前回つぶやきからの続きです。
♪♪♪ 例によってドキュメンタリータッチの撮影記です(^^; ♪♪♪
とみしの里から私はクルマを南西に走らせた。目的地は吉舎町内にある彼岸花群生地である。ここも先週下見をしてあって、無数の彼岸花の芽が出ていることを確認している。とみしの里から15分ほどして入口に着くと、案の定クルマが沢山駐車していて、これ以上停められない。そこでUターンして入口から200mぐらい離れたところにあった路側帯に車を停めた。彼岸花は状況が良ければ4x5でも撮影する予定なので、EOS用と合わせて二つのカメラバッグを持ち、三脚を担ぐ。重いぜ!!
5分ほど歩いて、群生地に着くと、まだ7時前だと言うのに既にそこは人、人、人!東京近辺の名所ほどではないにせよ、ベストアングルと思われるところには20〜30名ぐらいの人達が幾重にも折り重なって撮っている。湯来の枝垂れ桜の時にも見られた情景である。例によって背の高い三脚と脚立を使っている人達が沢山いる。カメラもレンズもみな高級品ばかりだ。その何とも言えぬ威圧感を振りまき撮影している人達を避けるように、ペンタックスの小さな一眼レフと、殆ど役に立ちそうにない三脚を開くこともせずに使って撮影する女性カメラマンも数名いる。この人たち....撮影の度に内蔵ストロボを使う。しかもご丁寧に赤目防止機能を働かせて、シャッターを押してから1秒ぐらいストロボを断続発光させる。ストロボは広い風景撮影では全く意味が無いし、それ以上に赤い彼岸花に赤目防止機能を使っても赤以外の色になるわけじゃない!長時間露出するこちらには迷惑千万だが、まあ暗い時にはストロボを使うことに何等疑問を持たない人だろうから、怒る気にもならない。でもね、お願いだからこっちに来ないで!(^^;
彼岸花の方は見事に満開で、少し盛りを過ぎた物も混じりだしていた。最も密度の高い所は彼岸花の絨毯という感じに密生していて、正直、彼岸花でなくとも赤い花なら何でも良い情景になっていた。曼珠沙華らしい造形を写すなら、却って密度の薄い場所の方が向いている。私は人の少ないポイントから、曼珠沙華の形の分かりやすい、絵になりそうな場所を探してEOSで撮影を続けていた。今まではマクロ撮影ばかりだったので、比較的広い範囲を俯瞰的に撮影出来る事は楽しい....
EOSでフィルムを一本撮り終えたあたりで、トヨフィールドを取り出す。真っ黒な弁当箱を三脚に括り付けると、何名かのカメラマンが声を掛けてきた。
「これは何ですか?」
「トヨフィールドです。4x5です。」
「トヨフィールドって、後がリボルビングになっているんですよね」
「いえ、私のはリボルビングバックになる前のカメラです」
「これは何ミリで撮影しているのですか」
などなど...EOSにシグマのレンズだと声を掛けられる事もないが、大判を持ち出すと声を掛けられる頻度が上がるし、かつ質問攻めになる。
「ひょっとして○○○さんですか?」
「いえ、違います。どうしてですか?」
「○○○さんという人もトヨフィールドを使っているんです。何となくお顔も似ている気がして...」
『おい!トヨフィールドを使っているというだけで、私をその人と判断するのかい?もしトヨフィールド殺人事件なんて言うのがあったら、私は真っ先に容疑者にされるのか!』
などと、変な質問に対して馬鹿なことを考えながら4x5カメラのセットアップをしてゆく。
最初のカットは300mmで撮ることにした。300mmとは言っても、35mm換算だと85mmぐらいの画角である。遠方から手前まで全てにピントを合わせるために、カメラを多少下に向けた後でリアのチルトあおりを使う。しかしトヨフィールドのリアの後傾チルトー15度を全部使っても、一番手前にピントが来ない。仕方なくフロントの前傾チルトあおりを併用することに....しかしこれは大混乱になってしまった(^^;。
フジノンT300mmのイメージサークルは4x5に対してさほど余裕が無い。イメージサークルに余裕が無い時には、リアのチルトを使う。そうすればイメージサークル内でピント面を動かすために、イメージサークルを外す心配が殆ど無いからである。しかし今回はフロントチルト(スイングでも同じだが)も使った。これを使うと二つの難しい問題が発生する。一つにはイメージサークルの位置が動いてしまうので、下手をすると画面隅がケラレた写真になってしまう。もう一つはレンズの主点とフィルムが目茶苦茶な位置関係になってしまう事だ。フロントチルトはレンズボード下端を支点に行う。通常のレンズの場合にはレンズの主点もほぼレンズボード上にあり、大きな問題は発生しない。しかしフランジバックを短縮したテレタイプレンズの場合、レンズの主点はレンズ前方の空間上にある。フジノンT300mmの場合は、ほぼレンズ前方5cmほど、レンズボードの位置からだと10cmほど前方の「何も無い空間上」にあるのだ。そんな主点とは異なる支点でレンズをチルトさせる〜頭の中で想像して欲しいのだが〜レンズ主点とフィルムの位置関係は目茶苦茶である(^^;。案の定、フロントチルトを使う前までは見えていたピントグラス上の景色の一部が見えなくなってしまった。冷静に考えれば、チルトとライズ/フォールを併用すればいいのかも知れないが、殆ど寝ていない寝惚け頭にはそんな難しい幾何学を考える余裕はない(^^;。まあ、失敗も経験の内!と思い、絞りをF22まで絞って撮影しておいた。どうなることやら...
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トヨフィールドとフジノンT300mm
F8で撮影しているときの様子。ご覧のように、トヨフィールドのリア後傾チルトを最大限にして、更にわずかにフロントの前傾チルトを効かせています。ピントは何とか絨毯の様な花の遠方から手前まで合ったものの、ピントグラスの一部の画像の確認が困難になりました。しかし結果は、ちゃんと写っていました。
この群生地のベストな撮影ポイントはこの写真の左手外側で、そこには既に多数のカメラマンがひしめいています。この写真の後方には、そこから溢れたカメラマンが数名写っています。 |
しばらくすると、一番美味しい撮影ポイントを独占して撮影していた人達が帰りだした。湯来の枝垂れ桜の時もそうであったが、日の出前から来る人達は、日の出後1時間ぐらいで帰ってしまう。そして次のカメラマン達が押し寄せる1時間ほどはゆったりと撮影できる時間になるようだ。私はそのポイントに機材と三脚を移動させて、またEOSで撮影を始めた。確かにベストアングル付近は邪魔な物が少なく、ここからなら広角撮影も不可能ではない。そこでEOSの2本目のフィルムを使い終わった所で、またまたトヨフィールドを持ち出した。今度は90mmでの撮影である。35mm換算だと28mmよりも少し広めの画角になる。
ニッコールSW90mmF4.5Sでのピント合わせは楽だ。被写界深度が300mmに比べて深いし、小さなリアチルトでピント面がどんどん動くから、フロントチルトを併用する必要が無い。しかし広角レンズでは暗くなるピントグラス周辺部のピント合わせは、太陽の出ていない木陰の彼岸花だと暗くて苦労する。それでも300mmの時に比べれば、数分の一の時間で構図作り&ピント合わせを終了。さっさと撮影を済ませた。
EOS3本目のフィルムからは、撮影場所を変えた。あまり多くの人が注目していない密度が疎らな部分を狙った。これを標準から広角ぐらいのレンズで俯瞰的に捉えれば、却って一本一本の彼岸花の形が感じられて、それはそれで良い絵になりそうだった。更にはマクロレンズにも付け替えて、恒例のマクロ撮影もしておいた(笑)。いずれの撮影も、ポイントは彼岸花よりも、そこにある木立や草などになる。画面に変化、目の置き所を与えるためである。そのポイントを中心に画面の中に彼岸花を配置して行く。
初めての場所でもあり、また恵まれた被写体でもあったので、フィルムはどんどん消費していった。本日最大の失敗といえば、これほど彼岸花が咲いているとは思っていなかったので、フィルムを4本しか持って来なかったことだ。4本目のフィルムもあっと言う間に使い切ってしまい、10時前には撮影を終了せざるを得なかった。
そうそう、露出のことを書き加えておこう。先週も彼岸花を撮影した。あまり咲いていなかった数少ない花を撮影したのだが、EOS3の評価測光で、ダイナハイカラーとの組み合わせだと−0.3とか−0.7の補正が適正となった。フィルムに感じる彼岸花の赤は、実はかなり白っぽいようだ。一方の人間の期待色はかなり真紅に近い赤であり、標準露出だとズレを感じてしまう様に思った。それで今日の露出は−0.7、−0.3、0の3カットである。ただベルビアの場合は他のフィルムよりも0.3段ぐらいプラス寄りの方が良いかもしれない。
さて、10時少し前に撮影を終了し、つぶやき用の写真をデジカメで撮影してから、クルマに戻った。今から帰れば昼前には家に着けるだろう。
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