光量を基準にする確たる論拠はありませんが、測定値の傾向を見ると測定値の端数が+0.1EVになる値を基準値と捉えるのが妥当に思えます。それに該当する絞り値はF2.8,
F4, F8, F11なのでF2.8を基準値に採用してみました。この基準を採用すると、F2は0.2EV開き過ぎていて、逆に開放絞りは0.2EV開口が不足している事になります。
なおF11の実効F値がF11.3になっているのは、F11の理論F値がF11.0ではなくF11.3だからです。実際の表示では四捨五入されています。 |
絞り優先AEの露出テスト方法
さて、次はカメラに装着した場合の内蔵露出計が返す露出値のテストです。本来、TTL露出計はレンズの後ろで測光していますので、フィルターなどのアタッチメントや、レンズの構造が変わっても影響を受けずに適性露出を弾き出すのがウリですが、電子接点を持つシステムになってから複雑な処理が内部で行われているようで、レンズ側からの開放F値情報の入力が無いとカメラ側の露出計に誤差が生じるようです。私は既にKenko
MC Soft 85mm F2.5を使って沢山の撮影をしていますが、EOS3では全く問題ないものの、EOS55だと多少露出がずれる事も経験しており、電子接点を持たないレンズを装着した場合の露出の癖はカメラの機種で異なる可能性があります。またマウントアダプター使用時や、その他特殊撮影時にスポット測光が使えないという注意書きも散見されます。これらのことを確認する為に、手持のEOSボディをほぼ総動員してテストしました。
テストに供試したボディはEOS3, EOS55, EOS100そしてEOS630です。EOS3とEOS630のファインダースクリーンは、標準のニューレーザーマットからレーザーマットに交換してあります。これらのカメラが持つ測光モードも全て試す事にしました。但しEOS630は中央部部分測光がAEロックと連動し使いにくいので、評価測光のみ用いました。EOS3を三台持っていますが、全てのEOS3で簡単なテストをしたところ、みな同じ露出値を返しましたので、掲載しているテスト結果は一台で代表させています。
レンズはPlanar 85mm F1.4だけではなく、Sonnar
135mm F2.8とAi Nikkor 200mm F4を加えました。全てマウントアダプターを介してEOSに装着するレンズで、開放F値、焦点距離によってどの様な傾向が出るのか調べてみました。露出のリファレンスにするレンズは、Planarと同じ開放値を持つEF50mm
F1.4 USMです。電子接点を持つ純正のこのレンズは、勿論キヤノンの基準において正しい露出値を返すことになっています。
テスト方法ですが、私の部屋で均質に照明された白い壁を測光しました。全てのレンズでファインダー画面内が均質に真白になるようにセットしましたので、レンズ焦点距離、カメラの測光モードによらず同じ露出値になる筈のテストモードです。壁に小さな印を付けて、レンズの向きは全てのケースで完全に一致するようにしました。またレンズ繰り出しによる露出倍数を避けるために、レンズのピント位置は全て無限遠で行っています。輝度差によって露出傾向が異なるかも知れないので、撮影用の照明(150Wのレフランプ)を追加して、室内照明のみの暗い状態と、日中並に明るい状態の二つの状態で測定しています。
参考までに単体露出計での壁面測光値は、レフランプOFF時がF2.8で1/30秒+0.2EV,つまり1/30秒だと0.2EVオーバー、1/40秒だと0.1EVアンダー、1/45秒だと0.3EVアンダーになる値で、レフランプをONにすると1/500秒+0.9EV、つまり1/750秒で0.4EVオーバー、1/800秒で0.2EVオーバー、1/1000秒で0.1EVアンダーという値でした。この測光値に対してEF50mm
F1.4USMを付けたEOS3、EOS55はほぼ測光値通りかややアンダー目の値を返し、EOS100,
EOS630はやや(0.3EV程度)オーバー目の露出を返しました。前者2機種がポジを意識し、より古い後者2機種がネガを意識した露出設定になっていると推察されます(EOS630は0.5段ほど視野が暗くなるレーザーマットの影響かも知れません)。
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テスト風景。画面右側の白い壁を測定します。小さな緑の点はレンズ中心を合わせるための目印。画面左には明るい状況を作りだすためのレフランプが見えます。レフランプを点灯すると4.7EV明るくなりました。 |
EOS3(+レーザーマット)テスト結果 《F2.8〜F22で見事に安定。F2で-0.3EV、F1.4で-1EV補正》
EOS3のテスト結果は極めて安定したものでした。F2.8よりも暗い開放値を持つレンズの場合、マウントアダプターを用いても実用上は露出補正をする必要がありません。但しPlanar
85mm F1.4の場合は、F2で0.3EVのマイナス補正、F1.4で1.0EVのマイナス補正をしないと適性露出にはならないようです。輝度差に関わらず安定した傾向なのでこれで実用になると思います。スポット測光、部分測光でF1.4を用いた場合には-1.3EVまで補正した方が良いみたいですが、段階露出をする事を考えれば実用的に-1.0EV補正で覚えても問題にはならないでしょう。
なお、私のEOS3にはレーザーマットスクリーンの方眼マットEc-Dを装着しています。キヤノン純正のFD-EOSマウントコンバーターの使用条件がEOS1/EOS600系カメラへのレーザーマットスクリーン装着であった事、MP-E65mm
F2.8のAE使用条件もEOS1系、EOS3へのレーザマットスクリーン装着である事から、標準のニューレーザーマットスクリーンよりもマウントアダプター使用時の露出安定性に有利になっていると思われます。(追記:EOS3でも標準装備のニューレーザーマットスクリーンでは露出が暴れます。詳しくは続編のつぶやき248を御覧下さい)
下表が測定結果ですが、測定値はシャッタースピードで、ファインダー指示通りの逆数表示にしてあります。EOSで絶対秒数表示になる値には「"」を付けて「秒」であることを示しています。二つの数値を併記してあるのは、シャッタースピードが二つの間で点滅を繰り返した場合で、測光値が丁度中間ぐらいにある状態です。
EV差を示した数値はEF50mm F1.4 USM装着時との露出差です。電子接点を持つEF50mm
F1.4 USMの測光結果は、測光モード、絞り値によらず一貫したものでした。これは他のカメラボディでも同様でした。「平均測光」とあるのは、EOSの場合正しくは中央部重点平均測光の事です。
EOS55テスト結果 《1EVの範囲で露出が暴れる。基本はF2〜F4でプラス補正、F11〜F22でマイナス補正》
まず今回テストした中級機の全て(55, 100, 630)は、Planar
85mmのF1.4という絞り値に反応しません。F2からF1.4に絞りを開いてもシャッタースピード表示の動いた機種は基本的にありませんでした。だからF2よりも明るい絞りを使うのは要注意です。他の絞り値で測光してマニュアル露出感覚でシャッタースピードをセットするかマイナス補正した方が良いでしょう。
F2よりも暗い絞り値でEOS55はプラスマイナス1EVの範囲でばらついた露出を返しました。大きな傾向としてはF5.6〜F8ぐらいに適性露出を返すポイントがあって、それよりも明るい絞り値ではアンダー目のシャッタースピードを返すのでプラス補正を、より暗い絞り値ではオーバ目のシャッタースピードを返すのでマイナス補正をするのが良いでしょう。しかしあまり一貫性が無いので、ポジでは段階露出が欠かせないと思います。測光モードによる変化は顕著には見られませんでした。
EOS100テスト結果 《EOS55に傾向は似るが、測光モードによるバラつきが大きい》
EOS100はテストした四機種の中では測光モードによる露出変化が最も大きく出ました。その中で比較的安定しているのが評価測光で、暴れるのが部分測光です。評価測光の
F2〜F5.6の間なら、本来の露出値がややオーバー目である事を考慮すると露出補正は殆ど要りません。それよりも暗い絞り値ではマイナス補正が必要になります。絞り値のみならず、レンズによって傾向も異なるので、段階露出で適性露出を押さえた方が良いですね。
Planar 85mmのF1.4では露出計が反応せず基本的にF2と同じシャッタースピードを返しますから、他の絞り値で測光した値をベースにマニュアルでセットするか1EVほどマイナス補正した方が良いです。
EOS630(+レーザーマット)テスト結果 《F2よりも暗い絞り値で見事に安定》
1997年のキヤノン・アクセサリーカタログを見ると、純正のマウントコンバーターFD-EOSの注釈に「レーザーマット・スクリーンに交換し、EOS-1N,
EOS-1, RT, 620, 630, 650に使用可能」と書いてあります。私のEOS630のファインダースクリーンは標準のニューレーザーマットからレーザーマットの方眼スクリーンに交換してあり、キヤノンがマウントアダプター使用を認めた数少ないスペックになっています。そのEOS630は、Planar
85mmのF1.4使用時を除いて見事に安定した露出値を返しました。EF50mm F1.4USMの露出値に対しては0.5EVほどアンダー目の露出を返していますが、もともとの露出値がややオーバー目にセットされていますので、露出補正無しで撮影して問題無いでしょう。この機種の癖をつかんで居られる方なら0.5EVのプラス補正がお勧めです。Planar
85mmをF1.4で使う時は他の中級機同様にF2と同じ露出値を返していますので、マイナス0.5〜1EV補正した方が良いです。
EOS600番台のカメラ、EOS-1系カメラ、及び一部の古いEOSは、レンズを外した状態でもカメラ側の絞り値を変える事が出来ます(他のカメラはF0.0のまま変更不能)。その様なカメラの場合には絞り値を最小値(開く側、630の場合はF1.0)にしないと適性露出が得られないと、どこかで読んだ記憶があります。そこで、他の絞り値セットも試してみました。テスト結果はPlanar
85mmの欄にのみ表示していますが、カメラ側の絞り値をF1.0にセットした時にほぼ適正になり、絞り値を大きくするとその分だけ露出がオーバー側に振られる結果となりました。カメラ内部で電気的に変換されているので、その変化はレンズによらず一貫しています。ただ前述のEFレンズ装着時に対して0.5EVほどアンダー目に出る露出傾向を加味すると、マウントアダプター使用時はF1.2にカメラ側絞り値をセットすると、EFレンズと調和のとれた露出値を返すようになります。
まとめ
以前、EOS7と電子接点を持たないレンズを組み合わせると露出が大幅(時に3EV以上)狂うという情報をつぶやき142に掲載し、その後マウントアダプターのメーカーサイトでもEOS7の初期ロット(国内生産分)では露出が大きく狂う事があると記載されるようになりました。しかしそれ以外の中級機でもプラスマイナス1EVの範囲で露出が狂う事が今回確認されました。更に大口径レンズを用いる場合には、露出が安定しているEOS1系、レーザーマットを装着したEOS3やEOS600系でも要注意である事が確認出来ました(EOS-1Nの露出計がF2.5よりも暗い絞り値で安定している事は、以前確認済みです)。
生憎私が持っている中級機はEOS55と古いために、最新の中級デジタル一眼レフとマウントアダプターを組み合わせた場合の露出がどうなるのか、興味のあるところです。私の経験ではD30やD60の露出はずれていましたし、マウントアダプターを使った場合の露出暴れの原因が仮に明るいファインダーをもたらすニューレーザーマットスクリーンだとしたら、1D系とプレシジョンマット採用以前のEOSデジ眼はみな露出がずれる事になります。加えてプレシジョンマットの特性がレーザーマットと等価かどうか未知数ですので、20D/Kiss
DN以降のカメラも露出が暴れるかも知れません。しかしデジタルでは撮影時に露出確認できて補正がその場で可能な事と、多少の露出の狂いはレタッチで救えることから、余り話題になっていない気がします。もし機材をお持ちで興味のある方は追試してみて下さい。
※今回のテーマをもう少し掘り下げてみました。続きは次回つぶやきで。
続く
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