前回つぶやきからの続きです。まだ前回分をお読みになっていない人は先にそちらをお読みください。
前回ではニッケル水素電池の特長、アルカリ電池、ニッカド電池との違い、デジタルカメラとの相性の良さなどを説明しました。今回はこの電池の使用上の注意や欠点などを書いてみます。
3.使い切ってから充電する。これ原則。
ニッケル水素電池にはニッカド電池同様に「メモリー効果」があります。これは容量を使い切らないうちに充電を繰り返す(いわゆる継ぎ足し充電する)と、容量が少なくなるというものです。万一メモリー効果で容量が減っても、きちんとした放電と充電を繰り返すと復活します。しかし日常の使用においては、カメラが電池切れと判断してから充電する、という事を習慣付けた方が良いでしょう。
なお、一部に「ニッケル水素電池にはメモリー効果が無く、継ぎ足し充電が可能」という誤った情報が流れています。ニッケル水素はニッカドに比べるとメモリー効果は少ないですが、厳然として存在しています。まあ、緊急時に限り継ぎ足し充電が可能、ぐらいに捉えれば良いと思います。
不思議な事ですが、汎用ニッケル水素電池の充電器に放電機能を内蔵したものがありません(注)。これがあればメモリー効果を気にせずいつでも充電できるのですけどね。放電器としては秋葉原の秋月電子通商からキットが発売されています。素人考えだと懐中電灯による放電を思い付きます。充電前の電池を懐中電灯に入れて暫く放置すれば放電できるというものです。私も思い付いて実行したこともありますが、これは厳禁です。ニッケル水素電池の適正放電限界電圧(放電終止電圧というようです)は1.0V前後で、これ以下まで放電させると電池を傷め、再充電出来なくなったり、液漏れの原因になったりするようです。ニッケル水素電池は過充電、過放電に弱いのでご注意を。
ニッカド電池は過充電、過放電に強く、その為に古いタイプの充電器には自動では充電停止しない物がありましたが、過充電にも弱いニッケル水素電池の充電器はみな全自動タイプです。充電終止電圧も違いますのでニッカド用の充電器でニッケル水素電池を充電すると、電池を傷める事がありえますので使用しないでください。
(注)ソニー製のニッケル水素充電器にリフレッシュ機能(放電機能)の内蔵された物が発売されました。大容量2000mAh対応タイプで、単三ニッケル水素電池4本とセットで4000円程度で販売されています。単三、単四ともに充電できます。(2003.2.1追記)
4.電池、電池ボックスの端子を綺麗に保つ。これはハイパワー電池の鉄則。
充電電池を急速充電するときには大電流が流れます。また、ニッケル水素電池を推奨する機材の多くも大電流を要求します。この時にもし電池の端子、電池ボックスの端子などに指紋や汚れがついているとトラブルの元になります。
急速充電器は大まかに言えば大電流を流しながら電池両端の電圧を監視し、ある電圧になったら満充電と判断します(実際にはもっと細かい制御をしているようですが、ここでの論旨には影響しません)。その時に端子が汚れて接触抵抗が発生していると、実際には電池両端の電圧が満充電状態に達していないにも関わらず、接触抵抗x電流に相当する電圧だけ高く誤解してしまい(電圧=電流x抵抗値 V=I・R です。)充電を完了してしまいます。だから満充電したと思っていた電池が実は充電されていなかった、というような事が発生します。
使用時においても似たようなトラブルが発生します。機材が大電流を要求したときに、端子が汚れていると接触抵抗により電圧降下が発生し、まだ容量があるのに機材が電池切れと判断してしまいます。
ですから、充電時、電池装着時に布などでかるく端子を拭き取る癖をつけましょう。素手で拭くのは油が付くのでダメですよ!
5.予備電池には配慮が必要。
使い切ってからしか充電できないとなると、使用途中での電池切れ時の対処が問題になりますね。一般的にはもう1セットのニッケル水素電池を用意して、充電した上で持ち運べば良いのですが、考慮すべき事があります。それはニッケル水素電池は特に高温時において自己放電が大きく、満充電してから放置しておくとどんどん容量が減って行く事です。細かいデータがありませんが、20度保存で1カ月放置すると15〜20%ぐらい、45度で1カ月放置すると30〜40%ぐらいの容量が減るようです。デジタルカメラの様に比較的短期間で電池切れになる機種の予備なら問題ないでしょうが、ふつうのカメラやストロボの様に数カ月以上も電池交換の必要の無い様な機材の予備電池としてニッケル水素電池を用いると、必要なときには予備電池の容量が減っていたという事になりかねません。これはニッカド電池を用いても同様です。それらの機種にはむしろアルカリ電池とかリチウム電池の様な非充電式の自己放電のほとんど無い電池を予備として持ち歩き、ニッケル水素電池を再充電する間だけのリリーフ電池として用いるのが良いでしょう。適材適所で予備電池を配置ください。
6.終わりは突然きます。予備電池は忘れずに。
ニッケル水素電池の特徴である、容量末期までほぼ1.2Vという放電電圧を保ち、末期に急激に電圧降下する事は、ある意味で容量末期の判断が分かり難いという事です。予めニッケル水素電池の使用を想定した機材なら電池容量の表示も信用に足りますが、そうでない機材の場合、電池容量表示がFullだと思っていても、突然電池切れ/動作不能になることがあります。アルカリ電池の場合には連続的に電圧降下をしてゆくので、電池寿命に近づくと機械の動作が遅くなったり、照明の明るさが暗くなったりする事で寿命に気づき、かつその様になっても暫くは使えます。しかし、ニッケル水素電池にはその様な現象がおきにくいのです。突然の終焉に備えて予備電池は必携です。
7.アルカリ電池に比べれば低温性能に優れる。これは冬場助かります。
アルカリ電池で冬の屋外撮影に行くと、新品電池なのに撮影できなくなる事が多々あります。低温時の性能低下は全ての電池にありますが、ニッケル水素電池はアルカリよりも遥かに良い低温性能を持っています。私はEOS3のバッテリーをアルカリからニッケル水素に切り替えて、冬の日の出の撮影でも電池性能の低下に見舞われることの無い、快適な撮影が出来るようになりました。
一般論で最も低温性能が高いのは非充電式のリチウム電池で、ついでニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンと3種の充電電池が続き、大きく遅れてアルカリが最後にきます。但し、キャノンのカタログで見るとニッカドが一番低温性能に優れ、次いでリチウム電池、ニッケル水素電池、アルカリ電池の順になっています。キャノンのデータをベースに推定すれば、マイナス20度時の撮影可能本数は、低温時の性能低下の大きさを容量で補って、ニッカド(ハイパワーではない700mAhクラスの従来タイプ)とニッケル水素はほぼ同等と思われます。
キャノンEOS3のカタログによる各電池の撮影可能フィルム本数
(撮影可能フィルム本数は24枚撮りのキャノン発表値)
赤字は単三ニッケル水素の低温性能がニッケル水素パック同等と仮定してKENが算出した参考値。
*
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電池種類
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20度C (A)
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-20度C (B)
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(B) / (A)
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PB - E2
(単三8本) |
単三アルカリ
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125
|
7
|
5.6%
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単三ニッカド
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50
|
36
|
72.0%
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単三リチウム
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180
|
75
|
41.7%
|
ニッケル水素パック
|
100
|
30
|
30.0%
|
単三ニッケル水素(参考)
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110
|
33
|
30.0%
|
BP - E1
(単三4本)
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単三アルカリ
|
60
|
0
|
0.0%
|
単三ニッカド
|
20
|
15
|
75.0%
|
2CR5リチウム
|
75
|
18
|
24.0%
|
単三ニッケル水素(参考)
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45
|
13
|
30.0%
|
8. 新品電池は充電しないと使えない。
新品の電池は長い間充電されていませんので、自己放電を起こし容量が無くなっています。だからまず充電しないと使えません。また、長い間使われていないので、内部が多少不活性状態になっていることが多く、最初の1〜2回の充放電では本来の性能(電池寿命)を発揮しない事があります。本領発揮は3回目の充電後ぐらいからでしょう。だから最初に使用したときに直ぐに電池切れになったとしても、ガッカリしないでください。3回目ぐらいから期待に沿う性能を発揮するはずです。
9.35mm一眼レフカメラに使う。バッテリーパック/縦位置グリップがお勧め。
私はEOS3にバッテリーパックBP-E1を付けて単三ニッケル水素電池4本を挿入しています。このバッテリーパックにはリチウム電池2CR5も同時装着でき、万一の電池切れの時にスイッチ一つでリチウム電池に切り替えられるので、充電電池を使う上で極めて便利な装備です。ミノルタα9の縦位置グリップも単三電池を含む複数の電池を同時装着できるのでお勧めです。
EOS55、EOS7、などのバッテリーパックには単三電池か、リチウム電池のいずれかの装着になるため、もしニッケル水素電池を使うとすれば、リチウム電池2CR5かアルカリ電池を予備(リリーフ)電池として持ち歩く事が必要でしょう。予備電池を持ち歩くのはどの電池を使っても同じ事ですけどね。
EOS1N-RS、EOS1/3シリーズにパワーブースターPB-E1、PB-E2を装着した時にも、アルカリ電池の代わりとしての単三ニッケル水素電池がお勧めです。但しこの場合、専用のニッケル水素パックを装着したような超高速化は実現できません(電源電圧が異なります。キャノンのニッケル水素パックは10セル)。しかし容量末期まで電圧が安定し、大電流を放出できますので、最後まで高速モータードライブの特徴を活かしたフィルム給送が可能だと思います。
ニコンF5への単三ニッケル水素電池の使用について
ニコンF5への単三ニッケル水素電池の使用は、あまり良い結果にならない場合が有るようです。この理由は、F5がバッテリー切れと判断する電圧が9〜9.5Vと高く、ニッケル水素電池の定常時の電圧1.2Vx8=9.6Vと殆ど差がありません(デジカメ以上にシビアですね)。従って電池を入れた直後、あるいはさほど撮影していないのにバッテリー切れになるケースが有るようです。この現象を回避する為に、ドイツでは単三ニッケル水素電池を9本装填する為のアダプターが売られていました。そのサイトによれば純正のニッケル水素パックも電池を9本内蔵しているそうです。しかし、別の日本人の方が実際にニッケル水素パックを分解したところ(単三ではなく、もっと小型の特殊サイズ)10本だったそうです(メールで連絡を頂きました)。高速駆動を気にせず早々の電池ぎれを防ぐだけであれば、単三ニッケル水素電池9本(10.8V)で十分な効果を発揮する筈です。加えて純正ニッケル水素パックの容量は凡そ1000mAHですが、最近の単三ニッケル水素電池は2100mAH以上の物が有りますので、単純に言えば容量が二倍に増えます。
なお、単三ニッケル水素電池9本をニコンF5に装填できるように自作でアダプターを作り、公開している方もおられます(ニッケル水素パックを分解された方とは別の方です)。→http://homepage3.nifty.com/nobu1/ |
ストロボに使うのはケースバイケースですね。使用頻度の高い人なら良いですが、私の様に使用頻度が低く、1年以上も電池交換しない人はむしろ自己放電の少ないアルカリ電池の方が良いでしょう。但し、液漏れによる機材損傷を防ぐために、使用時以外は電池を抜いておくことをお勧めします(詳細はつぶやき215)。
その他、ポータブルMD、ポータブルCDなどで単三/単四電池で駆動するもので使用頻度の高いものにはニッケル水素が必須でしょう。
以上の様な利点、欠点、注意点を理解された上で、ニッケル水素電池を活用ください。 |