「大判なんて...」とは思いつつ、心の片隅に「いつか..」「もし安ければ..」「一度ぐらいは..」という言葉がよぎりませんか?そんなあなたには、今が大判写真を始める好機だと思います。ひょっとすると、今始めないと、もう始められないかも知れませんし...
多分、今なら中古を安く買うことが出来ます
現在、大判カメラ(特にモノレールタイプ)と大判レンズは中古市場での動きがあまり無いみたいで、在庫がだぶつき気味のようです。理由はデジタル技術の台頭.....
最近になって幾つかのカメラショップで同じ話を聞きました。それは、商業写真のプロカメラマンが大判機材を処分するケースが増えていて、その理由が大判カメラを必要とする仕事が無くなったというものです。ある店では機材を処分に来たプロカメラマンから直接この話を聞きました。
大判カメラの特質には他のフォーマットを圧倒する高画質と、あおりによる被写体の形の矯正、ピント面のコントロールがあります。しかし出版物用の写真はもともと大判写真ほどの高画質を必要としません。従って商業写真における大判カメラのメリットは、大きなあおりコントロールによる商品を美しく見せる形の矯正とピント面コントロールだと思われますが、デジタル技術の進化(正確に言えばフォトショップの機能強化と、それを使いこなすオペレーターの増加)はこれを不要の物としているようです。例えば建築物の写真ですが、これを普通に撮影すれば上窄まりとなって見栄えが悪くなるので、これまでライズを使って垂線を矯正していました。しかし現在はそんな事をせずとも、フォトショップを用いれば一発で上窄まりの建物を真っ直ぐに出来てしまいます。
それ以外の、大判カメラが備えてきた様々な機能もデジタル編集過程で殆ど出来てしまうので、写真撮影時点では商業写真としての完成品である必要が無く、デジタル入力するための素材であれば良いという事になってしまったのでしょう。この用途であればカメラはより小さなフォーマットで十分であり、デジタルカメラであればスキャニング工程も割愛できるのでコストも削減出来ます。35mmフルサイズデジタル一眼レフや、中判用デジタルバック(645に対してほぼフルサイズ)の発売が相次いでいますが、商業写真におけるその様なニーズの変化を反映した物なのでしょう。結果的に、これまで商業写真の一部を支えてきたモノレール型大判カメラとレンズは中古市場に流出しています。
需要と供給のバランスが崩れて供給が多くなれば、商品の価格が安くなるのが道理です。しかし私の見る限り、表面的な中古価格はあまり下がっていないようです。これは大判カメラを大量に扱う店が、どちらかと言えば老舗のタイプが多く、店の品格を保つために少々の在庫を抱えても大幅値引き販売に動かない為と思います。しかし実際の購入検討時に店と交渉すれば、需要と供給のバランスに合わせた価格になる期待度は大です。実際、「相場よりも多少安目の値段で表示しても買う人が現れない」という言葉をショップ(大判人口の殆どいない広島の店ではありません)から聞いています。
日本から大判フィルムが消える(かも)
大判カメラとレンズの中古が安く買える状況は、中古好きの私のようなカメラマンには一見嬉しい状況ですが、しかし冷静に考えればあまり喜ぶべきことではありません。大判カメラ生活を支えてくれているのは、大判カメラやレンズを作り続けてくれているカメラメーカーとレンズメーカーのお蔭ですが、メーカーは中古が売れても生きては行けません。新品が売れて初めて収入になります。しかし商業写真領域で大判カメラの必要性が下がったとすれば、何れメーカー側も淘汰されたり、大判の領域から撤退したりするでしょう。そうなると大判写真を楽しめなくなります。それは大判フィルムでも同じ事です。
大判フィルムは4x5がポピュラーですが、他に5x7や8x10やそれ以上のサイズもあります。しかし4x5と8x10以外は既に事実上日本から消滅しています。5x7フィルムは入手不可能ではありませんが、コダックのフィルムにしか無く、注文すると米国に発注するのだと聞いています(国内の代理店や、一部の専門店がある程度の在庫を持っているかも知れませんが)。5x7のカメラ、フィルムホルダーも殆ど見かけることがありませんし、現像料金表にも5x7の記載が無いことが多いです。
この様に、昔は様々なフォーマットで栄華を誇った大判写真の世界も、4x5を中心とする世界で細々と生き長らえているのが実体でしょう。まあ5年ぐらいは大丈夫だとしても、10年先まで大判フィルムがこの日本で安定供給されているかどうか、ちょっと不安ではあります。フジは大判に冷たいし...注文するとアメリカから輸入して(フジの場合は逆輸入)納品は一カ月後、なんて事も現実味のあることでしょう。
#フジはベルビア50の大判フィルムの供給を、ベルビア100F発表の一年以上前に中止してしまいました。その時点でアスティア100プロの供給も止めて、当時新発売だったプロビア100Fのみしか供給しない期間が1年以上もあったのです。この事はフジもアナウンスしなかったし、ヨドバシカメラ等の大手カメラショップには販売店在庫が長期間残っていたので気付かれなかった方も多いようですが、事実です。私が大判カメラを入手したときには既にRVPもRAPも4x5は価格表になく、店頭在庫の無い広島の店からは取り寄せ不可能でした。
今年になりベルビアとアスティアの二つの100Fが発売になり、大判ポジフィルムの種類も3種類に増えましたが、いつまた供給が止められてしまうのか....
2003.9.5.追記
プロビア100Fの発売直後に、フジがウェブサイトの価格表からベルビア(RVP)とアスティア(RAP)の大判フィルムを削除した事と、広島のキタムラからベルビアの4x5フィルムが発注できなかった事は事実です。しかし2003年9月になってから久しぶりにフジのウェブサイト上の価格表をチェックしたら、大判フィルムが大幅に復活していました。ベルビア(50)、ベルビア100F、アスティア100F、プロビア100F、64TタイプII、CDU
III、160NL、160NS、160NCに大判フィルムが用意され、サイズも4x5、4x5クイックロード、4x5クイックチェンジ、5x7、8x10、11x14、8x20、大名刺判、長巻き(24.1cm
x 38.1m)などが用意されています。もちろん、フィルムにより選べないサイズがあり、また一部は特注ですが、取り敢えず復活は喜びたいですね!!これがフジ大判フィルム終焉前の最後の輝きでない事を祈るばかり... |
だから、今大判を始めませんか?
非常に悲観的に見れば、大判写真を普通に楽しめるのはあと10年無いかも知れません。だからこそ、今始めませんか?と言いたいのです。
大判カメラのもたらす写真の品質や臨場感は、恐らくそれを初めて体感する人に様々な感情を呼び起こすでしょう。「リベンジ・湯来の枝垂れ桜」の時にトヨフィールドを持ち出して、あの枝垂れ桜の写真も撮りましたが、35mmのスリーブを見た後で4x5のポジを見たときに思わず「プッ!」と吹き出して笑ってしまいました。フォーマットの縦横比を除けばほぼ同じ構図で35mmと4x5で撮影したのですが、4x5の方には桜の前方にある茂みの中に落ちていたビニールヒモ(ゴミです)の繊維が判るほどに、凄まじい情報が記録されていたからです。4x5のポジをルーペで見る事はあたかもその場の情景を双眼鏡で観察しているかのような臨場感をもたらすのです。一方の35mmの方は注意深く観察すれば確かにそのビニールヒモの存在を認めることは出来るのですが、写真の中では掻き消されてしまう存在に留まっています。その時に「何なんだ、この違いは!」とつぶやいて、それが可笑しくなって吹き出したのです。
この臨場感溢れる解像度と豊かな階調性を知ってしまうと、35mmベースの「銀塩だ」「デジタルだ」という議論や、「このレンズの方がシャープだ」「シャープさは写真の質に関係ない」といった話題がおかしく思えてきます。どちらもドングリの背比べ。それらとはケタが違う世界を、中古の大判カメラ&レンズであれば35mmフルサイズデジタル一眼レフの1/10程度の初期投資で入手できるのです。そしてあと2〜3万円追加投資すれば、中判写真(120フィルムの使用)まで可能です。もちろん、機動性のあるカメラではないので、どの様な撮影対象にも使えるカメラではありません。しかしこの安価で桁違いの品質を持つシステムを所有していると、発展途上で膨大な投資を短期的に繰り返し繰り返し要求するシステムの動きを、達観的な視点で落ち着いて見ることが出来ますよ。
#現時点、最高品質のデジタル写真を得る方法は、中判(6x7〜6x9)〜大判カメラで銀塩撮影して、業務用ドラムスキャナで読み取る事だと思います。私の使っているプロラボでは、概ね8000万画素の写真を、極めて良好な階調再現と共にもたらす様です。
画素数だけを問題にするなら、4x5を3200dpiのフラットベッドスキャナでスキャンすれば、約2億画素の画像が得られます。
更に大判写真にはオートという概念がありません。全ての操作をカメラマンが自分の手で行わなければなりません。それだけに写真の基本を徹底的に教えてくれます。
話題がそれますが、ここ10年ぐらいのパソコンや、CPUを用いた電子機器の発達で、様々な結果を、あまり深く考えずともワンタッチで得ることが出来るようになりました。しかしこれはある意味で恐ろしいことだと私は思っています。例えば皆さんエクセルというソフトを使っているでしょう。これには様々な内部関数が組み込まれており、大昔には筆算や電卓片手に難しい計算をしていた統計計算などを、一瞬でやってのけます。その結果昔に比べると実に大量の計算を効率よくこなすことが可能になりましたが、一方で現実の世界で起きていることは、計算ミスの連発と、結果としての仕事の欠陥の連発です。平均的な日本人の数学の知識、学力は元々高くありませんが、特に若い世代になるほど学力低下が目立ちます。今ごろの新人は理系と呼ばれる人達でも、標準偏差の求め方や、得られる数値の期待値、その意味などを説明出来ない事があります。一方で複雑な計算仕事の方はパソコンとエクセルのお蔭で、理系の人達だけではなく標準偏差はおろか統計の「と」の字も覚えずに大人になったバリバリの「文系」の人達にも任されて、マウス&キーボード操作だけで「難しい計算」を実行しています。しかしその人達は因数の意味も、もたらされる数値の期待値も判りませんから、計算ミスがあっても気付きません。それはそのまま仕事のミスになります。私の仕事の中でも、他の人の計算ミスを発見する事が多くなっています。計算の意味を理解していれば、数字を見ただけで誤りに気付けるからです。
#コンピューターがこれだけ発達したのに、ロケット打ち上げの成功確率は却って30年前のアポロの時代から下がっていると思いませんか?私の思うに、複雑な計算をあまり考えずに出来るようになったので、現代の技術者は計算ミスを発見する能力(あるいは計算ミスを犯さないプロセス)が身に付いていない為だと思います。特に日本の成功確率低下は目に余りますよね。
写真も同じだと思います。写真撮影の要素はおおまかに言えば、構図とピントと露出ですが、これらの基礎が無ければ、ある一定レベルから上への上達は難しいと思います。しかしカメラのオート化が進んだ結果、シャッターを押せば取り敢えず写真は撮れますので、基本を学ぼうとはせず、基礎も無いままに乱写して偶然に任せている様な人が増えた気がします。時折「○○のカメラはAFの精度が悪いからピンボケになる」とか、「XXのカメラの△△測光は精度が悪いので、露出が狂う」とかいう言葉を耳にしたり読んだりします。ある人は「だからピント修正して撮る」とか「ゆえに露出補正が欠かせない」という言葉に繋がりますが、別の人は「だからそのカメラやレンズはダメだ」と発言したりします。後者の言葉を耳にする度に私は「何か勘違いしているんじゃないかな?」と思っています。
ピントも露出も本来カメラマンが決めることで、カメラが決めることではありません。しかし効率化の為にカメラはピント作業と露出測定作業をカメラマンの複雑な作業に代わって「シャッターボタンの半押し」等で実行して、結果をカメラマンに問うてきます。カメラマンはその結果の適否を判断して適宜修正してから撮影するのが役割です。それを可能にするには、カメラマンはピントと露出の基本を知り、カメラが何をしているのかを理解しなければ修正できませんよね。
ピントと露出の基本をご自分に叩き込む上で、大判カメラは最適な状況をもたらしてくれます。繰り返しになりますが、大判カメラにはオートという概念が無く、全てを自分自身の作業で決めて行かなければなりません。加えて、あおりによるピント面コントロール、被写体の遠近感、形状コントロールや、一枚単位で可能なフィルムの増感/減感現像を与えてくれるので、ピント合わせの奥深さや、フィルムの特性コントロールまで含めた露出の醍醐味を教えてくれます。これらの多くは35mmカメラや中判カメラでは不可能か、可能でもかなり制約条件の多い物だからです。更には、マクロ撮影する場合に巻き尺などで蛇腹長を測定して、レンズの焦点距離から電卓などで露出倍数を計算し、露出を補正するという楽しみ(つまり露出倍数の原理から計算方法まで現場で理解し使うことを要求する事)を与えてくれたり、ストロボ撮影の場合には、ガイドナンバーと撮影距離から絞りを選択し、背景描写に必要なシャッタースピードを背景光露出値から弾き出すという、ストロボ調光の基本原理を自ら行う楽しみも与えてくれます。
この様に大判写真を楽しむことは、35mm銀塩カメラやデジタルカメラで撮影する場合の写真の基礎も磨き、より完成度の高い作品を生み出す事に繋がります。しかしその世界を安価に安定的に楽しめるのもあと5〜10年かも知れません......残り5〜10年とは言っても、半年から1年で旧型になり、3年経つと殆ど使い物にならなくなるデジタルカメラよりは遥かに長く使えるし、デジタルに比べれば初期投資も僅かです。だからこそ、今のうちに大判カメラに手を染めてみては如何でしょうと提案するのです。
#私はオート否定派ではありません。写真の初心者に相応しいカメラはマニュアル機かフルオート機か、という議論を友人達とする機会が過去何度かありまして、私は常にフルオート派でした。趣味としての写真はまず楽しいことが第一で、小難しい撮影テクニックを学ぶよりも、被写体に集中して写す楽しみを味わう方が先だと思っています。しかし、その楽しさを知り、テクニックを磨いてより良い作品を目指すのであれば露出や構図、ピントの基本と応用を学ぶことは必須であり、オート機を使っていたとしても、基本を学ぶ際には自分の手でマニュアルで操作することが望ましいのです。
お勧めはフィールドカメラ(ん、言っていることが前半と違うぞ〜(^^;\(-"-)バキッ!)
冒頭ではモノレールタイプの大判カメラが中古市場に多く出回り、安価に購入できることが期待できると書きましたが、お勧めはやっぱりフィールドタイプのカメラです。先日、格安の中古トヨビュー45C(モノレールタイプのカメラ)に巡り合いましたが、専用ケースが無ければ持ち運び困難な大きさと収まりの悪さ、軽量シンプルといわれる機種でも単体で4kgを超える重量(延長レール、袋蛇腹、アダプターレンズボード含めると5kgを超えます)を目の当たりにして、私自身は購入せずに友人のMに購入権を譲りました。そのMも、格安でモノレールをGETできた事には喜びつつも、大きさと重さに処置に困っている様です。
一方のフィールドカメラは重さ1.5kg〜2.8kgぐらい、折り畳むと普通のカメラバッグに納まる大きさになります。これはブースターをつけた35mm一眼レフ程度の嵩であり、多くの中判一眼レフよりも小型軽量かも知れません。もしレンズまで含めれば、大判レンズはあきれるほどコンパクトな物が多く、35mm一眼レフシステムと大差なく、中判一眼レフシステムよりも軽量コンパクトなシステムになります。
但し、フィールドタイプのカメラは商業写真にはあまり使われていないと思います。中古市場でのタマも豊富とは言い難く、価格相場も下がったという気がしません。しかしレンズの方は出現が多くなっている様なので、レンズ重視で購入されると良いでしょう。
トヨフィールド45Aとブースターを付けたEOS3の大きさ比較
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カメラバッグ収納時の大きさは大差ありません。トヨフィールドはカメラバック側が写っていて、正面に見えるフタの様な物(ピントフード)の大きさが、ほぼフィルムサイズに相当します。
重量はトヨが2.4kg。EOS3が1.5kg(電池込み)です。トヨは金属製という事もあり重量級のフィールドカメラです。木製のタチハラであればEOS3と同じ1.5kgです。 |
標準レンズ(トヨにはフジノンW150/5.6、EOS3にはシグマ28-70/2.8EX)を付けた撮影状態。大判レンズはこの様にコンパクトなので、撮影時にもフィルムサイズほどの大きさの差は生まれません。収納時には却って逆転し大判レンズシステムの方が軽量コンパクト、というケースもあります。 |
ほ〜ら、あなたは大判が欲しくなる、欲しくなる、欲しくなる、欲しくなるっ!(@_@)
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