ペンタックスAF28-70mmF4の開放F値一定の仕組みが、光学系は開放F値変動で作られているけど、開放F値の明るくなる広角側で自動的に絞り込まれる事で公称開放F値を一定にしているという話を、以前のつぶやき(vol.52)で書きました。
その後、色々な開放F値一定の標準ズームをチェックすると、広角側で絞り込まれるのはペンタックスに限ったことではなく、私の触ったレンズは全てそうでした。私がチェックしたのは以下の通りです。
SIGMA AF 28-70mm F2.8 EX(新型のDFも光学系は同じです)
SIGMA AF 24-70mm F2.8 EX DF
Canon EF 28-70mm F2.8L USM
Tokina AT-X 28-70mm F2.8 PRO
Tamron SP-AF 35-105mm F2.8
恐らくこれ以外のレンズ、ニコン、ペンタックスやミノルタのF2.8標準ズームも広角側で絞り込みが行われているのでは無いでしょうか(違っていたら教えてください)。
つぶやき52でも書きましたが、ニコン、ペンタックスなど絞りリングで絞りを調節する機種には、絞り込みによりF値一定にする機構に意味があります。ある絞り値に絞りリングを合わせても、ズーミングで実際のF値が変動してしまっては、特にマニュアル撮影で困ったことが起きるからです。しかしカメラ側で電子的に絞り制御するキャノンEOS、ミノルタα、ニコンの最新機種のいくつか、シグマSAの場合は特に意味を持ちません。開放F値変動ズームを使った場合でも、カメラ側である絞り値に設定すれば、ズーミングによる開放F値変動に関わらず、電子制御で常に一定の実効絞り値に調節されるからです。たとえばEOSでEF28-105mm
F3.5-4.5 USMを使ったときの状況を説明しましょう。このレンズ光学系を使って開放F値一定ズームを作ろうとすれば、それは広角側で2/3段絞り込む機構を組み込み、EF28-105mm
F4.5 USMというレンズになります。しかしその機構を組み込まずとも、カメラ側でF4.5にセットすれば、レンズはズーミングによる開放F値変動に関わらずF4.5の絞り値で動作します。一方、広角絞り込み機構が無ければ、広角側でより明るい絞り値(F3.5)を使うことも可能というメリットが生まれます。広角側でF3.5にセットからズーミングしても、開放F値が変動すればそれは自動的にカメラに表示され、露出も調整されるので、開放F値変動を気にすることが殆どいらないのです。つまり広角側絞り込み機構というのはEOS、及び上記に記載したシステムの場合に必要性がなく、デメリットばかりという気が私にはするのです。
多くの28-70mm F2.8クラスのレンズの光学系スペックはどの様になっているのでしょうね。幾つの事例から推測しましょう。シグマの廉価ズームに28-70mm
F2.8-4があります。一世代前のキャノンEFレンズにも28-80mm F2.8-4Lというレンズがるので、これらでは1段もの開放F値変動がある事になります。それ以外の3〜4倍のズーム比を持つF値変動標準ズームレンズも、概ね2/3段から1段の変動幅を持っています。この事実から推測すれば、いま世の中で発売されている28-70mm
F2.8ズームから広角側絞り込み機構を取り外すと、広角側の開放F値は悪くてF2.2、概ねF2.0ぐらいになるものと思われます。
さてあなたは使い勝手、大きさ、重さ、デザイン、基本性能、値段に仮に差がないとしたら、どちらのレンズに魅力を感じますか?
A 28-70mm F2.8
B 28-70mm F2.0-2.8
私は言うまでもなくBです。いざというときに一段明るい絞り(F2.0)が使えるという事は非常に強力な武器だと思います。少しでも明るい絞りを使いたいが故に私は海外出張に(多少の画質に目をつぶり)コンパクトで、他の標準ズームよりも広角側F値の明るいSIGMA
AF28-70mm F2.8-4を持って行くのですから。そしてF2.8という開放値に助けられたことは多々あります。
では、何故デメリットだらけと思われる広角側絞り込み機構を使って、F値一定ズームが氾濫しているのでしょう?絞りリングを持たないシステムのメーカーの視点から、広角側絞り込み機構の意味/メリットを考えてみましょう。
第一の意味は「F値一定」という宣伝文句が使えることです。ニコン、ペンタックスを初め絞りリングを持つ会社もまだ多々ありますから、F値一定という事が大事であるかの様な風潮が蔓延していています。それはEOSやミノルタαユーザーでさえ、プロアマ問わず信じています。しかしこれは日本を中心とする一部の国の風潮で、少なくとも欧州ではあまり関係ないようです。ちなみにトキナーAT-X28-70mm
F2.8 PROは欧州ではF値変動ズームとして売られていて、広角側開放値はF2.8よりも明るいのです。ドイツで確認しました。
一部のマニュアルしか使わないプロにとっては、如何なる場合もF値が勝手に動いてもらっては困る(広角側で開放にしてから、望遠側にズームすると発生します)、という人もいるかも知れません。その人の場合にはレンズにスイッチを一つつけて、開放F値固定モード(つまりROMからの信号をF値一定にして、広角側では絞り込みを撮影時に行う)を設定すれば済むことです。こう考えると果たしてF値一定は本当に意味があるのでしょうか?
第二の意味は、広角側での画質確保です。レンズテストなどで多くのF値変動・廉価標準ズームが低評価を受けるのは広角側です。広角側の周辺光量、周辺解像度、コントラスト、そして非点収差など。これらは1段絞り込むだけで相当に改善されます。だから広角側の開放F値を1段分捨てることで、「広角側から十分に使える画質。周辺光量もズームとしては優秀」とか言う評価をメーカーは手に入れることが出来ます(歪曲収差は別)。
でも、なんとなく騙されたような気になりませんか??だって、これを突き詰めると、広角側のF値が暗くなるズームを作れば(広角側絞り込み機構を使えばとても簡単です)、一見もっと高画質なズームレンズになってしまうのですから。
第三の意味はF値一定の望遠ズームとのコンビネーションでしょうか?まだ多くをチェックしていませんが、70-200mm
F2.8クラスのズームでは、光学系そのものが開放F値一定の設計になっているようで、数少ないチェックの範囲では、広角側で絞り込みの行われるズームを見たことが無いからです。少なくとも私の持っている
SIGMA AF70-200mm F2.8 EX HSMでは広角側の絞り込みはありません。
カメラマンは少しでも明るいF値欲しさに、多額の追加金額をレンズに払っています。しかし本来F2.0クラスの開放F値を持つレンズがF2.8からしか使えないレンズとして(当然F2.0クラスのレンズの価格で)売られている現状は如何なものでしょう。開放F値一定という(少なくともEOS/α/SAでは)意味のない呪縛から解き放たれて、F2.0ズームを使いたいとは思いませんか? |