つぶやき184「リベンジ・湯来の枝垂れ桜」に掲載した、2年がかりで撮影した枝垂れ桜の枝の写真。夜明けの光の中で藍色の発色するコダック・エクタクロームE100VSでアンダー目に露出を与えて、妖しい美しさを持った写真に仕上がったと思っています。1アングルでフィルム一本消費したので、出来上がりも「ほぼ」満足できる物でした。しかしこの写真、1ヶ所だけ修正したい部分があるのです。それは前ボケの配置。
主役の枝は中央上から三つに分かれて拡がり良い配置に置けていると思います。一方の前ボケの方は上の方から断続的に二列繋がっていますが、真ん中のボケが最後に左に向かって下りてしまっています。これがもし右端に向かって下りていれば個人的に不満は全く無かったでしょう。しかし左に折れ曲がってしまった為に、右下に被写体の流れを受け止めない無意味な隙間が出来てしまい、バランスを崩していると思うのです。
2003年の写真の構図
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バランスの崩れた構図
主役の枝は黄色い矢印にあるように、上部中央から末広がりに配置されてバランスは満足出来るものです。しかし前ボケの配置は赤い矢印に有るように、みな左下に向かって流れてしまい、右下に無意味な空間が出来ています。もし赤い点線の用に前ボケが流れていれば安定感のある構図になったと思っています。 |
それで2004年に再リベンジする事にしました。修正箇所は前ボケの配置ですからそれに注意して撮れば良く、気軽な物です。今回は同じアングルで大判カメラを使った4x5と6x9撮影もしておこうと思い、気分は気軽ですが、装備は重装備で、撮影も一日とは限らず気合を入れて臨むことにしました。
2004年4月3日土曜日、朝3時半に起床してクルマに乗り込みます。湯の山温泉に到着したのは朝4時半。まだあたりは真っ暗で、懐中電灯を持って桜まで行ってみれば夜目に満開の桜が佇んでいました。今年は撮影可能ギリギリの明るさからE100VSの発色を試したくて、東の空に薄明がほんのり始まった頃にカメラをセットしましたが、あまりに暗くてピント合わせどころか構図調整もままならず、クルマの方に一旦機材を引き揚げました。それで5時20分ぐらいになって懐中電灯無しでも歩ける明るさになってから、もう一度カメラをセットするとショックが走りました。思うような構図が作れないのです。
この枝の写真の構図を実現する撮影ポジションは実はピンポイントでしか存在しません。それは:
・まずこの写真の特徴である暗い背景ですが、これは桜の背後の山です。主役の枝全体を暗い背景の前に置く為には、ほぼ私の目線の高さ(概ね1.5m以上)の所にカメラを設置しないと、山の稜線が枝の上部に掛かってしまい、明るい背景が紛れ込みます。
・次に前ボケとなる桜の花の付いた枝ですが、その候補となる桜の根元の広場に垂れ下がる枝は2本あります。これらの枝は複数の枝が絡み合っており、丁度花が多くて枝の少ない隙間から狙わないと、前ボケが黒い枝ばかりになってしまいます。適当にカメラを設置しても良い前ボケは得られません。
この様な制約の中で構図を作らねばなりません。前ボケに使う二つの枝の内、昨年用いた左側の枝が使えたなら良かったのですが、2004年はこの枝の花つきが非常に悪く、前ボケは枝ばかりで、花のボケは殆ど得られませんでした。それで仕方なく右側の枝を用いたのですが、こちらの枝でも花の付きが悪く、意図するような前ボケが得られません。加えてカメラをより右側に置いた結果、主役の枝の右手前にある花の全く無い枯れ枝が画面右側に入り込んでしまいました。この枝までは距離が有るために、開放絞りでも存在感が消えません。更に細かく見ると、主役の枝の中央の枝は去年よりも長くなっており、これをバランス良く収めようとすると、上下に長い分どうしても左右も広くフレーミングしなければなりません。それも右側の枯れ枝を外せない遠因になっています。
湯来には4月3日、4日、5日と三日連続で通いましたが、花や枝の状況が数日で好転する筈もなく(というか花が散って日と共に却って悪化しました)、結果的に2004年は前ボケも右側前景も雑然とした写真しか撮れませんでした。
2004年の状態(惨敗(^^;)
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2004年惨敗の図
ご覧のように前ボケの状態は芳しくありません。また画面右上には枯れ枝の不気味な影が写り込んでいます。これを避ける為には広場に垂れ下がる左側の枝垂れの花を前ボケに使えば良いのですが、2004年には花の付きが悪く果たせませんでした。また主役の枝が昨年よりも長い為に、これをバランス良く収めようとすると画面の左右範囲も広げざるを得なかった事も、右側の枯れ枝の排除を難しくしました。より良い前ボケを求めてアングルを変えるにはカメラポジションを高くする事が必要です。低くすると山の稜線が写り込み、明るい空が背景に紛れ込むからです。この写真でも多少背伸びをして撮影しており、これ以上のハイアングルとなると脚立が要ります |
レタッチを許すのであれば昨年の写真にチョイチョイと前ボケを加えればOKなのですが、それをしないのが私のポリシーです。2004年はこの様に惨敗でしたので、2005年の再々リベンジに向けて反省点を忘れないように整理しています(それがこのつぶやき)。来年は良い花と枝ぶりに恵まれるように運を磨く事と、より良い前ボケを求めて、よりハイアングルな撮影が出来るように脚立を持って行こうと思います。三脚もスリック・ザ・プロフェッショナル(2m)よりもマンフロット075(約2.3m)にしようかな。
では、最後に2004年に撮影した色々な光の条件下での同じアングルの写真をお見せしましょう。どれも芳しくない写真ですが、光の違いによる描写の違いの参考にはなると思います。
2004年「湯来の枝」のミニギャラリー
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1日目(4/3)の夜明け前の写真。恒例の深いブルーの中に淡いピンクの花が浮かんでいます。
EOS3, EF70-200/2.8L (120mm), F2.8, AE(-0.7EV,
0.4sec.), E100VS |
こちらは2日目(4/4)、雨の日の7時半ぐらいの写真。周囲は明るいので特徴的なブルーは薄らいでいますが、雨によりしっとりとした質感になっています。前ボケが多少マシなのは、雨の重みで枝垂れが下がっていたから。
EOS3, EF70-200/2.8L (120mm), F2.8, AE(-0.7EV,
1/160sec.), E100VS |
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3日目(4/5)の晴れの日の朝、太陽が昇って徐々に枝垂れを照らしていった時の写真です。前ボケの花が照らし出されてボケの存在が大きくなり、色味もブルーからオレンジへと変化しています。右の写真では相対的に枯れ枝が暗くなって目立たなくなっています。
EOS3, EF70-200/2.8L (120mm), F2.8, AE, E100VS
(左の写真)-0.7EV補正、1/160秒 (右の写真)-0.7EV補正、1/400秒
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