EOSー1Dsが欧州で発表になりました。国内発表はまだみたいですので、ちょっとご紹介しましょう。
※この原稿は9月20日に執筆したのですが、9月24日に国内でもEOSー1Dsが発表になりました。ここに書いてある幾つかの推論はキャノンが答えを出していますが、修正せずに掲載します。
EOSー1Dsは1Dをベースとして、36mm
x 24mm フルサイズの撮像センサーを実現したデジタル一眼レフです。コダックのプロフェッショナルデジタルバックを用いたホースマン・デジフレックス(ニコンマウント)を別とすれば、コンタックスNデジタルに次ぐ35mmフルサイズデジタル一眼レフになります。1Dsが1Dの後継機になるのか、あるいは併売になるのかは分かりませんが、一部の撮影領域を除けば小さなCCDを持つ1Dの役割は1Dsの登場で終わったと言っても良いでしょう。
1Dsと1Dの主な相違点は以下の通りです。
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EOS-1Ds |
EOS-1D |
映像画面サイズ |
35.8mm x 23.8mm |
28.7mm×19.1mm |
撮像素子、画素数 |
単板CMOSセンサー
総画素数1140万、有効画素数1110万 |
単板CCDセンサー
総画素数448万、有効画素数415万 |
記録ファイルサイズ |
ラージ/ファイン:約4.1 MB (4064 x 2704 pixels)
ラージ/ノーマル:約1.7 MB (4064 x 2704 pixels)
スモール/ファイン:約1.4 MB (2032 x 1352
pixels)
RAW:約11.4 MB (4064 x 2704 pixels) |
ラージ/ファイン:約2.4MB(2464×1648pixels)
ラージ/ノーマル:約1.3MB(2464×1648pixels)
スモール/ファイン:約1.1MB(1232×824pixels)
RAW:約4.8MB(2496×1662pixels) |
ISO感度 |
100〜1250相当(1/3段ステップ)、ISO 50はカスタムファンクションで可能 |
200〜1600相当(1/3段ステップ)、ISO 100、3200相当の感度拡張が可能 |
シャッター速度 |
1/8000〜30秒(1/3段ステップ)、バルブ、 X=1/250秒 |
1/16000〜30秒(1/3段ステップ)、バルブ、 X=1/500秒 |
連続撮影速度 |
約3コマ/秒
(高速撮影モードの有無は不明) |
高速連続撮影:約8コマ/秒
低速連続撮影:約3コマ/秒 |
連続撮影時の最大撮影コマ数 |
10コマ
(画像品質の違いによる連続撮影コマ数の変化の有無は不明。10コマはRAWデータ保証値) |
21コマ: ラージ/ファイン
ラージ/ノーマル
スモール/ファイン
16コマ: RAW
RAW+ラージ/ファイン
RAW+ラージ/ノーマル
RAW+スモール/ファイン |
背面LCDモニターの画像表示形式 |
1コマ(Info.)
1コマ
4コマインデックス
9コマインデックス表示
画像部分拡大表示 |
1コマ(Info.)
1コマ
4コマインデックス
9コマインデックス表示 |
撮影可能コマ数 |
常温(20℃):約600、低温(0℃):約450 |
常温(20℃):約500、低温(0℃):約350 |
質量 |
1265g |
1250g |
1Dから変わったことは、何よりもまず撮像センサーの大きさが大きくなり、そして画素数が一気に1110万画素に拡大したことです。これに伴いファイルサイズが大きくなりますので、動体性能が低下しています。シャッター速度も最高速が1/16000秒から1/8000秒に落ちてEOSー1Vと同じになりました。それ以外の変更は多くありませんが、以下のような小変更があります。
1 背面液晶モニターで部分拡大モニターが出来るようになりました。これにより映像のシャープネスチェックなどが出来ます。
2 設定可能ISO感度が低感度寄りになっています。
3 CMOSセンサーの消費電力がCCDよりも小さいために、満充電あたりの撮影可能枚数が増えています。
4 ボディ外観は「D」のバッヂが「Ds」に変更されている以外に変更は無いようです。
気になる価格は発表になっていませんが、噂では6500ドルと8500ドルの中間という事で、EOSー1D並か、やや高いぐらいになるようです。
(追記)EOSー1Dsの米国での価格は8999ドルでした。EOS−1Dの6499ドルに比べると2500ドルのアップです。EOS-1Dの国内定価は75万円。単純な換算をするとEOSー1Dsの国内定価は105万円ほどになります。しかしキャノンは国内価格をオープンプライスとしました。そしてフジヤカメラの予約開始時点での実売価格表示は95万円程度との事です(初期ロット分は概ね10%引きという事でしょうか?)。
キャノンがオープンプライスにした理由には100万円を上回る価格を公表したく無かった事があると思いますが、ユーザーとしては『撮像素子のコストが下がれば、どんどん値下げしますよ!』という意思表示と受け取りたいですね(笑)。
さて、ここから先はKENのこのカメラ発表に関する感想です。
1DsはCCDではなくCMOSセンサーを採用しています。理由は恐らくは大きな撮像センサーを作る事が現時点はCCDよりも容易だからだと思います。性能面ではCCDの方が上なのかも知れませんが、良く知りません。ただD30/D60がCMOSであったのに対して1DがCCDを採用してきた理由には性能面もあったと思っています。またコンタックスNデジタルは、35mmフルサイズのCCDが作れずに複数枚のCCDを貼り合わせてあり、繋ぎ目はデジタル処理で目立たなくしています。そのあたりの「今日現在」の技術的な限界からCMOSを採用したのだと思われます。故に性能優先の1Dと使い勝手優先の1Dsとして、両機は当面併売されるのではないかと個人的に想像しています。また1Dsの後継機は多分35mmフルサイズCCDを採用してくるのではないでしょうか?
1Dsは正直に言って「やっと出たか」という感じです。私個人は1Dが発売されたときに35mmフルサイズでは無かったので「何と時代錯誤なんだろう」とビックリした経緯があります。しかしコンタックスに続いて最大シェアメーカーのキャノンからの35mmフルサイズデジタル一眼の登場したことにより、ニコンも当然追従するでしょう(*)。これで今までの無益な「小さなCCDの方が良い」という論争が無くなり、また「焦点距離換算率/Magnification
Factor」も近いうちに死語になる時が来ます。現在のEOS D60やNikon D100などの中級デジタル一眼レフも遠からず35mmフルサイズの撮像センサーになります。現時点では製造技術上の理由から大きな撮像センサーは高価ですが、つぶやき75で書き、繰り返し掲示板でも語ってきたように、それは時間が解決してしまう物だからです。
(*)一部のウェブサイトには、ニコンFマウントは径が小さいので35mmフルサイズCCDには対応出来ない様な記載がありますが、そんな事は全く有りません。レンズ光学を知らない人の勝手な想像です。CCDへの光の入射角を問題にしていますが、その改善にFマウント並のサイズがあればマウント径は関係しません。画面最周辺部に行く光束の「中心」(これが入射角を決めます)は後群レンズの最縁部からは来ないからです。何より世界初の35mmフルサイズデジタル一眼レフシステムのホースマン・デジフレックスはニコンFマウントです。EOS用レンズにしても、EOSマウントの大口径をフルに活用している(つまり他社マウントでは実現出来ない)レンズは製造中止になったEF50mm
F1.0Lだけです。マウント径が本当に問題ならば、EOSー1DsはEF50mm F1.0Lしか使えなくなってしまいます。
小さな撮像センサーにもメリットはあるのかも知れませんが、それは実験室の中と、レンズ交換出来ないコンパクトタイプのカメラでの事。35mm一眼レフとレンズシステムを共有する限りにおいて、デメリットの方が多いのは明かです。簡単な話、35mmフルサイズなら広角レンズを広角レンズとして、魚眼レンズを魚眼レンズとして、標準レンズを標準レンズとして用いることが出来るからです。レンズの味は画角だけではありません。標準レンズはガウスタイプのレンズ構成からくる素直さがウリなのに、レトロフォーカスタイプのレンズを使わないと標準レンズとしての画角が得られないと言うのは、やはりオカシイのです。
またコンタックスNデジタルのファインダーと、他のデジタル一眼レフのファインダーを比較して見ると分かりますが、いつも通りのフルサイズで見えるNデジタルに対して、大幅にマスキングされて小さな除き穴から見るようなそれ以外のデジタル一眼レフのファインダーは、安いコンパクトカメラのファインダーを覗いている様です。今までのデジカメには「覗き穴ファインダー」しか無かったから誰も文句言わなかったけど、今後はフルサイズのファインダーと覗き穴ファインダーが共存するようになります。そうすれば覗き穴ファインダーに対する不満は炸裂し、その様なファインダーを持ったカメラは市場性を無くして行くでしょう。
そもそもデジタルと銀塩は記録媒体の違いであって、作品製作の視点では両者同じはずです。モノクロとカラーフィルムを使い分けるように、デジタルと銀塩を使い分ける、と言うのが自然な姿でしょう。その自然なことを当たり前に出来る時代がEOSー1Dsの発表でやってきたと思っています。
ただ1Dと1Dsのスペックを見ていると、一部のジャンル(野鳥撮影とか、スクープ写真を狙う様な報道分野)では望遠レンズを超望遠レンズとして使え、かつ動体性能に勝る「小さなCCD」の1Dの方に分がある様な気がします。従って、そのスペシャルニーズ用に1Dタイプの一眼レフも残るかも知れませんね。しかし大半は35mmフルサイズの一眼レフに置き替わって行くでしょう。
EOSー1Dsの発表は皆さんにとって吉報でしょうか?それとも凶報でしょうか?今後予想される事は、
・35mmフルサイズ一眼レフの中級機、入門機への展開。
・小さな撮像センサーを持つ一眼レフの中古相場の暴落。
です。現在EOSはD60が一番安いデジタル一眼レフですが、実際の使用実態を考えるとKissにこそデジタルカメラが相応しいと思われます。このユーザーはビギナーが多くプリントニーズが主体ですから、ネガフィルムよりもデジタルの方がランニングコスト、プリントの即時性、撮影結果(成功/失敗)のその場での確認などに於てユーザーメリットが大きいと考えられます。従ってKissクラスのデジタル一眼レフが「小さな撮像センサー」で近日中に導入されるでしょう(その様な噂も既にあります)。そして数年後にはKissクラスまでが35mmフルサイズになって行くと思います。そうなると「小さな撮像センサー」を持つカメラの相場は大暴落するでしょう。既に小さな撮像センサーのデジタル一眼レフをお持ちの方は、買い換えをタイミング良くして行かないと、下取り値が二束三文になる日が来ますよ(笑)
ところで、「小さな撮像センサーと専用レンズにこそメリットあり」とした張本人のオリンパスのレンズ交換式デジタル一眼レフシステムは、2002年2月に発表されると事前(2001年4月)にプレスリリースが有りましたが、未だに影も形もありませんね。企業連合軍で参入するとか言っていましたが、恐らくその連合軍が分裂したのでしょう。ちょっとした市場調査をすれば、現在の35mm一眼レフのレンズシステムと互換性のないレンズシステムを要求する小型カメラシステムに大した市場性の無いことは分かりますからね。
今年のフォトキナには発表されるでしょうが、その時の企業連合軍(オリンパス以外の参加企業)がどの様になっているのか楽しみです。銀塩一眼レフカメラメーカーが参加する筈はありませんから、当初の参加企業は非カメラメーカーの筈で、すると専用交換レンズを自前で作るか、オリンパスからOEMで供給を受けなければなりません。いずれもビジネス的には美味しくないので皆降りたというのが結末の様な気がします。 |