禁断のスーパープレシジョンマットEc-Sを使う
KENのつぶやき vol. 252
(2006.7.8)
一部の方々にとって「EOSの歴史はファインダーの見え味との格闘の歴史」とも言えましょう。AF時代になってファインダーでのピントの山の掴みやすさ、ボケの把握などは概ねどのメーカーの機種でもやり難くなりましたが、EOS-1シリーズや3のファインダーは他社のAFフラッグシップ機と比べても見え味が悪い、というのが定説。それで非純正のタルベルグ・スクリーンや、改造をしてミノルタのM型スクリーン、ニコンのスクリーンなどを装着する人達も少なからず居られました。
私もニューレーザーマットスクリーンを使っている頃はピントの山の分かりにくさ、ボケの見え方が出来上がりよりも小さく差があり過ぎる事への不満がありましたが、EOS3にEOS-1シリーズ用のレーザーマットスクリーン(方眼マット)を用いるようになってからは大きな不満も無く過ごしています。またピントのシビアなMFマクロ撮影主体の私にとって、非純正スクリーン装着はピント精度、露出精度に懸念があり手を出さずにいました。
しかし、プラナー85mm F1.4 MMJを入手してこれを使いこなす為にファインダースクリーンによる露出の暴れをテストし、暴れの原理をある程度理解したらキヤノン純正のスーパープレシジョンマットEc-Sを使ってみたくなりました。ミノルタM型スクリーンなどとは違い、このスペシャルスクリーンの値段は他のスクリーンと同じ2600円+税で高いものではありません。スクリーン特性カスタムファンクションに対応しているEOS-1D
Mark II N専用ですが、形状は他のEcシリーズと同じなので、当然1D Mark II N以外の1Dシリーズ,
1N, 1V, 1, 3にも装着可能でピント精度の不安もありません。問題は露出の暴れだけです。
それで早速スーパープレシジョンマットスクリーンEc-Sを入手し、EOS3に装着してテストしました。
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スーパープレシジョンマット・スクリーンEc-Sとその装着光景。純正スクリーンなので交換は1分も掛かりません。 |
露出テスト
早速、つぶやき247、248と同じ方法で露出テストをしました(テスト方法詳細とテスト風景はつぶやき247を御覧下さい)。念の為に概略を書いておけば、私の部屋の均質に照明された白い壁を評価測光で測定しています。画面内は真白なので測光モードによらず露出値が同じになる事はテスト済みです。測定値はシャッタースピードで、ファインダー表示どおりの逆数表示で書いてあります。0.3秒よりも遅いシャッタースピードでは「"」を付けて秒数表示であることを示しています。二つの数値を併記しているのはシャッタースピードが二つの数値の間で点滅した場合で、測光値が二つのシャッタースピードの丁度中間付近にあることを示しています。1/3段(0.33EV)系列カメラでの中間測光値(0.17EV)なので、シャッタースピード点滅の測光値は、しない場合に対して0.2EVズレている扱いにしました。
露出テストのリファレンス(基準)はレーザーマットスクリーン、カスタムファンクションCF0が1(レーザーマット用)、レンズはEF50mm
F1.4 USMです。露出の暴れは測光時のレンズの絞り値(EF電子接点のあるレンズの場合は常に開放絞り)で決まる事が分っていますので、EF50mm
F1.4 USMに加えて、プラナー85mm F1.4 MMJ(実絞り測光になるので絞り値を変えながら測光出来ます)、異なる開放値を持つEFマウントレンズを用いて、レーザーマット、スーパープレシジョンマットでの露出値を測定しました。なおスーパープレシジョンマット使用時のカスタムファンクションCF0は1(レーザーマット用)にしています。スーパープレシジョンマットと正反対の性格を持ち露出が暴れるニューレーザーマット用にする意味はありませんからね。
上記がテスト結果です。赤い数値はリファレンスに対する露出のズレ量を示しています。一方の青い数値は、同一レンズ同一条件におけるレーザーマットとスーパープレシジョンマットの露出差を表しています。
まずEF50mm F1.4 USMの結果ですが、スーパープレシジョンマットの場合は0.2EVのオーバーになりました。他の絞りの測定値も、実は開放F1.4で測光した値をカメラが電気的に換算しているだけなので、0.2EVオーバーで一貫しています。
次にプラナー85mm F1.4 MMJの測定結果の赤い数値(露出ズレの絶対値)の方ですが、F1.4,
F2で大きくオーバーに振れるのはミラーのケラレによるもので、つぶやき247、248の結果と一貫しています。F2.8よりも暗い絞りでスーパープレシジョンマットは0.3〜0.5EV程のオーバーになりましたが、比較的安定していますね。一方青い数値の方ですが、
F1.4でEF50mm F1.4の場合と同じ0.2EVオーバーになる以外は、0.3〜0.5EVのオーバーになっています。
EF電子接点を持つ色々なレンズで試したところ、F1.4で0.2EVオーバー、それ以外ではやはり0.3〜0.5EVのオーバーという結果になりました。
上記は黄色い数値をグラフ化したものですが、スーパープレシジョンマットの方がグラフが上になり、露出がオーバーに振れる事を示しています。これは露出センサーにとってスクリーンが暗い事を意味していますが、肉眼でも画然と暗いです
今度は青い数値をグラフ化してみました。これを見ると、F1.4の時を除けばレンズに依らず、スーパープレシジョンマットはレーザーマットに対して0.3〜0.5EVオーバーで安定している事が分ります。素通しガラスにより近いニューレーザーマットの場合は測光時の絞り値によって露出が暴れましたが、拡散性の高いスーパープレシジョンマットの場合は、暗さ故に露出がオーバーに振れるものの、暴れは殆ど無いと言えるでしょう。
結論
このスクリーンを装着出来るカメラは全て1/3段制御(カスタムファンクションで1/2段制御)なので、結論としてスクリーン特性カスタムファンクションをレーザーマット用にセットし、マイナス0.3EVの露出補正かISO感度補正(1/2段制御の場合はマイナス0.5EV補正)をすれば、露出の不安なくスーパープレシジョンマットスクリーンを使う事が出来ます。またマクロレンズの近接撮影時には露出倍数が掛かり、実効F値が暗くなりますが、テストしたところどの撮影倍率でも露出のズレは安定していました。従って上記の露出補正でマクロ撮影でも心配要りません。
スクリーンの見え味については、EOS 1D Mark II
N やEOS 5Dでのテスト記事がネット上に沢山ありますのでそちらを参照戴きたいのですが、謳い文句どおりピントの山の掴みやすさ、ボケの大きさはレーザーマット・スクリーンと比べてもかなり違い、ニューレーザーマットと比較すると天国と地獄の違いを感じます。但しこちらも謳い文句どおりファインダーは画然と暗くなり(体感的には1〜2段ぐらい暗い感じ)、F2.8よりも暗いレンズで室内の明るさとなると辛いものがあります。ただピントの山は分かりやすいので頑張れば使えなくは無いです。
EOS1系、EOS3をお使いの方で、現在のスクリーンの見え味に不満がある方はスーパープレシジョンマットEc-Sを試されては如何でしょう。特に多少の露出のズレに寛容なデジタル(EOS-1D,
1D Mark II, 1Ds, 1Ds Mark II)なら迷う理由は無いと思います。
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