SIGMA AF14mm F2.8 EX HSMが発売されて旧型となったレンズです。このレンズ、開放時の解像度、周辺光量などの性能は宜しくありません(笑)。また14mmという焦点距離を使いこなすのは簡単ではありません。しかしその特性を理解でき、財布の中味の軽い人には絶対にお勧めのレンズです。他の焦点距離のレンズでは手に入らない14mmの世界
(注)
が4万円以下で手に入るのですから。
(注:15mmや13mmでも手に入る、などという突っ込みはしないように(笑))
まずはスペックの確認をしましょう。
SIGMA AF14mm F3.5
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全長x最大径 74.5x81mm
重さ 536g
レンズ構成 11群13枚
画角 114.2度
最小絞り F22
絞り羽 6枚
最短撮影距離 18cm
最大撮影倍率 1:6
フィルター 後部差し込みゼラチン
フード 花形固定式
発売 1993年3月
価格 キャノン/SA用 80,000円、
ニコン、α用 75,000円
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ご覧の様にずんぐりとしたサイズのレンズで、ガラスの固まり!という見た目に相応しく持ったときにずっしりとした手応え、密度感があります。
ピントリングは幅の狭いもので、しかも窪んだ形になっていますので、操作性は良く有りません。また操作トルク感は弱く、比較的スカスカ回ります。但し、実用上とくに不便はありません。
フードは固定式です。フィルターはレンズ後部にゼラチンフィルターを差し込むホルダーがついており、そこに嵌まる形にフィルターをカットする「定規」が付属しています。ケースは新品時から付属していません。レンズキャップはフードを逆さまにしたような筒状のキャップの先端に72mmのフィルターネジが切ってあり、そこに72mmの汎用レンズキャップを装着することで、出目金の様な先端部全体を覆う形になっています。この筒状のキャップは金属製で、内側には滑り止め&傷止めのクッション材が貼ってありますが、縁は金属丸出しです。一方の固定フードも金属。キャップ装着時には金属同士が最初に触れ合う形になるので、フードの縁に傷が付きやすくなっています。私のレンズは既に2個所ほど傷がつき、黒塗装が剥げてしまいました。
筒状のキャップを装着したまま、汎用レンズキャップだけを外して撮影すると、丸くけられて一見円形魚眼の様な写り方をします(完全な丸ではなく、上下が切られた形です)。またこの場合は72mm径のフィルターも使えます。しかし歪曲の殆ど無い円周画像は、魚眼というよりも覗き穴から撮影したようになるので、実際の使い道は少ないでしょう。
このレンズの最大の特徴であり、使いこなしのコツとなるのが、最短撮影距離18cmと寄れる事です。この撮影距離はフィルム面からの距離であり、レンズ先端からだと6cmほどになります。しかしこれだけ寄っても、例えばヒマワリの花弁部全体が写ってしまうほど強烈な画角を持っています。逆に言えば一般的な花なら普通の大きさ(50mmレンズで50cm以上離れて撮影した大きさ)にしか写りません。散漫にならない画面構成を作る為にはとにかく徹底的に「寄る!」ことが必要になるレンズです。このレンズで撮影するときに私は殆どの場合で最短撮影距離付近を使っており、30cmを超える事は風景か大きなオブジェでも撮影しない限り全く無いと言えます。だからこのレンズを使った経験で判断すれば、14〜15mmぐらいのレンズで最短撮影距離が20cmを大きく超えるものは使いにくいでしょう。
新型のSIGMA AF15-30mm F3.5-4.5 EXは最短撮影距離が30cmもあり、15mmというパースペクティブを活かした撮影にはかなりの制約がありそうです。発売したてのキャノン
EF16-35mm F2.8Lは28cm、まだまだ寄りたい感じがします。キャノンのEF14mm F2.8Lも25cmと最短撮影距離が長く、使いにくそうですね。この焦点距離だと1〜2cmの最短撮影距離の違いが画面を大きく変えてしまいますので(ホントですよ、見たことのない人には想像もできないでしょうけど)、シグマの14mmとの7cmの差(レンズ面からの距離なら2倍以上も違う事になります)は天地の差を生みます。14〜15mmのレンズに限りませんが、広角レンズ選びで一番大切な事は最短撮影距離だと個人的には思っています。いくら画質が良くても寄れない広角レンズは価値半減です。
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レンズ最短撮影距離での被写体との位置関係。鼻の先にピントは合わせています。横位置でも犬の人形はほぼ全部画面に収まっています。前足の先端だけはみ出ています。縦位置なら余裕で犬は全景撮影出来ます。 |
蛇足ですが、このレンズで「寄って」撮影している姿は、傍目には異様な様です。ヒマワリ撮影の時にはこんなエピソードがありました。私はこのレンズを使って最短撮影距離付近でヒマワリを撮影していました。早朝であまり明るくなかったのでスローシャッターが必要となり、三脚を使ってカメラをセットしました。傍目には大きな花の中に頭を突っ込んだ様な位置です。直径30cmぐらいある花の目の前6〜8cmにカメラ&レンズをセットしたのですからそう見えても不思議はありません。この姿を見て、カメラマンが何人か寄ってきました。
「すごいですね。マクロレンズですか?」
「いえ、超広角です」
「へぇ〜.....ちょっと覗かせてもらって良いですか?」
「どうぞ」
(ファインダーからは目と鼻の先ある筈のヒマワリの花の全景と、
多くの背景が強烈なパースペクティブで見えている)
「うゎ〜、凄いわ。こりゃ敵わん」
(カメラマンの友人) 「ほ〜、凄いんか?」
「凄いわ。マクロレンズで撮るんじゃけん、こりゃ適わん!」
(....だからぁ、マクロじゃない、超広角だと言ってるだろうに....(-_-;))
次の話題は周辺光量と周辺画質です。広角レンズの開放時の周辺光量など、どのレンズでも多かれ少なかれ不足しますが、このレンズははっきりとファインダーで分かるほど落ちます(笑)。サンダー平山氏も申しておりますが、それを欠点と捉えるのは想像力(イマジネーション)の不足。これを利点と捉えて開放で思いっきり落ちる周辺光量を画面造りに活かす事が出来ます。とはいえその様な描写が生きる被写体も多くはありません。
周辺光量の落ちをなくすにはF11〜F16まで絞る必要が有ります。私はこのレンズの開放値が実はF8で、ピント合わせ専用F3.5モードが付属しているのだと個人的には捉えています(笑)。この様な発想でいれば、"F8"開放での画質、周辺光量に何ら不満はありません。周辺光量の落ちは原版で僅かに感じるものの、35mmクラスの広角レンズ同等であり、更に1〜2段絞れば解消できます。本当の開放(F3.5)ではっきりとボケボケになる周辺の画像もF8よりも絞り込めば見れる画質になります。また主役を配置する画面最周辺部以外の画質はF8なら完璧なほどにシャープです。
周辺光量、周辺画質に話を戻せば、キャノンのEF14mm
F2.8Lでも開放ではガタガタです。F4〜F5.6ぐらいまで絞れば不満が無くなるそうですが、ある程度絞り込まなければ画面全体に均質な画質が得られないという事情は、14mmというウルトラワイドの世界では30万円のレンズも、それよりも一桁安いレンズでも同じ事です (実用になる絞り値は1〜2段違いますけどね)。
ボケ味....と言うと、「え、超広角でボケるの?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、ボケます。既に述べたようにこれだけの画角だと寄らないと絵造りが難しい、寄ると多少絞っても背景はボケます。F16まで絞って、最短撮影距離までは寄っていない(撮影距離は多分30cmぐらい)この写真でも、背景がボケているのが分かります。超広角に多くを望むのは酷ですが、ボケ味はもう少し柔らかくあって欲しいです。やや粗いボケになっています。
さて、このレンズの最大の欠点に話を進めましょうか(笑)。それは晴天時なら完全な順光以外では事実上使えないという事です。逆光に弱いというのはシグマに共通した欠点ですが、このレンズの場合には真横、あるいはやや斜め後ろに太陽があっても画面内に強烈なゴーストが発生します。これは鏡筒内面の反射よりも第一群レンズ内部の反射によるものです。下記写真にあるように出目金の様に飛び出たレンズは、フードの切れ目からだと真横だけではなく、やや後ろからでも見えています。ここに強い光が入射すると、レンズ内で複雑に反射して大きなゴーストを作り出す様です。第一群レンズにはフレアカットコーティングという、淡いグレーの着色が画面サイズに近い形でなされていますが、効果は無いようです。するなら半透明の着色ではなく、EF20-35mm
F3.5-4.5 USMの様に完全不透明にした方が効果は高いでしょう。
この欠点を避ける為に、私は曇天時や早朝にこのレンズを使う事が多くなっています。晴天時なら太陽が雲に隠れた瞬間を狙います。
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<左の写真>
斜め後方からでも、第1群レンズはフードの切れ目から見える(黄色い矢印部分)ので、太陽が斜め後にあっても画面内に強烈なゴーストが出ます。
<右の写真>
レンズ後部のゼラチンフィルターホルダー。レンズ後部の形に切ったゼラチンフィルターを爪(黄色い矢印部分)から挟み込みます。 |
長文になりましたので、次回への続きとします。まだまだ続きますよ! |