つぶやき144「どうも英語圏の人達は...」で、アメリカにあるPhoto
Netの35mmカメラ関連のフォーラム(掲示板)に集う人達が、レンズ選びを解像度偏重で行っている事を取り上げました。解像度はレンズの性能を表す一つの要素ではありますが、それだけでレンズ選びをする事は写真の本質を知らない偏狭な考えであり嘆かわしい、というのが私の意見であり、つぶやき144の主旨です。英語圏(主にアメリカ)の人達がみなその様な偏狭な考え方を持っているのか?と、ちょっと不安ではありましたが、そんな不安を払拭する出来事がありました。
それは同じPhotoNetの大判写真のフォーラムに、ニッコールレンズのMTFグラフ(※)の所在を尋ねた人がいたのです。35mmカメラのフォーラムならば、尋ねなくとも回答者の方からMTFの話しに言及する事が多いのですが、大判写真のフォーラムでは「MTFなど写真の本質に何等関係ない」という反撃を受けました。はやり作品撮影を目指す熟練したカメラマンならば、彼の地の人達もMTFがさほど重要ではない事を知っている様です。
以下にフォーラムでのやり取りの本筋部分(全文ではありません)を和訳したものを掲載しますが、最初の反論(MTFなど気にするな、という意見)の後のやり取りはアメリカらしい物です。日本人のように感情的になることも、引き下がることも無く、あくまで論理的に、個人の権利と自由を主張し尊重し、最後はお互い丸く収まりました。
※MTFグラフはレンズカタログやキャノンのサイトのEFレンズページに掲載されていますが、縞模様を撮影した際のコントラスト値を、縞模様の目の細かさ、撮影絞り値と、画面中心からの距離、及び放射方向か円周方向かの区分でグラフ化したものです。画面内での解像度傾向を表すグラフとして、レンズ性能を示す代表的なデータです。
私の考えを言っておけば、これから登場するBさんやCさんの物に近いです。作品の良し悪しに解像度は殆ど関係しません。
では、掲示板のやりとりを御一読下さい...
大判ニッコールレンズのMTFデータがどこにあるか知りませんか?
大判ニッコールレンズのMTFグラフ、カラーバランス、収差、透過率グラフなどのデータを何処に行けば見れるか、どなたか御存知ですか?このフォーラムでとても評判の良いM300mm
F9のデータに特に興味があります。またM200mm F8やW210mm F5.6にも興味があります。
A(質問者)
Aさん、何故?
大判ニッコールレンズは十二分に良い性能を持ったレンズだとは思わないのかい?MTFで何を知ろうとしているんだ?それを知った所で、君の写真人生がホンの僅かでも変わると思うのかなぁ?
私はニッコールを幾つか使っているけど、みなとてもシャープで素晴らしい写真をもたらしてくれるよ。レンズのMTFについては何も知らないけどね。
MTFグラフが何を表しているのかは勿論知っているよ。でも私はMTFに関して多くを言及しなかったウェストンやアダムスなどに肩入れするね。アダムスの(レンズ評価に対する)コメントはとても包括的で、かつ彼の基準は「買って使えるレンズが良いレンズ」だよ。
B
KEN注釈:アダムス =アンセル・アダムス(1902-1984)。風景写真家(地球写真家とも称される)大判写真の世界では神様のような存在。
おいおい!このフォーラムを「大判写真フォーラム」から「大判レンズの解像度と機構についての技術論フォーラム」に改名させるつもりかい!
私はレンズを買う際には、一度実写してみて、結果を見て、良ければ買うようにしているよ。
レンズ設計の達人が私にこう言ったことがあるよ。「MTFグラフとかの技術的データなど気にせずに、まず撮影してみなさい。」これぞ最高のアドバイスであり、私は40年以上もプロフェッショナルカメラマンとして、このアドバイスに従っているんだ。私は誰かがコーラのビンの底で写真を撮ったとしても、レンズの事など気に掛けないよ、作品が素晴らしければね。素晴らしい写真の条件は隅から隅までカミソリの様にシャープな写真だ、なんていう最近の考え方/風潮はナンセンスだ。全世界には多くの偉大なカメラマンがいるけれども、彼らはこの様は風潮とは180度違う考え方を持っているのさ。
C
Bさん、M300が素晴らしいレンズであるというコメントありがとう。でもそんな事は既に多くの人がこのフォーラムで語っている事で、今さら聞かされなくてもいいよ。それに私はあなたが何処の誰で、あなたの評価基準が何で、あなたが何を撮影対象として、どんな大きさまで写真を引き伸ばすのか、あるいはあなたの写真のスタイルが私が意図している事とどれだけの関係があるかなんて知らないんだ。だからあなたの意見を何処まで信用するか、どの様に解釈をすれば良いのかが分からない。だから客観的データを探しているのだよ。
Cさん、まあ多分コーラのビンの底よりはニッコールレンズの方が優秀みたいだね。しかし、ニッコールとそれ以外のレンズのどちらがより優れているかは、あなたの意見からは全く分からない。色々と書いてくれたけど、私の質問には何一つ答えていないよ。それにMTFグラフの事は、あなた方が言及したアンセルのアシスタントの一人から教わったんだ。
お2人とも、色々な視点をありがとう。しかし私には購入候補のレンズの試写をしている時間など無いんだ。私はまだ大判カメラを持っていないし、旅行に出掛けるまでに複数のレンズをチェックする時間的な余裕も無い。
私が欲しいのは客観的なデータと、私が欲しいレンズとその対抗馬に関して両方を実際に使っている人のコメントだ。あなた達がどの様なレンズ選びの方法を採ろうと気にしないが、私には私のやり方があるという事を忘れないでくれ。
A(質問者)
(文脈から質問者に対して)素晴らしい作品たちは様々なレンズから生み出されていて、その幾つかは全くシャープとは言えないレンズである、というのは紛れも無い事実だ。しかし、もしあなたの目的が(素晴らしい作品ではなく)シャープな映像を得ることなら、データを探すことは無駄とは言えないだろう。
(文脈からB、Cに対して)写真(作品)に関する話題の方が機材に関する話題よりも深淵で興味深い事には全く賛成だ。でも一般の人にとって、豊富な写真経験が無いと参加し難くて、個々人の見解に大きく左右される「芸術作品について」の話題よりも、カメラとレンズに関する手短な話題の方が楽しいという事も知るべきだ。(だからこのフォーラムで機材の技術的な性能の話をしても構わないと思うのだが..〜という言外の意味が原文には含まれています:KEN補足)
D
米国ニコンに問い合わせれば、分厚い資料を速達で送ってくるよ。聞いてみれば?
私の写真館で使っている大判レンズは例外なく全部ニッコールレンズさ。引伸しレンズを含めてね。理由は単純さ。とても素晴らしい性能だから...
E
Aさん
まあ、私が何処の誰で何をしているかなんて全く興味ないだろうけど、ご参考に書いておきますよ。私は大判カメラとレンズを数セット持っていて、それらで4x5や8x10の写真を撮っている。
多くの人がレンズ選びに際して、そのレンズでどの様な写真が撮れるか、ではなく、レンズのスペックで選択することが不思議でならない。まるでクルマを選ぶ際に、どの様なドライブが出来るかではなく、スペック表で選んでいる様な物だ...
B(最初の回答者)
ローデンシュトックが発表しているようなレンズデータは、有れば有ったで有益だよね。しかし大判ニッコールの同種のデータがあるとは思えないなぁ。次善の策としては簡易解像度の測定データを掲載したサイトがあるよ。みんな知っているとは思うけど。
(サイトのアドレス省略)
F
フェラーリ・エンツォを、スペックを見ただけで買いたくなったけど...
G
Gさん
私もエンツォは欲しいね!ただ、スペックがあの価格を正当化する要因では無いけど。
大判ニッコールレンズはフェラーリの様な「若い奴等がキャァキャァ騒ぐ」要素を持っていないよね。だからフェラーリとは当然異なる購入決定要因が有るはずさ。そもそも何故私が大判写真を趣味としていると思うんだい?「若い奴等がキャァキャァ騒ぐ」様な事にもう飽きたからさ。
古い諺に少し手を加えた、良い諺を教えよう。もし一ヶ月間の幸福が欲しいなら、結婚しなさい。一年間の幸福が欲しいなら、愛人を作りなさい(結婚してはならぬ)。しかしもし一生の幸福が欲しいなら、8x10カメラと適度に良いレンズを買って、花とか納屋とかの写真を撮っていなさい。
B(最初の回答者)
MTFが重要でない理由は、F22なら現代のレンズはどれも似たような性能を持っているからだよ。まあ、マクロ撮影の様な特別な用途では別かも知れないけど。だから価格とか重さとかの方が重要になる。それにMTFはカラーバランスとかボケ味とかに関して何も語らないしね。
H
Hさん
手持ちの三つのレンズをテストしたことが有るけど、F22でも各々異なる性能を示したよ。ご参考まで...
I
Aさんと、それ以外の方々
おやまあ。両者とも同じ事を繰り返し言っているんではないのかな?Aさんが問題にしているのは購入するレンズの決定方法ですね。コインを投げるかくじ引きにするか..では決められないから、データを参考にしなければならない、という事。
価格も重さもイメージサークルも皆データではないですか。そしてMTFグラフもまたデータです。価格も、イメージサークルも知らずにレンズ選びをする人がいるなら教えて欲しいです。だから本当の問題は、どのデータが重要で、MTFはどれぐらい重要なのかという事でしょう。
もしバックパッキング(リュックに荷物を詰めて、山登りやハイキングをすること)が目的なら、重さはMTFよりも重要でしょう。もし予算が限られるなら、価格の方がMTFよりも重要になるでしょう。しかしそれらの事が問題にならないなら、MTFをレンズを決定する重要な基準にしても良いのではないかな。とどのつまり、どのデータが重要で、どうやってレンズ選びをするかは各人各様なのだよ。
もしデータが集められるなら、まずありったけのデータを集めて、その意味や重要性は後から検討すれば良いと思う。だからAさんの質問はとても理に適っている。しかし...大判ニッコールのMTFグラフが入手できるかどうかは疑問ですね。もしあるならば、私も見てみたいです。ニッコールを買う予定は全くありませんが、自分自身の好奇心の為にね。
J
Jさん、混沌とした議論を上手くまとめてくれて、ありがとう。
私はMTFがレンズ選びの基準の全てだなどと言ったことは一度も無いですよ。MTFのみならず、収差、カラーバランス、透過率などのデータも尋ねたのです。F22で全てのレンズが同じ様な性能を発揮するなどと言うのは、客観的データを見ても、私の経験からしても正しくありません。勿論、重さや大きさ、価格も重要ですが、そのデータは既に入手済みでこのフォーラムに聞く必要が無いのです。
データを寄せ集めて購入レンズ候補を絞り込む為に、未入手のデータの在り処をこのフォーラムに質問したことは、私にとって極めて理に適ったプロセスであり、時間とコストの節約にもなります。私は2〜3の焦点距離のレンズを購入する予定ですが、一つ一つの焦点距離について複数のレンズを試写する時間も費用も、今の私には割りに合わないです。
客観的データはさておき、経験深いカメラマンの、時として情熱的に語られる意見も非常に貴重な物です。経験深いカメラマンは結果に対して情熱的ではあっても、機材についてはそれが本当に良いもので無い限り冷静である事が多いです。だから情熱的に機材を語る意見というのも私にとっては貴重です。最終的には、客観的データも、主観的な皆さんの意見も全てを考慮に入れた上で最終決定します。
A(質問者)
F22で現代のレンズの殆どが似たような性能を発揮するという私の投稿文は、少し間違っていたようですね。
H
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