広島県佐伯郡湯来町(現在は広島市に合併され「広島県広島市佐伯区湯来町」に変わっています)に見事な枝垂れ桜があります。2002年3月30日と31日に撮影に行きましたので、その状況をご報告しておきましょう。
2009年3月28日追記:この桜の周りで宅地造成が始まり、桜の撮影環境は大きく変化しています。レンギョウを前景、山を背景にした撮影は不可能になっています。その様子はつぶやき305に掲載しました。
1. 場所
枝垂れ桜は湯来温泉の東隣の「湯の山温泉」の入口にあります。広島市内からだと、五日市から魚切ダム方面(県道・五日市-筒賀線)および国道433号線を北上し、湯来町役場前のT路地に突き当たったら右折して、約1km左手です。湯の山温泉の大きな案内があるので迷うことは無いでしょう。
湯の山温泉入口に入ると、左手に枝垂れ桜が見えます。通常の駐車場は枝垂れ桜を行きすぎて、小さな橋を渡った右手にありますが10台程度しか停められません。その手前にも数台停められるスペースがあります。多くの訪問客が来る桜シーズンには、加えて桜見物者用の臨時駐車場も設けられます。湯の山温泉入り口を入ったらすぐに左折して、道なりに進んだ所に湯来町スポーツセンターがあり、その前の駐車場(20台程度)が開放されるのです。しかしそれでも、満開時の訪問者には少なすぎ、付近の道路はクルマで埋め尽くされ、入りきれない人達も大量に出たようです。31日に湯の山に行ったけど駐車場に入れず、花で有名な可部線・安野駅の撮影に回ったという人がいたそうですから。
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左;国道433号線から見る湯の山温泉入り口。枝垂れ桜は「湯の山温泉まつり」の横断幕の後ろに見える。右側のクルマ二台が写っている道を登った左手に枝垂れ桜がある。横断幕手前の道を左に行けば、臨時駐車場がある。
中;この赤い橋を渡った右手が、10台ぐらい停められる駐車場。左に行くと枝垂れ桜があるが、クルマは進入できない。
左;臨時駐車場となる「湯来町スポーツセンター」。この建物の裏側にトイレがある。 |
2. 枝垂れ桜と、周りの状況
枝垂れ桜の下にある説明書きによれば、樹齢70年、樹高18m、幹廻り2m44cm、昭和7年に苗木が植えられて大切に育てられたとの事です。まだ若い木なので枝ぶりは見事で、また全体の形も端整で「美人」だと思います。
桜の植えられている状況ですが、撮影を行う北側から見た場合、桜の木のすぐ左には家があり、また電柱、電線もあります。形の良い左側の枝の背後には民家の屋根が見えています。木の下方には国道沿いにある民家や電柱、電線が見えており、桜の木の全景を捉えようとすると人工物がどうしても画面内に入ってきます。それをどの様に上手く処理するかが撮影のポイントになるでしょう。背後には山がありますが、撮影ポジションによっては山の稜線が桜の途中を横切りますので、稜線を基準とした撮影ポジション選びもポイントの一つになります。
桜の木の北側は広場があり、観望場所になっています。また北西側には畑があり、そこにはレンギョウが植えられていて、そのレンギョウの背後から撮影すると黄色いアクセントになります。但し畑の中には入れませんので、かなり離れた場所(畑の北側にクルマは入れない細い未舗装の道があります)から望遠で狙う形になります。
桜の木の南側は民家の敷地になっていて、こちら側からの撮影は困難です。
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左;桜の北側の広場からみる枝垂れ桜全景。桜の左手、及び後方には家があります。この写真では判りにくいですが、なかなか端整な形をした桜です。
右;桜の北西側(左側の写真の右後ろ)にある畑。黄色、赤、ピンク、白の花が植えられていて、これを前景に使うと絵になります。後方の畑と林の境の所に道があり、そこから撮影できます。但し霧の出る時間はカメラが2〜3重に並ぶ記者会見会場のような混雑ぶりです。 |
3. 満開時の人出と撮影の実際
3月30日、私は午後から広島県北部の桜の開花状況の偵察に出かけました。ほぼ日没の時間にこの湯来の枝垂れ桜を訪れましたが、2002年は桜の開花が例年よりも10日ぐらい早い為に、3月末で既に満開でとても良い状態でした。それで翌日早朝から撮影に来ることにしました。日没時のカメラマンはホンの数名で、名所とは思えないほど閑散としたものでした。だから翌日もゆっくりと撮影できるのだろうと高を括っていました。
3月31日、起床は朝3時半です。そしてすぐにクルマに乗り、湯来を目指しました。さすがにこの時間帯だとどの道も空いているので、4時半頃には湯来町役場前交差点にさしかかりました。しかし...そこには十台ほどのクルマが信号待ちをしていて、それらのクルマは全て湯の山温泉に入っていったのです。そして先頭のクルマから順番に通常の駐車場に停めていったので、私はその駐車場からあぶれてしまいました。それで少し離れた場所の広場に駐車しました。...まだ真っ暗な朝4時半だというのに....その後も桜撮影にやってくるクルマは絶えることが無く、5時すぎにはおもな場所には三脚が林立することになりました。
私が真っ暗な早朝から来たのには目的がありました。月夜の桜を撮影するためです。この日は満月を少し過ぎた月齢で、日の出まで西の空に大きな月がありました。しかし誤算が三つほど...
最初の誤算は霧が出ていたことです。このシーズンは晴れていると霧が出るようです。その霧は山の中腹の高さに広がるもので、地表付近までは下りてきません。その結果、霧が月を隠す事が多く、月明かりの撮影が出来た時間は極く僅かでした。加えて霧は地表のものを隠しませんので、数少ない月明かりの写真の隅には、肉眼では見えなかった人工物が写っていて魅力的な写真にはなりませんでした。
二つ目の誤算は、人出が多いことです。おかげで好きなカメラポジションを採ることが出来ません。また皆さん懐中電灯を持って歩きながら、時々桜を照らすので、長時間露出している私には迷惑千万です(文句は言えませんが)。
三つ目の誤算は、夜桜をストロボを使って撮影する人がいる事です。その人のシャッター音を聞いていると、スローシンクロではなく、ストロボの光だけで撮影しているようです。そんな事をしても、真っ暗な背景の中に桜の花が真っ白に飛んで写るだけですが、意味あるのでしょうか???と思いつつ、数分の長時間露出している間にストロボ照射されていまったので、私はどんな写真になってしまうのかとドキドキでした(結果は、桜の存在感が月夜に浮かび上がって、却って良かったです(笑))。
6時ごろ夜が明けました。すると霧が桜の背後で動き出し、幻想的な景色を恵んでくれます。事実上の初めての撮影だったので、この付近の撮影ポイントに詳しくなかったのですが、霧がある頃のベストポイントは、桜の北西の畑の一番北側の様です。かなり明るくなってから、人が沢山いるのを頼りにその場所に行ったら、絵になる景色が私を待っていました。但しその場所は三脚が1列15名程度x2列に並び、後ろの人は大型三脚に脚立という装備でした。まるで有名人の記者会見を撮影する報道カメラマンの集団の様です。そんな場所に後から来た私のスペースがあるはずもありませんが...しかし一番スミの僅かなスペースを分けてもらい、撮影しました。この場所からの撮影でも、桜の全景を狙うと、民家の屋根や電柱などの人工物が入り込んできます。ある程度割り切って、それらが目立たない絵造りをするしか無いように感じました。また畑の中には大人の背丈ほどもある植物が沢山生えていますので、背の高い三脚がないと、それらの植物が視界を邪魔します。ベストアングルを望むなら、1.8〜2m級の大型三脚+脚立をどうぞ!
霧の晴れる7時ごろになると、殆どの人は帰ってしまいました。そして誰もいなくなった場所で私は撮影を続けました。しかし8時すぎになると、次の集団がやって来はじめました。こちらは朝普通に起きて、朝食もとった人達なのでしょう。そしてこれらの人の撮影は10時頃まで続き、去って行きます。そして、またしばしの閑散とした時間が訪れると、また次の集団が来るといった具合です。この地を訪れる人の動きには幾つかの波があるようです。
朝4時半から10時半までの6時間と、前日の日没時に2時間ほど滞在した経験から言えば、最高の撮り頃は日の出直後の霧のある状態です。しかし霧の晴れた後の朝の斜光線の中の桜も悪くありません。また日没時の桜も絵になるものです。東京ディズニーランドの様な混雑をする霧の時間帯以外にもおもしろい時間帯はありますので、人出を避けて撮影に来られる事も良いのではないでしょうか?
桜の木の隣にある建物は、お好み焼きやさんです。桜のシーズンは比較的早めの時間から開店していました。軽い朝食ならここで取れます。またトイレですが、少し離れていますが、臨時駐車場になっている湯来町スポーツセンターに公衆トイレがあります。但し美的センスと典雅な臭覚は忘れてお使いください(笑)。
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まだ霧の残る時間帯の、湯来の枝垂れ桜
状況説明の為に、敢えて問題だらけのカットをお見せしましょう。撮影ポイントとしてはベストと思われる、桜の北西側の畑の一番北側の細い道から捉えたカットです。記者会見会場の様な混雑ぶりの場所の一番端のスペースを拝借して撮影しました。
一見、後ろの山の稜線、朝霧、桜とその手前のレンギョウ、ボケの花などを組み合わせた良さそうな写真ですが、撮影を始めた頃にはまだ薄暗くて、邪魔なものの存在に気づきませんでした。その結果.....
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左の桜の真ん前には電柱があり、そこから電線も延びています。
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枝垂れ桜の左半分の下方には、良く見ると民家の瓦屋根が光っています。
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画面中央下の白い花の木を中心に、濃い緑の点ボケが点在していますが、これは畑の手前側にある人の背丈ほどの木の影です。開放に近い絞りで撮影しているのでボケていますが、絞り込んでシャープな写真を撮ると、この木の存在がはっきりしてしまいます。この木の存在を避けるためには、早朝からもっと良い場所を確保するか、超大型三脚+脚立が必要です。
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桜の右側には別の木の影と、その下には電柱らしきものがあり、枝垂れ桜の右側のフレーミングをかなり難しくしています。
これらの問題点を克服するアングルを工夫すれば、霧の時間帯には素敵な写真を撮ることが可能です。その為には良い場所の確保と、画面隅々にまで気を配ったフレーミングが必要です。この写真は焦点距離100mm、F5.6で撮影しています。良いフレーミングの為にはどの程度の焦点距離が必要か研究してみてください。 |
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