前回つぶやきの続編です。もし読まれていない方は先に前回つぶやきの方を読んで下さい。
今回も役に立たないお話の続きです(笑)。
前回では普通の偏光フィルター二枚を使って、可変NDフィルターに出来ることを書きましたが、最近はAFカメラ全盛なので、偏光フィルターといっても多くの人は普通の偏光ではなく、円偏光フィルター(サーキュラーPL)の方をお持ちでしょう。サーキュラーPLの場合は二枚重ねても前回で述べたような可変NDフィルターは出来ません。何故ならサーキュラーPLは偏光膜を通過した光(直線偏光)を円偏光に変換する「1/4波長板」なるものが偏光膜の後に重ねられているからです。円偏光は難しい説明を省きますが、偏光軸に方向性がありません(回転させながら光は進みます)。これはハーフミラーを必ず持っているAFカメラ対策のものです。直線偏光した光はハーフミラーの所で偏光の向きによって反射率を変えてしまいます。AF一眼レフの露出センサー/AFセンサーはファインダー部にあるにしても、シャッター膜の前にあるとしても、クイックリターンミラー(ハーフミラー)よりも後側にあります。その結果、光量は同じでも直線偏光の向きによってハーフミラーでの反射率/透過率が変わってしまい、露出値が狂ったり、AFが作動不良になったりするのです。その為に直線偏光を向きのない偏光(円偏光)に変えてカメラに届けるのがサーキュラーPLフィルターです。
蛇足ですが、サーキュラーPLフィルターを逆から見ると、一切の偏光除去効果は生まれません。これは物体表面で反射して直線偏光になった光が先に1/4波長板を通過してしまうと、その時点で直線偏光ではなくなるため、続く(直線)偏光板を、偏光軸がどちらを向いていても通過してしまうからです。皆さんもフィルターを逆向きにして肉眼で確認してみてください。この事を知らないと、中古フィルターを見つけたときに外側(レンズ側ではない方)から覗いて偏光効果を確認できず「お前は既に死んでいる!」と勘違いしてしまいます。
サーキュラーPLフィルターは直線偏光を向きのない偏光(円偏光)に変えてしまうため、一枚目のフィルターを通過した光も直線偏光にはならず、従って二枚目のフィルターでそのまま通過させたり(この場合前回掲載した普通のPLの左の写真のように、二枚重ねでも濃度が変わらない)、完全除去したりする(この場合は前回の右の写真の用に真っ黒になる)ことは出来ないのです。だから何も起きない...と思って実験してみました。すると予想外の事が起きました。
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サーキュラーPLフィルターを二枚重ねた写真。左側が一番暖色系になる位置のもの、右側は一番寒色系になる位置のもの。これだけの色味の違いが出ます。但しこの写真でも分かるように二枚重ねの部分の濃度はCーPLフィルター二枚分あり、露出倍数は6〜8ある事になります。 |
二枚のフィルターの偏光軸の相対的な角度を変えても理論どおり濃度変化は起きませんが、色味が変わったのです。僅かなブルーから僅かなアンバーに。多分ケンコーの型番で言えば、W2からC2ぐらいの変化はあると思います。恐らく1/4波長板の特性により、直線偏光軸との相対角度で光の周波数特性が変わるのでしょう(下記注釈参照)。これは濃度があまり濃くならないために、ムラは事実上ありません。ひょっとしたら使えるか??但し二枚のCーPLフィルターを重ねていますので、露出倍数は6〜8あり、ガラス4枚重ねによる画質低下も相変わらずあります。それでも興味のある方は実験してみてください。
(注釈)この様な現象を起こす理由を推論してみましょう(正しくないかも知れません)
1/4波長板というのは、異方性(90度違う方向〜X軸とY軸で屈折率が異なる特性)を持つ物質で作ります。
一方、光の屈折体の中の速度は、屈折率に反比例します。つまり屈折率の大きい物体の中では光は遅く進みます。
異方性を持つ物体の中を、X軸/Y軸と同じ方向の振幅を持つ一組の直線偏光が進むとすると、それぞれの光が感じる屈折率が異なるために、X軸の偏光とY軸の偏光では速度が異なり、物質を通過したときの位置(位相)が異なってしまいます。異方性物質の厚みを調節することで、一方(X軸に平行な偏光)の位相を直交するもう一方の光(Y軸に平行な偏光)から1/4波長(位相で90度)だけ遅らせる様な特性をもたせた物が1/4波長板です。(説明するのが難しいね〜)。
円偏光というのはX軸とY軸それぞれの振幅方向を持ち、位相が90度ずれた一組の直線偏光と同じ事ですが(この二つの偏光の合成ベクトルは、くるくる回転することになります)、それは直線偏光板の後に、直線偏光軸に対して45度ずれた角度で1/4波長板を貼りつけることで生成されます(これがサーキュラーPLフィルターの基本構造)。
所で、1/4波長板というのは、光のある基準波長に対して設計されます。写真用に用いられる1/4波長板は恐らく可視光線の丁度中央の光の波長で設計されているでしょう。しかし、可視光の範囲は広いから、大多数の光は基準波長からズレている事になります。この基準波長からズレた光が入射すると、片方(X軸)の偏光が遅れる波長も1/4からズレるため、1/4波長板を通過した光は完全な円偏光にはならず、僅かな直線偏光成分が残ります。それは片方の軸(X軸)に設計基準波長よりも波長の長い(赤い色)の成分が残り、もう片方の軸(Y軸)には設計基準波長よりも波長の短い(青い色)の成分が残ることになります。両者を合計すれば元の白い色に戻ります。
しかし1/4波長板の背後にもうひとつ直線偏光板を置いて、X軸成分の偏光を取り除く位置にすればY軸の青い色の直線偏光成分が残るので青みがかり、逆にY軸成分の偏光を取り除く位置にすればX軸の赤い色の直線偏光成分が残るのでアンバーがかる、という訳です。(この説明で理解できた人、もしくは誤りを発見できた人は手を挙げてください〜(笑)) |
あ〜、疲れた。この説明はどの本にも載っていなかったので、ウン十年前に学んだ(すっかり忘れてました)偏光について復習し、その後思考実験を繰り返して導いた推論です。5時間ぐらいかかりました(笑)。
ところで「普通のPLフィルターとサーキュラーPLフィルターを重ねたらどうなるのでしょう?」という素敵な疑問をモグラさんが投げかけてくれました。これは面白いですよ!どうなるか上記の説明でお分かりになるでしょうか?
色温度可変フィルターは一枚目の偏光板を通過した可視光が、次に1/4波長板を通過して(微妙な直線偏光成分を残した)円偏光になり、その上で更に直線偏光板を通過したときに成立します。ですから前から
CーPL → PL → レンズ (PL→1/4波長板→PL→レンズ)
と装着した場合は、色温度可変フィルターになります。但しレンズ直前のフィルターはPLなので1/4波長板が無く、直線偏光がレンズに入射することになります。だからこれはMFカメラ専用です。AFカメラで使う場合は、CーPLフィルター2枚が必要です。逆に、
PL → CーPL → レンズ (PL→PL→1/4波長板→レンズ)
と装着した場合は、一枚目の偏光板を通過した可視光は直線偏光になり、そのまま第二の偏光板に突入します。だからこの場合は可変NDフィルターになります。そして最後に1/4波長板がありますので、この可変NDフィルターはAFカメラで使える事になります。前回つぶやきで書いた普通のPLフィルター二枚による可変NDフィルターの場合はMFカメラ専用という事になります。
いや、モグラさんの素敵な質問が無ければ、この役に立たない可変NDフィルターと色温度可変フィルターのAFスペックの説明を落とすところでした。Thanks!
冒頭に「役に立たない」と書きましたが、今回のつぶやきは皆さんの睡眠薬になったかも知れませんね(^o^)。
今回、直線偏光から円偏光への変換原理を調べるために、大阪大学大学院、基礎工学研究科、物理系/電子光科学専攻、光エレクトロニクス講座、山本研究室、田中助手(応用光学)のホームページにあるレーザー実験のページを参照しました。このホームページはまだ未公開で、田中助手が物理の大学生の実験課題に用意しているページのようです。YAHOO検索で見つけました。もっと分かりやすい説明をご覧になりたい方はそちらを参照下さい。ただ、一点だけ記載に誤りがありますのでご注意下さい。
(b)円偏光は,互いに90度をなす偏光ベクトルがπ/4の位相差で振動しているのと等価
緑字の部分は正しくはπ/2、もしくはλ/4です。 |
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