前回つぶやきからの続きです。
『焦点距離、撮影距離、絞り以外の性能と、ズームvs.単焦点』
レンズが生み出す写真は焦点距離、撮影距離、絞りの三つのパラメーターだけで決まる物ではありません。最後の大切な味つけはそれ以外の性能..つまり、解像度、コマ収差、歪曲収差、周辺光量、フレア&ゴースト、コントラスト、ボケ味などによっても大きな差を生みます。前回つぶやきでは、ズームレンズはレンズの基本機能であるべき焦点距離の連続可変機能を備えている一方で、それ以外の性能には制約があるという事を書きました。それを踏まえた上で私がどの様なレンズ選びをするか、それは
・各性能の使用頻度
・性能改善手段の有無(絞り込んで改善出来るか?)
・価格や重量(実際に買って使えるかどうか)
のバランスによって決まります。
解像度、周辺光量、コマ収差、コントラストなどは絞り込むと改善します。廉価なズームレンズでもF11ぐらいまで絞り込めばこれらの性能で実用上の問題を起こす物は殆どありません。広角レンズの場合には絞って撮影出来るケースが多々あります。従って私はこれらの性能について広角レンズでは余り神経質になりません。一方で望遠レンズはむしろ開放付近で撮影することが多く、解像度や周辺光量の不足する望遠レンズ/望遠ズームレンズには躊躇します。
歪曲収差は絞りでは全く変化しません。建築物のような直線を沢山含む物を撮影する機会の多い方には気になる性能でしょう。歪曲収差の少なさを重視するなら単焦点レンズのものです。幸い(?)私個人はその機会が少ないので、あまり神経質にはなっていません。
フレア&ゴーストは絞って改善されるケースと、されないケースがあります。レンズ毎にケースバイケースですね。フレア&ゴーストが問題になるのは逆光撮影で、私の場合はその多くが風景撮影かマクロ撮影です。単焦点レンズの方が性能の良い物が多いのは分かっているのですが、風景の場合には圧倒的にズーム有利なのでズームレンズの中からフレア&ゴーストの少ないレンズを入手したいと思っています。その点でシグマのレンズはちょっと...で、少しずつ買い換えて行こうと思っています。
マクロレンズは幸い高性能な物が多く、さほど問題にしていません。敢えて言うなら遠景撮影時のシグマの180mm
F3.5 EX Macroは逆光時に目立つフレアが出ます。
ボケ味は絞り込んで良くなることは無く、開放付近での使用が原則となります。また開放値の大きなレンズの方がボケも大きく、同時にそれは美しいことも多いので、ボケを重視した撮影に使うレンズでは開放値にも拘ります。すると自ずと単焦点レンズに絞られて行きます。それ以前にズームレンズで惚れ惚れするボケ味を持ったレンズを知りません。シグマの70-200mm
F2.8EXは前評判ではボケ味が良いとの事で購入しましたが、二線ボケが強烈です。キャノンのEF70-200mm
F2.8Lはどうなのかと借りてチェックしたら、やっぱり二線ボケが強烈でした。この二つのレンズはレンズ構成が殆ど同じなので、当然の結果かも知れません。世の中で定評のある高級ズームでこれですから、他は推して知るべしでしょう。ボケ味を最重視するレンズ選びなら、やはり単焦点に軍配が上がると思います。
タムロン90mmマクロやシグマの180mmマクロはズームに比べると遥かに良好なボケ味を持っています。またこれらはマクロレンズの中でもかなり良好なボケ味を持っている機材です。しかし撮影倍率の高い領域だと多少の二線ボケ、やや煩わしいボケ味になる事があります。その意味ではマクロレンズのボケにもまだ改善の余地があり、ミノルタのSTF技術を活かしたようなマクロレンズが出ないかな?と思っています。
最短撮影距離は私が重視する性能の一つです。特に広角レンズでは僅か数センチの違いがパースペクティブに対して非常に大きな違いを生みます。広角レンズの場合にはピント調節時のレンズ繰り出し量が小さいので中間リングにより最短撮影距離を縮めるという手法が使えません(一番薄いリングを用いても、高倍率マクロ撮影的なものになってしまうからです)。従ってレンズ本体が持つ近接撮影能力が勝負です。広角レンズの場合には周辺光量とか周辺画質の良否よりも最短撮影距離の短さの方が映像世界を遥かに拡げてくれるので、私が最も重視する性能です。
広角レンズの最短撮影距離の一つの目安は焦点距離の10倍です。28mmレンズで30cm以下、20mmレンズなら20cm以下。ここまで寄れると大きな不満はまず無いでしょうが、ズームレンズを広角端基準で見るとここまで寄れる物はありません。広角単焦点レンズの出番です...
広角ズームレンズの場合には、利便性とのトレードオフをするとしても広角端焦点距離の15倍程度の最短撮影距離りであって欲しい物です。28mmズームで40cm程度、20mmズームで30cm程度。しかしこれを実現出来ているレンズは数えるほどしか有りませんね。
標準〜望遠レンズの場合も最短撮影距離が短いことに越したことは有りませんが、この焦点距離なら中間リングが実用的である事と、各種マクロレンズが別途入手可能である事から、広角レンズほどには重視していません。
『KENのレンズ選びの遍歴』
これまでに述べてきたような考え方をベースに、KENのレンズシステムが出来上がっています。一言でいえば基本ラインナップをズームレンズに置きつつ、目的別に単焦点レンズで世界を拡大するというコンセプトです。
一眼レフによる写真撮影を再開して最初に心掛けたことが、広い焦点距離範囲を隙間無く安価にカバーすることでした。標準ズーム(28-105)に加えて、広角ズーム(20-35)、望遠ズーム(70-300)、超望遠ズーム(170-500)を購入して短期間の内に20mmから500mmまでを隙間無くカバーしました。それら焦点距離を縦横無尽に使いこなせる自由さはやはり代え難い物で、目の前の被写体に対して最善と思う焦点距離を心置きなく選んで撮影しています。多少の画質を脇に置いてでも焦点距離を手に入れる事は絵造りの上でとても重要で、サンニッパを使っても廉価500mmズームレンズで撮った映像は得られません。500mmの焦点距離が相応しい被写体には、サンニッパは廉価500mmズームに劣るのです。
その後、ズームでは対応出来ない焦点距離として、14mmレンズなども買い足しています。
次に考えたことが、撮影距離、撮影倍率範囲の拡大です。ごく一部のレンズを除けば全て無限遠撮影が出来ますから、撮影距離拡大は近接撮影能力の拡大になります。当初はクローズアップレンズにより対応を試みましたが、画質が悪すぎましたのですぐにマクロレンズを購入しました。マクロレンズのもたらす他に無い美の世界は素晴らしく、以後私はマクロの世界の美しさを追求することになりました。
広角レンズは近接撮影能力が一番大切だと思っていますが、幸いに私が買ったEF20-35mm
F3.5-4.5は最短撮影距離が34cmと短く、あまり不満を感じていません。シグマの14mmが18cmまで寄れる事にはとても満足しています。
そして絞り範囲の拡大も考えました。これは当然明るい方向への絞り値拡大です。最初にしたことがEF
50mm F1.4の購入で、取り敢えず光量の不足する状況でも撮影できるようになりました。そしてお金の余裕が出来ると、当初購入した廉価ズームを少しずつ大口径ズームに買い換えて行きました。シグマ28mm
F1.8 IIの購入もこの考え方に基づきます。
ここまではレンズの個別の性能をあまり考慮せずに揃えています。しかし使ってみて気付くレンズの性能の不十分さもありますので、それらの是正もしています。
一番最初に気になった性能不足は、300mmクラスの望遠ズームレンズの望遠域での解像度です。廉価ズームの場合は特殊分散ガラスを使っていない事が多いので、300mmレベルでの画像解像度ははっきり言って眠いです。それでこれらは特殊分散ガラスを使った200mm大口径ズームに置き換えました。その結果は大口径化と併せて劇的で、シャープでコントラストの高い立体感のある写真を得ることが出来ました。現在200mm以上の領域はテレコンバーターか、シグマの170-500mmに任せています。170-500mmレンズは大口径前群レンズにSLDガラスを用いているためか、なかなかに侮れない性能を出します。
ボケ味という点では、旧キャノンEF100mmマクロの性能が悪すぎて、2本目のタムロン90mmマクロに買い換えたという事があります。またシグマの70-200mm
F2.8 EX HSMで撮影しているときに、良いボケ味が欲しくなると、200mm付近ならシグマの180mmマクロに、100mm付近ならタムロンマクロに付け変えます。
話が脇道に逸れますが、高倍率ズームレンズは最初っから敬遠しています。ズームレンズは焦点距離を連続的に変えられる事が大切で、広い焦点距離範囲を一本でカバーできる事には重きを置いていません。むしろそれに伴う設計上の限界からくる性能低下の方が気になります。個人的にはズーム倍率は2〜3倍でよく、多くても4倍止まり。それ以上のズームは要りません。
現在気になっているのが逆光性能です。日の出、日没撮影を沢山する私には、フレアやゴーストがテクニックで低減出来ないレンズだと、事実上使えないという事になります。いま一番気になっているレンズがシグマの70-200mm
F2.8 EX HSMで、絞りや焦点距離を調節してもゴーストが消えません。これは他のレンズへの買い換えを検討中です。一方で同じく逆光には弱いシグマ170-500mm
F5-6.3の場合には、フレア&ゴーストを抑止するテクニックを発見しましたので、今後共に私の主力レンズとして君臨し続けることになります。
さらに写真の世界を広げてくれたレンズとして、ソフトレンズがあります。ケンコーのピンホールレンズと、85mmソフトレンズを購入しましたが、特に85mmソフトレンズの方は手軽に使えて、フィルターには無いソフト効果を生み出してくれますので、最近多用しています。
最後に、全く特異な目的で揃えている2本のレンズがあります。シグマの28-70mm
F2.8-4 UCと、キャノンのEF50m F1.8IIです。この2本は全く同じ焦点距離のレンズを別に持っていますが(シグマ28-70mm
F2.8EX, キャノンEF50mm F1.4 USM)、海外出張時に持って行くレンズとして、1)軽量コンパクトであること、2)開放値が明るいこと、3)万一盗難にあっても精神的打撃が少ないこと、という理由から加えています。
この様な経過を辿って、現在のKENのレンズシステムができ上がっています。幾つかのカテゴリーのレンズは買い換えを繰り返していて、ある意味では遠回りな道程で最初っから高級レンズを買っておけば良かったのかも知れません。それは否定しませんが...
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使ってみて、初めて自分に必要な性能と不必要な性能を理解できる事が多くあります。最初っから高級レンズを揃えることは不必要な性能までも買うことになり、トータルで考えると金銭的に無駄だと思います。(買い換えたレンズだけを捉えれば、最初っから高性能レンズを買った方が良かったという事にはなります。)
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高級レンズは概ね大きく重いので、沢山買っても撮影現場に持って行けない事があり得ます。それではレンズを持っていないのと同じ事。自分の写真にとって重要な事、さほど重要ではない事を見極めて、全体の重量を考えた上で個々のレンズの性能バランスを確保した方が良いでしょう。レンズは現場で使ってナンボのものです。
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性能の低いレンズを持つと、それを是正しようと工夫します。それがまたテクニックの向上に役に立つ事もあります。
という訳で、KENは今後共に出来るだけ安上がりなレンズシステムで良い作品を目指します。単に貧乏性の言い訳といえば、それまでですが(笑)。
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