前編の冒頭に「実写評価はまた後日。」と書いて皆さんに「後編」をお約束したのですが、この約束を果すことが大変だとは思いもよりませんでした。マクロアポランター125mm
F2.5SLはとても「性格の掴みにくいレンズ」なのです(;^_^A 色々と撮影した結論としては諸手を挙げてお勧めするレンズとは言い難いのですが、しかしその理由、他のレンズとの違いを「分かりやすい絵」でお見せする事がかなり難しく、一回、二回のテスト撮影では良いサンプルが得られませんでした。
1 ボケ味〜マクロ域のボケはちょっと固い独特のもの
このレンズの最大の「違い」はマクロ域での独特のボケ味です。タムロン90マクロの様なとろけるボケとは異なり、エッジの立ったような固いボケ味を示します。これは背景との距離があまり大きくなく、かつ背景の造形が煩雑だとちょっと鼻につきます。また1mよりも近接した撮影では、開放でも絞り羽が絞り込まれるために、点光源のボケが丸にはならず、ちょっと不規則な多角形になります。この辺りはマクロレンズとして残念な事です。
二線ボケ傾向は比較的少ない方ですが、ピント位置が60-80cmぐらいの時に背景に線があると、綺麗に真っ二つに分かれてボケる事があります。それ以外のピント位置であればあまり目立ちません。ピント位置を2〜3mぐらいに置いた時(つまりポートレート撮影の様な使い方)の背景のボケ味は、タムロンSP-AF90mm
F2.8マクロよりもむしろ良好だと思いました。
二線ボケ傾向はどのレンズにもあり、それが発生しやすいピント位置と発生する場所(後ボケか前ボケか)はレンズ毎に違いますので、その特性を知り、目立たないように使うのがコツです。マクロアポランターだけに限ったことではありません。タムロンSP-AF90mm
F2.8マクロにも、シグマAF180mm F3.5EXマクロにも、EF100 F2.8マクロ(旧)にもあります。但し、この中ではタムロンが最も気を使わなくて済むレンズです。
では実際の写真で私の手持ちのマクロレンズ(除くMP-E65mm
F2.8)の描写の違いをお見せしましょう。写真は撮影倍率1/3倍程度でベゴニアを撮影した物で、各レンズで撮影倍率を合わせてあります。つまり撮影距離はレンズ毎に変えて撮った写真です。なお、タムロンSP-AF90mm
F2.8マクロの写真だけ色味が明るいですが、このレンズの撮影時に薄日がさした為で、レンズの発色傾向の違いではありませんのでご了承下さい。ここでは「レンズのボケ描写」のみに注目してください。
まず見ていただきたいのは、F2.5という大口径の威力です。マクロアポランターのF2.8で撮影した写真と比べると、0.5段明るいF2.5のボケは明快に大きくまろやかになっている事がお分りになると思います。またこのボケの大きさは、シグマAF180mm
F3.5EXマクロ開放時よりも大きい物です。ボケが大きいということは、被写界深度も浅いという事で、このレンズの開放でのマクロ手持ち撮影は、シグマの180mmマクロに匹敵するほど気を使います。
(注釈)一般的には焦点距離が長いほどボケが大きくなると言われますが、それは一般撮影領域の事で、今回のサンプルの様に「マクロ域」で撮影距離を変えて撮影倍率を統一した場合、ボケの大きさ(被写界深度の浅さ)はレンズの焦点距離の影響が小さくなり、むしろF値の方に大きく左右されます。
被写界深度の式を実際に解いてみると、マクロ域の代表である「等倍時」の被写界深度はF値のみに依存し、焦点距離には依存しません(許容散乱円径=0.035mm前提)。但し等倍から外れると徐々に焦点距離の影響が出てきます。興味のある方はネット上で被写界深度の数式と、レンズの撮影倍率の数式を見つけ出し、連立方程式にして解いてみてください(笑)。但しネット上にある数式の大半はマクロ域では使えない遠景近似式なので、ご注意を(^^)
次にボケ味を見ましょう。上記写真の中央部左下にあるベゴニアの茎が放射状に生えている所の拡大写真です。ここにはシグマ50mm
F2.8EXマクロも加えてあります(同じ撮影倍率で撮影してあります)。撮影時の絞りは各レンズの開放です。
こうして比べると一目瞭然なのですが、まずタムロンSP-AF90mm
F2.8マクロの抜きん出て素直なボケ味が分ると思います。サンプルで示したAやBの部分に相当する茎のボケ方を見ると、タムロンSP-AF90mm
F2.8マクロは全体が広がってホワッとしたボケになっています。次いで素直なボケを持つのがシグマの50mm
F2.8EXマクロで、タムロン程ではないですが許せるボケ味を持っていると思います。
三番目はシグマAF180mm F3.5EXマクロのボケです。このレンズのボケはホワッと広がるのではなく、ボケて広がった茎の周囲にエッヂが付くようなボケ味になります。ある意味では二線ボケの片鱗とも言えますね。実際このレンズでは1m以内の近接撮影で、背景に枝があると酷い二線ボケに悩まされるケースもあります。そして最悪なのがマクロアポランター125mm
F2.5SLです。ご覧のようにBの部分の様なスパッとエッヂの立ったボケか、Aの部分の様な芯のあるボケになってしまいます。不思議な物で、最初に述べたように60-80cmぐらいのピント位置で無ければ完全な二線ボケになることは稀なのですが、しかしマクロ域のボケは常にこのようなエッヂの立ったボケになってしまい、線が有ればざわざわした感じの写真になりますし、面ボケでもエッヂに妙な存在感が出ます。
2 ボケ味(2)〜通常撮影時のボケ味は良いかも
次にお見せする写真は撮影距離2.2mの時の背景のボケ味です。今回は撮影距離を一定にしてボケを見ていますので、焦点距離の長いレンズの方がボケは大きくなります。意地悪な実験としてピント位置の直ぐ背後に木の枝を無数に配置して、僅かにボケた場合の二線ボケの傾向を見てみました。上の写真がマクロアポランター125mm
F2.5SL、下がタムロンSP-AF90mm F2.8マクロで、どちらも開放で撮影しています。このテストでマクロアポランターは良いボケ味を見せ、殆ど二線ボケ傾向を示しませんでした(完全なゼロではありませんが)。同時に撮影したタムロンマクロもほぼ互角の性能を見せていますが、画面の四隅でより明確な二線ボケが出ているのが分ると思います。
今度はピント位置からかなり離れた遠景のボケの比較です。ピント位置は3mで、上がマクロアポランター125mm
F2.5SL、下がタムロンSP-AF90mm F2.8マクロで、やはりどちらも開放撮影です。焦点距離が長く、開放値も明るいので、マクロアポランターのボケの方が大きくなっており、立体感のある写真になっています。タムロンももちろん良いボケ味ですが、中央部に有る背景の木のボケが多少二線ボケになっていますね。但しそれ以外の部分のボケ味はタムロンも味のあるボケだと思います。私はタムロンのこの遠景ボケに絶大な信頼を置いています。
この2枚の写真でマクロアポランターにフレア傾向(画面全体がやや白っぽくなっている)が見てとれると思います。この撮影時には左上に薄曇りの太陽があり、逆光になっています。マクロアポランターのフードは遮光効果の高そうな金属製角形フードですが、期待を裏切って(笑)ハレ切りが明快に有効なレンズになっています。但し昼間の太陽にレンズを向けても醜いゴーストはさほど発生しません。コーティング性能はかなり良いと思われ、キヤノンよりは数段上では無いでしょうか。しかしレンズ鏡筒内部の反射防止処理は最良とは言えない様です(シグマよりはマシだと思いますが、タムロンほどでは無い)。
3 余談ですが、AFカメラではピンボケに注意(笑)
これはレンズのせいではありませんが、実はこのレンズで僅かなピンボケ写真を量産してしまった事が有ります。
EOSの様にピントの山の分りにくいカメラでMF撮影している時には、ピント位置は直接見つけるのでは無く、ピントリングをピント位置の前後で行き来させ、ボケ量の変化からピント位置を判断している事が多いと思います(同じ様な大きさのボケ量になるピントリング位置の丁度中間、という様な判断のしかた)。そんな癖のついた私がマクロアポランターで40〜50mぐらい離れた桜の花を撮影したときに、ピンボケは量産されました。何故なら、いつもの様にピントリングを行き来させようと思っても、このレンズはMFレンズであり無限遠でピントリングが止まってしまうからです(AFレンズは無限遠を超えてピントリングが回ります)。後で確認すると50mぐらい離れた場所のピントリングの位置は、ピントリング円周上で無限遠からわずか0.5mmぐらい戻した所で、EOSのスクリーンでは変化が殆ど感知出来ないのです。おまけに被写体の桜の花は直射日光を浴びて明るく輝いて、一つ一つの花がスクリーン上で小さなハレーションを起こしていたようで、ジャスピンの位置でもボケているように見えたのです。それでピント位置が完全には分らず、つい無限遠位置で撮影しましたが、125mm
F2.5という大口径は40〜50m先の被写体を無限遠位置の被写界深度内には収めてくれませんでした。純正EOSスクリーンの中では最もピントの山の掴みやすいEOS-1用レーザーマット(方眼マット)を用いてこの有り様ですから、AFカメラで開放で遠景撮影するときには細心の上にも細心のピント調節をされた方が良いでしょう。
4 結論
初代タムロン90マクロ(撮影倍率1/2倍までのF2.5モデル)の名声が広まったときに「ポートレートマクロ」という称号を得ました。これは「ポートレート撮影にも使えるマクロレンズ」という意味であり、その名声と実力は現在の等倍化されたタムロン90マクロにも引き継がれています。この視点からマクロアポランター125mm
F2.5SLを眺めたときに「マクロポートレイティスト (Macro - Portraitist)」とでも呼びたい気分です。それは「マクロ撮影も取り敢えず出来るポートレートレンズ」という事です。こと描写力を見る限り、マクロとしての評価は並どまりでしょう。しかし通常の撮影距離では私のテスト範囲では極めて良好な描写力を持っており、ポートレートであればさぞや高性能なレンズだろうなぁと感じるからです。コシナのサイトのこのレンズの作例も、マクロ撮影ではなくポートレート写真でした。マクロ写真では作例にならない事をコシナも知って、ポートレートの作例にしたのだろうと私は勘ぐっています(注:2004年7月に作例ページは削除されました)。生憎私はポートレート撮影をしないので、ポートレート撮影をされる方の感想を聞いてみたいものです。
作品主義、描写力優先で「マクロレンズ」を選ぶのであれば、このレンズを選ぶ理由は殆ど無いでしょう。125mmという焦点距離は90mmと180mmの丁度中間で(90x√2=127)、独特の画角を持ちますし、F2.5という大口径は他を上回るボケの大きさをもたらしたりしますが、肝心のボケ味はあまり褒められた物ではありません。値段は税抜き95000円で値引率も悪く、中古も滅多に無く、入手するとなると実売価格はかなり高価です。もしこれからマクロの世界に踏み入りたいという人がおられれば、私は迷わずタムロン180mm
F3.5 Macroと、(2004年時点では)旧型になったタムロン90mm F2.8 Macro (172E)(ミノルタαユーザーにはタムロンの代わりにミノルタ100mmマクロ)のセットをお勧めします。新品購入を前提として予算的にはマクロアポランター1本よりも高くはなりますが、僅かな追加金額で極めて良好なボケ味の高性能マクロレンズを2本も揃えることが出来ますからね。もし中古を許容すれば2本で新品マクロアポランター1本分ぐらいの予算で収まりますし、何よりマクロを沢山撮影していると、90〜100mm付近の中望遠マクロの世界と180〜200mm付近の望遠マクロの世界は互いに代用できる物ではなく、両方あって一人前という気がするからです。
最後に誤解を招かないように付け加えましょう。ちょっと厳しい書き方になりましたが、マクロアポランター125mm
F2.5SLでも素晴らしいマクロ写真は撮影出来ます。ただタムロン90マクロであれば「配色の整った背景を探し、主役をその前に起き、開放でピントを主役に合わせて背景をぼかしてしまえば、あとはタムロンが美しい背景を自動的にレンダリングしてくれて、作品の出来上がり!」というお手軽さ(レンズへの信頼)が味わえるのですが、マクロアポランターの場合には、このレンズでも美しくなるような特別な背景を探し、撮影距離もボケが破綻しないような距離を選び...と、かなり気を使わざるを得ないだけです。これで価格がタムロンよりも安ければ「どうぞ」となり得るのですが、現実的な入手可能価格は2〜4倍ぐらい違いますので、積極的にお勧めする気にはならないのです。
私のレンズ艦隊の中でマクロアポランターは、今後マクロレンズというよりも高性能な135mm付近の望遠レンズとして活躍してもらおうと思っています。日の出撮影など、EF70-200mm
F2.8Lでは手も足も出ない逆光撮影で出番があるでしょう。
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桜のギャラリーに掲載した写真です。背景の枝のボケがかなりざわざわした感じになっています。この作品の場合はそれが陽炎のような良い効果に結びついていますが、通常は扱いにくいボケ味だと思います。タムロン90マクロで同じ情景を撮影すれば、もっとスムーズなグラデーションになっていたでしょう。開放撮影。 |
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背景の枝がわずかに二線ボケ傾向を示し、花のボケも妙なエッヂ感というか浮き出し感があって、柔らかい背景とは言い難いですね。撮影時にこのボケ味は確認出来たので、桜のギャラリーにはこの写真ではなく、KEN流二重露出で全体を柔らかくした写真を採用しました。開放撮影です。 |
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左側の菜の花の枝は二線ボケで真っ二つになっています。また背景のボケ味もごわごわして固いですね(ウェブで見るよりも原板はもう少し固いです)。マクロアポランターが比較的不得手とする撮影距離&ピント位置での撮影です。なおこの写真は本来縦位置で撮影した物ですが、ボケの状態をよりよくご覧戴く為に、上半分だけを横位置にトリミングしました。開放撮影です。 |
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こちらはかなり迷った上で撮影した写真。最初ファインダーを覗いたときには背景のボケに二線ボケとざわざわした感じの両方が混在して、シャッターを押す気になりませんでした。その後、構図を調整して背景から線を無くし、撮影距離を調整してボケ味を整えて撮影しました。しかし背景の白い花に妙な立体感があり、主役の花よりも前面に押し出てきている感じがしませんか?。これも開放撮影です。 |
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