アスティアと戯れる、とは言っても、5月に発売になったアスティア100F(RAP
F)のお話ではありません。今や旧型となってしまったアスティア100プロ(RAP)の話です。ただ新型アスティアでも旧型の特長を引き継いでいる筈なので、今回のお話は新型でも通用するでしょう。
アスティア100プロについてはつぶやき138でも取り上げました。この時にはベルビアと同一露出、同一のアングルで撮影してフィルムの違いをテストしてみました。全体のコントラストを抑え、鮮やかな色もパステル調の初々しい色合いにし、極端に明るいハイライト部でもトーンを最後まで失わずに絵造りするアスティアの個性と底力。私はそんなアスティアに感銘を受けまして、それ以後アスティアが似合いそうな被写体の撮影にはセカンドボディであるEOS55と共に連れ出しています。
今回のつぶやきでは、このアスティアの個性を生かした絵造りを、同時に使ったベルビアとの対比でお見せしたいと思います。前回(つぶやき138)とは異なり、今回は各々のフィルムの個性を生かした撮影なので条件を意図的に揃える事はしていません。双方のフィルムともに様々に条件を変えて撮影していますが、今回は各々のスリーブから最もデキが良いと思われるコマを選びましたので、アスティアとベルビアでは時として撮影条件は全く異なります。しかしこの条件の違いこそが、私の理解しているアスティアとベルビアの違いを反映した物であり、KENの感性で各々のフィルムの個性を生かすという意味では「同一条件」なのです。
これからアスティアとベルビアで撮影した写真をペアでご覧いただきますが、ひとつだけ注釈を加えておきます。私の持っているフィルムスキャナCanoScan
2700Fはアスティアの持つハイライトのずば抜けた表現力を再現できる能力を持っていません。スキャニング後にフォトショップを駆使して原板に近づけては見ましたが、残念ながら原板とは違いがあります。アスティアの原板には、ウェブ上では真っ白に飛んでいる様な部分にも豊かなトーンが有るのです。そのことを念頭に置かれて写真をご覧下さい。
1 まずは確認の意味で同一露出補正のカットを
緑のチューリップを、露出補正なしで二重露出(実質+1EVプラス補正同等)した写真です。ベルビア(下の写真)は実効感度が低く、コントラストが高めになり、彩度も実物以上に高くなるので、全体が濁った感じの写真になっています。一方のアスティア(上の写真)はベルビアの対極にある性格を持つので、ハイライトが美しく、緑も初々しい色合いになっていますね。ベルビアに対して実効感度の高いことも画面を優しい色合いにする事に利いている気がします。
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EOS55, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+0.0EV, 1/350sec.), 同一露出で二重露出, ASTIA100 (RAP) |
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EOS3, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+0.0EV, 1/250sec.), 同一露出で二重露出, Velvia (RVP) |
2 個性を生かす露出補正の違い
今度はピンクと白桃色のグラデーションを持つチューリップの写真です。やはり二重露出をしています。この写真は双方で露出を変えて撮影していますが、アスティアはかなりのプラス補正をかけてもハイライトが失われずに、この様なペールトーンの写真がとても素敵に見えます。+0.5EVで二重露出という事は実質+1.5EV補正で撮影していることになります。この画面では左上の花びら部が飛んでしまっていますが、原板ではハイライトの中に淡くも豊かなトーンが残っており、とてもチャーミングです。一方のベルビアは露出を控え目にして色味を濃いめに出す方が良い写真に見えます。この写真も悪くないですね。ただこれ以上露出を控えるとピンクが濁ってきます。
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EOS55, Sigma AF180mm F3.5EX Macro,
F3.5, AE(+0.5EV, 1/1000sec.), 同一露出で二重露出, ASTIA100 (RAP) |
EOS3, Sigma AF180mm F3.5EX Macro,
F3.5, AE(+0.3EV, 1/840sec.), 同一露出で二重露出, Velvia (RVP) |
3 個性を生かす露出補正の違い(2)
白と赤のエレガントなコンビネーションを持つチューリップを、青空を背景に見上げて撮影した写真です。この二枚は二重露出をしていない通常の写真です。アスティア(上の写真)はしかし、まるで二重露出したかの様な淡いトーンで全体を包み込んだ不思議な写真になっています。露出をたっぷりとかけて、ベルビアであればハイライトがブッ飛んで使い物にならない様な露出で遊ぶと、アスティアはこの様にチャーミングな結果をもたらします。ベルビア(下の写真)も素敵な写真を恵んでくれていますが、コツはやっぱり露出を控え目にしてコントラストと彩度の高い発色を楽しむことです。ベルビアで更にオーバー目のカットもありますが、ハイライトが飛んでしまい写真としては失敗作でした。
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EOS55, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+1.0EV, 1/350sec.), ASTIA100 (RAP) |
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EOS3, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+0.7EV, 1/400sec.), Velvia (RVP) |
4 各々のフィルムの世界(1)
アスティアは思い切ったオーバー目の露出で、ハイライトの多い淡いトーン造りを狙うと良い結果になると思っています。私なりにそれを最も生かすと思っているテクニックがKEN流二重露出です。これは入門書に書いてある二重露出とは異なり、一旦通常どおり撮影してから、ピントを大幅にぼかして二枚目を重ねる撮り方です。二回目の露出は形を持たないために、画面全体にベールをかける働きをして、ピントの芯をシャープに保ったままでソフトレンズで撮影したかの様なトーンが得られます。
一方のベルビアは、もちろんKEN流二重露出も出来ますが、どちらかと言えば通常露出で、露出を控え目にして、鮮やかな発色を楽しむ物だと思っています。
という訳で、このピンクの小さなチューリップの花の写真をご覧下さい。たっぷりとした露出によるKEN流二重露出とアスティアがもたらすピンクとグリーンの初々しさ!全体のトーンの柔らかさ!!
一方のベルビアは深い色合いによって、全く異なる世界を作っています。
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EOS55, Sigma AF180mm F3.5EX Macro
+ x1.4EX Comverter, 開放, AE(+0.0EV, 1/750sec.), 同一露出で二重露出, ASTIA100
(RAP) |
EOS3, Sigma AF180mm F3.5EX Macro
+ x1.4EX Comverter, 開放, AE(+1.0EV, 1/320sec.), Velvia (RVP) |
5 各々のフィルムの世界(2)〜アスティアととことん戯れる
アスティアで撮影したカットは思い切り遊びました。+0.5EVによる二重露出(+1.5EV補正相当)、明るい前ボケの多用などによる、ソフトでハイキーな写真。ベルビアでは手も足も出ない世界がここに有ります。画面では真っ白で一見つまらない写真にも見えますが、これはフィルムスキャナの性能の限界を超えた為で、原板上には極めて豊かなトーンが記録されているのです。
実際の情景はベルビアで撮影した写真の彩度を少し落とした状態です。その状況から上の写真の様な心象的な世界を描くことが出来るフィルムがアスティアです。
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EOS55, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+0.5EV, 1/750sec.), 同一露出で二重露出, ASTIA100 (RAP) |
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EOS3, Sigma AF180mm F3.5EX Macro + x1.4EX
Comverter, 開放, AE(+1.0EV, 1/350sec.), Velvia (RVP) |
アスティアはポートレート用として発売されていますが、花写真でもポートレートを撮影するような気分で使うと、他には無い結果をもたらすフィルムだと思います。この特長は新しいアスティア100Fにも引き継がれて更に強化されている様ですから、ベルビア一辺倒の皆さんは対極の性格を持つアスティアで一度遊んでみては如何でしょう。
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