フォクトレンダー・アポマクロランター125mm F2.5
SLを購入しました。今回のつぶやきでは購入に至る経緯と、レンズを触ったインプレッションをお届けしましょう。実写評価はまた後日。
1 興味
つぶやき64「なぜマクロレンズは等倍止まり?(こんなマクロが欲しいよぉ)」にこんなことを書きました。
私自身が欲しいマクロレンズのスペックは無限遠から2〜3倍まで撮影できる中望遠マクロです。出来れば開放F値はあと一段明るいF2だと良いですね。ちょっと大きく重くなりそうですが、1kg以下ならボケの大きさに免じて許しましょう。さらに後部差し込み式フィルターがついていて、そこに蒸着式アポタイゼイションフィルターを挿入できたら言うことないです。またその位置に円形の穴を開けた絞り板も入れられるようにすると、小絞りでありながら開放と同じボケの質を維持出来ます。これは一部の天体望遠鏡に用いられている機構です。
AFである必要はありません。その分MF時のピントリングのフィーリングを良くして欲しいです。
こんな考え方を持っている私ですから、フォクトレンダー(コシナ)からマクロアポランター125mm
F2.5 SLが2001年夏に発売され、しかも例外的にEOSマウントも用意されている事を知った時に大いに興味を惹かれました。その理由は
1 F2.5という大口径
中間リングやコンバーターを併用しない35mm用等倍マクロレンズとしては、現在世界最高の明るさを持つレンズです。しかもそれを一般的な中望遠マクロよりも長い125mmという焦点距離で実現しています。125mm
F2.5は有効開口径で見ると50mmとなり、200mm F4や180mm F3.5と同等で、90-100mm
F2.8の32〜35mmから見ると二倍の(つまりつぶやきに書いた100mmF2クラスの)開口面積をもちますから、既存の中望遠マクロには無いボケ味が期待できそうです。
2 MF専用レンズ
マクロではMFしか使いません。MFフィールを最善にしようと思えばMF専用設計に適う物は無いでしょう。
3 円形絞り(という噂、ネット上の使用記事)と素直なボケ味(というコシナの主張)
言うまでも無く、ボケ命のKENですから、このあたりの文言には敏感です(笑)
4 総金属製鏡筒、結晶塗装の角型金属フード、異常分散ガラスを2枚使い異様に優れたMTF特性
所有する喜びに通じる高品位な作りやスペックは私のレンズの必須条件ではありませんが、有れば有ったで嬉しいものです。
このレンズへの興味を深めたもう一つの要因があります。それはEF70-200mm
F2.8L USMの逆光性能の低さに落胆してつぶやき165に書いたのですが、
アメリカのサイトでも同様で、EF70-200mm
F2.8L/F4Lは逆光に弱い、ゴーストが出やすいとの記述が幾つかありました。(中略、要旨は〜ズームでは限界があるので単焦点の)EF200mm
F2.8LやEF135mm F2Lが必要なのでしょうか???これでは機材欲しい病が益々悪化してしまいますね。
この時以来、日の出、日没撮影の為の逆光に強いであろう単焦点レンズの追加を考えていたのです。70-200ズームを使った私の写真の撮影データを見ると、よく使う焦点距離は90-100mm前後、120-135mm前後、そして200mmです。これに対して私の手持ちの単焦点レンズには、タムロン90mmマクロとシグマ180mmマクロがあり、両端の焦点距離域は何とかカバーできています。しかし中間の120-135mm域をカバーする単焦点レンズがありません。この候補としてはEF135mm
F2LとEF135mm F2.8 Softの二つが直ぐに思いつきます。EF135mm F2Lの方は安価では無いこと、幾つかのサイトに「逆光・開放ではフレアが大きい」と記載があることから、多額の投資をする踏ん切りがつきません。一方のEF135mm
F2.8 Softの方は安価であることに加えてレンズ構成枚数が7枚と飛びぬけて少なく、逆光性能の高さが期待できます。おまけにソフトフォーカスという一芸を備えていますので、現物があったら一度テストしてみたいなと思っていました。
そしてその二本を掻き分けて私の興味を惹いたのがマクロアポランター125mm
F2.5なのです。レンズ構成枚数は等倍マクロゆえに11枚とちょっと多めですが、シグマ180マクロ(13枚)よりも良好で、タムロン90マクロ(10枚)並みの性能を期待できるでしょう。KENが最も好む「等倍マクロ」という一芸を「大口径」というおまけ付きで実現していますし、更にコシナ発表のMTFを見るとEF135mm
F2Lを相手にせず、EF400mm F2.8Lレベルの驚異的な特性を示しています。この点は違うメーカーの測定値なので直接比較するのは良くないですが、Lレンズ並みの高性能レンズであり、等倍マクロでありながらEF135mm
F2L的な使い方というもう一つの「一芸」は期待しても良いでしょう。
という事でマクロアポランター125mmは発売以来常にKENの念頭にうろうろしていたレンズでした。しかし.....
2 高い、値引率が悪い、中古が極端に無い
定価は95000円です。ネットではこのレンズの値引率の悪さが話題になっていて、発売当初は東京の量販店でも8万円台という超強気の価格で、既にマクロを4種類持っている私が追加で買うには高すぎました。暫く中古の出現を待ってみましたが発売から一年ほど過ぎても殆ど現れません。ニコンマウントの中古を二回ほどネット上で見かけましたが、いずれも6万円台後半でした。それ以外のマウントとなると、某掲示板への書き込みで「ヤシカーコンタックスマウントを見かけた」というだけで、EOSマウントは中古はおろか、新品を買ったという人すら見つけることが出来ませんでした。
発売から一年半ほど経った2003年1月にT町にこのレンズの新品価格を聞いてみました。そろそろ値引率も妥当になって来ただろうと思ったのです。最低でも35%引きを期待したのですが、しかしT町KEN価格でも2割引きが限界との事で、購入を諦めました。その後も中古を見かけることも無く(一回だけニコンマウントが有ったかも知れません)、月日は過ぎて....
2004年2月21日土曜日、家族と外出する前にPCを起動して、念のための「沼」チェックをすると、そこに信じられない文字が
フォクトレンダー(Voigtlander) マクロアポランター
125/2.5 SL (EF) A 49,800
初めて見るEOSマウントの中古物件。値段もAランクで5万円弱は悪くなく、今まで見た中では最低値です。しかし電光石火で発注したかといえばそうではなく「よりによって、何でこんな金の無い時に....」とつぶやいて暫く考え込みました。
実は年末に多額の買い物をしたのです。愛用パソコンはマックですが、そのOS9起動モデルが無くなるという事でデュアルブートのパソコンを二台(Power
Macintosh G4 1.25GHz Dual, iBook G3 900MHz 12")と増設メモリー、増設カード類、無線LAN機器などを合わせて40万円ちょっと、加えてSIGMA
AF15mm F2.8EX DIAGONAL FISHEYEも購入し、その他諸々の通常消費も合わせて1月と2月のカード請求額は思い出したくも無い、女房が気絶するような金額になったのです。マクロアポランターが現れたのはその請求書を見てから数日しか経っていませんでした。その日の私にこれ以上の消費欲は全く無く、他のレンズならば間違いなく見送ったでしょう。しかし2年半目にして初めて見る中古物件。ここで見送れば次はいつになるのか....清水の舞台から飛び降りる気分で発注手続きをしました。そしてレンズは数日でやってきました。
3 感想を書く前にスペックのおさらいを
Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm F2.5 SL
レンズ構成:9群11枚(内、異常低分散ガラス2枚)、絞り枚数:9枚、最小絞り:F22
最短撮影距離:38cm、最大撮影倍率:等倍、フィルターサイズ:58mm
寸法:76mmφx88.2mm、重量:690g
付属品:角形金属フード、ゴム製フードキャップ、ねじ込み式金属レンズキャップ、リアキャップ
価格:95,000円(税別)
レンズは総金属製で、手に持つとずっしりとした密度感があります。タムロン90マクロとは異なって第一群レンズが鏡筒先端から奥まっていないので、レンズ全長はタムロン90マクロ(97mm)よりも短い、とてもコンパクトなレンズです。フォーカスはタムロン同様のフローティング方式による前群繰り出しで、等倍時にはレンズ全長がにょきっと伸びます。
本来このレンズにはねじ込み式の金属製フロントキャプが付属するのですが、私の購入した中古には付いていませんした。後述しますがフードは付けっぱなしにせざるを得ないので、レンズキャップを使うことは無いと思われ部品として買い足すことはしていません。実際の使用ではより実用的なゴム製のフードキャプも付属しています。
ピントリングの回転方向はEOSマウントの場合はEFレンズと同じです。ニコンマウントの回転方向がニッコールと同一(EFの逆)である事はコシナのサイト写真で確認出来ますので、各マウント共に純正と同一であると思います。
4 趣味性優先、実用性、操作性軽視
さて、ここからが実際に触った感想です。レンズが我が家にやってきて、まずは全ての操作をしてみました。ある程度は事前にネットで情報を仕入れてはいましたが、一言で言えば「趣味性優先」のレンズですね。デザインの為に使いやすさとか操作性が犠牲になっている部分が沢山あります。
まずフード。本体は結晶塗装の金属製で、角型で遮光効率がとても良さそうです。レンズとは金属バヨネット同士で結合されます。赤い点同士を合わせてから回転させて、正規の位置にフードが落ち着く瞬間にバヨネットスプリングが戻る金属の響きと共にロックされる。この感触はプラスチック鏡筒、プラスチックフードのレンズでは味わえないものです。しかしこのフード、レンズに逆付けできませんので、外したら荷物になります。正しい使い方はレンズに付けっぱなしにすることで、その為のゴム製フードキャップが付属していますが、残念ながらこのフードキャップが安っぽい。おまけに折角のコンパクトなレンズが大きなレンズに化けてしまいます。
またフード取り付け部開口径は通常のフィルターサイズギリギリで、偏光フィルターを装着するとフードは付けられなくなります。
次にピントリング。なんとほぼレンズ全体がピントリングなのです。レンズの脱着時には鏡筒を持ってレンズを回しますが、このレンズは握ったところがピントリングなのでレンズマウントではなくピントリングが回転してしまい、うまく脱着できません。レンズの握り方には工夫が必要で、一番簡単なのはフードを持って回すことですが、もしフードが外れたらと思うとちょっと不安ではあります。細かいことですがレンズ装着時の位置合わせ用の「赤い丸」はマウント裏面にしか記載されておらず、位置合わせしにくいです。
そしてピントリングの操作性。ピントリングには
2cm幅ぐらいのローレットが刻まれていますが、その位置が手前過ぎます。他の一眼レフ用フォクトレンダーレンズと共通のデザインの様ですが、薄型のカラーヘリアー75mm
F2.5 SLなら決まるデザイン&操作性も、等倍時には153mm(フードを入れると200mm)にもなる「長い」レンズの根元にピントリングのローレットがあるというのは構えた時にバランスが悪すぎます。ピントリングの絶対的な重さはMFに相応しい適度なものですが、ローレットの位置が悪いために実際以上に重く感じますし、ローレット部が金属の削りだしで先端がとがっており、素手で操作すると指先がちょっと痛く感じます。
ピントリングには撮影倍率表示がありません。代りにx2,
x3, x4の3箇所の露出倍数表示がありますが、あまり役には立たないでしょう。撮影倍率が分かれば露出倍数は簡単に計算できますから、細かい撮影倍率表示が欲しかったです。
ピントリングは無限遠から等倍まで1+3/4回転もします。これは好き好きでしょうが、私の持っている他のマクロレンズが全て1回転以内のものなので、操作には個人的に違和感を覚えます。単純な話、ピントリングを回す手が忙しすぎて、動く虫をこのレンズで追うのは困難を極めるでしょう。
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無限遠時と等倍時の違い。レンズはこのように伸びます。1/2倍の所で鏡筒に赤いラインが現れ、ピントリングが二周目に突入し、赤い距離目盛を読むことになります。
これだけ長いレンズでありながら、ローレットがほぼ根元の位置にありバランスが悪い事がわかるでしょう。手持ちの時には手もとが窮屈です。三脚に付けた場合も雲台部分にローレットが重なってしまうために、操作性はあまり良くありません。
無限遠時は距離目盛のあるくびれ部分からレンズ先端の黒い部分までがピントリングで、レンズ脱着時に回転してしまい苦労します。 |
(上)フード取り付け部の金属バヨネット。フィルターネジ部のフランジの厚味はこの様に薄く、偏光フィルターを装着するとフードは付けられません。
(下)ピントリングが約2回転するため、ピントリングには白字と赤字(1/2倍から等倍まで)の2種類の距離目盛が刻まれています。また黄色い文字で露出倍数が刻まれています。撮影倍率表示はありません。 |
5 絞り;この絞りでボケ味は大丈夫かな???
コシナのサイトにはどこにも円形絞りとは書いてありません。しかし幾つかの個人サイトや掲示板では円形絞りであるとの記述があったのと、見た目の質感に拘るフォクトレンダーブランドのボケ味までウリにしているレンズですから、当然円形絞りだろうと思っていました。しかし...
EOSマウントの私のマクロアポランターは、私の持っているレンズの中では最も汚い絞りを持つレンズの一つです。最初にちょっと断っておくと、必ずしも私のレンズの絞りが他のマウントの絞りと同一であるとは限りません。EOS用の場合は電磁絞りユニットが必須ですが、このメカニズムを専用で開発すると高くつきそうなので、コシナは他のレンズの絞りユニットを流用しているかも知れず、メカニカルな絞りを持つ他のマウントとは違う絞り形状のユニットが付いていることは大いに有り得ることです。
それで実際の絞りですが、F2.8からF4までは絞り込まれると開口部は9枚羽の手裏剣の様にギザギザな形になります。F4.5から先は絞り羽がまともに重なり通常の形になりますが、円形とは言い難いいびつな形です。これらの様子は点光源を相手に丸ボケを作って、プレビューをしても分かるものです。だから開放以外では使いたくないレンズですね。
しかし、開放でもこの絞り羽は絞り込まれます。概ね1mよりも近接撮影すると絞り込みが行われ、等倍ではかなり沢山絞られます。当然その時の絞り開口部の形状は手裏剣型です(^^;。フレアカットを狙った物なのか、電磁絞りの作動の都合なのか、何れにしてもマクロ域では如何なる絞りでも完全なる丸ボケは得られないレンズです(う〜(^^;)。
こと絞りに関する限りマクロアポランターは、旧EF100mm
F2.8 Macroのちょいと絞った時の手裏剣型開口を持つ絞りと、EF100mm F2.8 Macro
USMの1mよりも近接側でフレアカット絞りが作動し丸ボケが得られないという、両者の悪い面を兼ね備えています(^^;;;;
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絞りの開口部の状況。1〜7枚目はピントリングは無限遠の位置で開放からF5まで1/3段刻みで撮影。ご覧のようにF2.8からF3.5まではこの写真でもギザギザになることが分るでしょう。目視ではF4もわずかにギザギザでまともな形状になるのはF4.5からです。デジカメで撮影するのにストロボ光を入れる関係で斜めに撮影していますが、真正面から見ると絞りはこの写真以上に醜くギザギザな形をしています。
8、9枚目は絞り開放でピントリングを1/2倍(約48cm)と等倍(38cm)にしたときの様子。絞りはこの様に絞り込まれてフレアカットの役割を果す(?)。あるいは絞り作動メカニズムの都合かも知れません。お蔭で近接撮影時の丸ボケは美しくないです。 |
という様に、レンズを入手した初日から描写や操作性に悪い予感が走ったのですが、実際の描写が良ければ許せるかも知れません。さて実際の描写は.....?
続く
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