つぶやき168「 シグマ50mmEXマクロ、105mmEXマクロのフードキャップ」の文中に
※もしこのフードを設計された方がこのつぶやきを読まれていたら、メールにてご一報願えますか?
と書いておいたら、シグマの方からメールを頂きました。先方のご希望で、折り返し私の住所を知らせたところ、達筆な肉筆によるとても丁寧なお手紙を頂き、フード先端のフィルターネジの誕生の経緯を知らせてくれました。内容の公開可否は私に一任されましたので、ここに皆様にご紹介しようと思います。
フード先端のフィルターネジは、フィールドテスト(実際に試作品を使用して、改良点を見つけ出すプロセス)を経て決定された、キャップを装着する為の仕様です。最近は全てをコンピューター上で設計してしまい、試作テストもせずに製品化される商品も多いのですが、シグマEXマクロのレンズとフードはしっかりとしたフィールドテストを経て最終仕様が決定されています。この様なメーカーの姿勢はユーザー側から見ると嬉しいし、製品を実際に使えばフィールドテストをしたかどうか、その違いが何となく分かるものです。
せっかく採用されたフード先端のネジも、些細な不具合の可能性が発見されて、結果的にメーカーとしては保証出来ないとの事で、カタログなどへの特徴表示は無くなってしまいました。手紙の文中にもありますが、この特徴は「見つけた人だけが使える」機能です。ですから「つぶやきの読者だけが、自己責任でこっそり使える機能」と思ってください。そして、その特徴を使用して万一何かがあっても、メーカーへのクレームは筋違いです。
と言っても、些細な不具合の可能性とは、フード先端にフィルターを装着した場合に発生するものです。私のつぶやきを読まれている人なら、フード先端にフィルターを装着することなど画質の上で言語道断であることは理解されているでしょう。又そんな事をすればフード内側のネジ部分の黒塗装がはげると思います。しかし本来のメリットであるキャップ装着のみでこのネジを使用すれば、およそ不具合は考えられません。
ではお手紙の内容をご紹介しましょう。但し私の個人情報や、個人的なやり取り、公開するとシグマ(株)のご迷惑になるかも知れない部分は割愛してあります。それ以外は原文通りです。
前略
「KENのつぶやき・vol.168 (2002.12.28)」を読ませて戴きました。ご指摘の通り、実用を考えたもので、これもご指摘の通り、キャップ用のねじです。
文面を読ませて戴いて、このフードの先端のねじが誕生した経緯を、知って戴きたくなりました。ご質問に対しては以下のように解答させて戴きます。
Q1・フード先端の構造は、設計段階ではキャップの装着を意図したものでは無いのでしょうか。
50ミリ/F2.8マクロと、105ミリ/F2.8マクロのEXレンズを設計している時のフードは、単にねじ込み式の、筒型フードでした。試作時も、基本設計と同じ筒型のフードでした。試作で不具合が無かったので、量産試作を行い、そのまま量産しました。
量産桟をフィールドテストに使用して、改良すべき点を追求した結果、ケースに入れる時の、フードの脱着と、ケースに入れた時の不安定さが、使いにくさに繋がることを感じ、フードの形状変更をしました。このフードの形状変更は、単なる筒型から、段のある形状に変更し、ケースにフードを入れ、その中にフロントキャップをしたレンズの先端を入れる形にしたものでした。
マクロレンズだけを使用するフィールドテストを行うと、フード付のレンズをカメラに取り付けたままにし、カメラバッグの中に入れて移動するのがベターであると感じ、これをテストしました。するとバッグの中のゴミがレンズ表面に付着することがわかり、フードの先端に、キャップ用のねじを加工することにしました。
設計の基本仕様の決定、フードは、PLフィルター使用時に、手袋をしていても、容易に操作できるように、ねじ込みフードとし、フードを回転すると、PLフィルターが回転するように、決定されていました。
設計段階では、フード先端にキャップ用のねじを加工することは、意図していませんでした。PLフィルターを取り付けても、フードが取り付けられ、操作が容易になりましたが、レンズケースに入れて行動するためには煩雑な作業を必要とします。レンズにPLフィルターを取り付けて、フードを取り付けたまま、カメラバッグに入れることが、撮影中の行動には最適でした。しかも、PLフィルターに直射光が入らず、紫外線をカットし、PLフィルターの劣化を軽減することにも役立つことが分かり、フードの先端にキャップ用のねじを加工することを、採用したのです。
Q2・販売上、この構造を特徴として明示しない理由は何でしょうか?
このフードの先端に加工したねじには、三つの欠点があります。
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マクロレンズで等倍撮影時に、絞りを最小絞りにしますと、このフード先端に、フィルターを取り付けて使用すると、フィルターに付着したゴミが写り込む。
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レンズ単体で持ち運ぶとき、レンズケースに入らなくなり、かさばる。
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フード用キャップを購入しなければならない。(72mmシグマフロントキャップ。定価500円)
これらの欠点がユーザークレームになるのです。
便利さを見つけて下さった方だけに使って戴ければ、とても嬉しいことです。
KEN様のご意見は、弊社が常にユーザーが使って便利と思われることを、なるべく採用しようと努力していることを、見つけて下さったので、ぜひ説明させて戴きたく、ご連絡申し上げました。ご満足頂ける解答になったか不安ですが、宜しくお願い致します。
ご意見をありがとうございました。心から感謝致します。
2003年2月15日
(株)シグマ ○○○○拝
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(2004.6.18 追記)
2004年6月18日に、SIGMA AF MACRO 50mm F2.8
EX DG が発表されました。光学系の小変更とコーティングの見直しでデジタル対応したレンズですが、このリリースの中で「フードの先端には、φ72mmのフィルターの装着が可能です。」と明記されました。このつぶやきの効果でしょうか?(笑)。
同時に発表された SIGMA AF MACRO 100mm F2.8
EX DG の方には何故かφ77mmのフィルターが装着出来るとは書いてありません。何故かな??
(2004.8.30 追記)
但し、その後に発売された雑誌には100mmマクロのフード先端に77mmフィルターを装着した写真が掲載されていました。シグマは両レンズフードへのフィルター装着を公認したことになりますね。
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左側のフードが量産桟改良前のフードで、72mmのフィルターネジは切られていません。内径は69.7mm。生産初期のレンズに附属しているようです。右側が改良後のフードです。左側の写真はエンゾーさん提供。
Sigma AF105mm F2.8 Macroにも77mmフィルターネジの無い改良前のフードが付属しているレンズもあるようです。改良前のフードの内径は74mmだそうです。 |
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