今回もまた役に立たないお話を(笑)。
偏光フィルターが水面などで反射した光をカット出来るのは御存知の通り。これは物の表面(金属、鏡の表面を除く)で反射した光は、振幅方向が反射面と平行に「偏光」するためで、それと直交する(90度の角度をもつ)方向に偏光フィルターの軸を持ってくれば、反射光を完全に除去できるからです。では、二枚の偏光フィルターを組み合わせると何がおきるか....一枚目の偏光フィルターを通過した光は、物体表面で反射した光と同様にフィルターの偏光軸の方向に「偏光」しています。だから二枚目のフィルターの軸を直交させると、一枚目を通過した光を完全に取り除けます。つまり直交する二枚の偏光フィルターは理論的に光を透過しないのです。一方で二枚のフィルターの偏光軸を揃えると、一枚目のフィルターで偏光した光は二枚目もそのまま通過できるので、偏光フィルター自身の濃度を無視すれば、透明ガラスのようになります。
この事を中学の理科の時間に習ったときに、私はとても興味を持ちました。当時NDフィルターにも興味を持っていたので、思いついたことが「NDフィルターを濃度別にいろいろ揃えるよりも、PLフィルターを二枚買えば濃度連続可変NDフィルターになるじゃないか!。その方が安上がりかも....どうせPLフィルターは一枚は必要なのだし。」それで私はなけなしのお小遣いをはたいて、55mmのPLフィルターを二枚買い求めました。今から30年近くも前のことです。
フィルターを買って早速実験......
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PLフィルター(円偏光ではない普通のタイプ)を二枚重ねライトボックスの上で撮影した写真。フィルター左にある丸い黒い物は、重ねたフィルターが斜めにならないように支えとして置いたフィルムキャップ。
左側の写真は偏光軸を揃えたもの。一枚目のフィルターで偏光された光は二枚目をそのまま通過できるので、フィルター二枚重なっているにも関わらず、濃度は一枚の場合と事実上変化していない。右側の写真は逆に偏光軸を直交させたもの。一枚目で偏光された光は二枚目のフィルターを理論上通過できないため、真っ暗になる。現実的には偏光膜の軸の均質性の精度、偏光膜その物の色味の問題(完全なニュートラルグレーでは無い)、フィルター表面の油汚れなどの影響により、真っ黒と言うよりも濃紺になり、ムラがかなり発生する。可変NDフィルターとしての実用性は薄い。 |
フィルターを二枚重ねて偏光軸の相対角度を変化させると、理科の教科書通りに、濃度は期待どおり連続的に変化しました。ただ問題が幾つか発生...
当時購入したのは東芝ブランドのPLフィルターですが、当然重ねあわせ使用など考えていませんので、偏光軸の方向性が完全には一様でなく、微妙な揺らぎがあります。その結果、特に偏光フィルターの相対軸が90度付近においてかなりの濃度ムラが発生しました。それと同様の状況では真っ黒になるのではなく、かなり青みを帯びる傾向が出ました。
PLフィルターは3〜4の露出倍数を持ちます。だからこの二枚重ねの可変NDフィルターは理論的にはND4からND無限大まで変化できるはずでしたが、実用的に使えるのははND4からND12ぐらいでしょうか?フィルター二枚重ね(偏光膜を挟んでいるので、実際にはガラス4枚)による画質低下もファインダー上で認められるほどでした。と言うわけで、このテクニックは実際に1〜2枚のみの撮影でお蔵入りとなりました。
ただ写真を知らない人にフィルター二枚を重ねて濃度が連続的に変化する様子を見せると、とても不思議がります。これはフィルター径が違っても出来るので、PLを二枚以上お持ちの方はお試しあれ!
購入後30年を経過したPLフィルターで一つご報告。PLフィルターは偏光膜が経年変化で傷むので寿命があると言われています。しかし30年経過したフィルターでも、偏光除去効果はまだまだ抜群です。色味が濁るとも言われますが、肉眼では殆ど気付きません。結構丈夫かも。但し、このフィルターは30年間ほとんど光に曝していません。
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偏光フィルターによる役に立たない裏技の話はまだ続きます。
続く
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