つぶやきvol.113-114で、優れた充電電池としてニッケル水素電池の事を書きましたが、より優れた充電電池としてリチウムイオン電池があります。ニッケル水素電池と比べると三長一短ぐらいの違いがあり、性能面では誠に優れているのですが、現時点で「この電池を使う機材」は極く一部の例外を除いてお勧めする気になりません。(例外の代表例はNikon
COOLPIX5000、その理由は後ほど。)何故なら、長期間の使用に対してリスクがあるからです。
まず最初に、如何にリチウムイオン電池が優れているかまとめてみましょう。
1.大容量(同じ容量なら軽量コンパクト)である。
ニッケル水素電池に対して、リチウムイオン電池のエネルギー密度は、重量ベースで2倍、体積ベースで1.5〜2倍あります。だから同じ重さ、同じ大きさなら1.5〜2倍の容量が得られます。
2.メモリー効果が無い!
ニッケル水素電池、ニッカド電池の最大の欠点であるメモリー効果がありません。だからいつでも継ぎ足し充電が可能です。出かける前にまず充電、という癖を付けておけばその日の使用中に電池切れになる事を殆ど無くす事が出来ます。
3.自己放電が少ない。
非充電式電池ほどでは無いにせよ、自己放電が少なくなっています。メーカーはニッケル水素電池の1/5以下と主張しています。
4.電池の残量を正確に把握しやすい。
ニッケル水素/ニッカド電池は殆どフラットな放電特性を持っていますが、それに比べるとなだらかに電圧低下する特性を持っています。従って電池残量が正確に把握できます。ソニーのビデオカメラがこの特長を活かして、電池残量を分単位で表示する「インフォリチウム」システムを採用している事を御存知の人は多いでしょう。またアルカリ電池の様な急激に電圧低下する特性とも異なる為、デジタルカメラでも電池容量を無駄なく使いきれます。
と、このように大きな利点があります。特にメモリー効果が無い事は理想の充電電池の条件でしょう。しかし、欠点ももちろんあります。後半の話とのつながり上、小さな欠点から大きな欠点へ列記してみます。
5.過充電、過放電に弱い。
これはニッケル水素にもある弱点であり、現在のリチウムイオン充電器は過充電防止にに対応していますので問題ではありません。取り敢えず知っておいてください。
6.大電流放電にはあまり向いていない。
ニッケル水素やニッカドに比べると内部抵抗が高く大電流放電には向いていないようです。しかしアルカリよりは優れており、カメラ機材、デジタルカメラレベルの電流要求には応えられるので問題ではありません。
※一瞬の瞬発力が物を言うミニ四駆の世界ではニッケル水素すら差し置いて、大電流特性に最も優れたニッカド電池が主流の様です。
7.低温性能がリチウム電池(非充電式)/ニッカド電池/ニッケル水素電池よりも劣る
これも大きな欠点とは言えませんが、知っておいた方が良いことです。低温性能が劣るとは言っても、アルカリよりは数段強いです。ニッケル水素と比べれば劣りはしますが大同小異ですので実用上の弊害は少ないでしょう。ただリチウムイオン電池を使う機材は極く一部の例外を除いて他の電池(極低温に強いリチウム電池、ニッカド電池など)が使えませんので、厳寒時に使う方は避けた方が無難でしょう。
リチウム電池(非充電式)が低温性能に優れるために、リチウムイオン電池も優れているかの様な誤解があるようですが、リチウム電池とリチウムイオン電池は全くの別物です。
8.現在ある電池はすべて専用タイプで、高価である。また互換性が無い為に専用電池のメーカー供給が無くなると機材一式が使えなくなる。
エルカセット、ベータビデオ、メモリースティックなどを生み出したソニーが開発した技術だけあって、性能重視実用性軽視で、互換性とか規格統一とかが無視されています。リチウムイオン電池を用いる機材を買って、予備電池を買おうとすると、電池だけで10000円以上する事が珍しくありません。しかも専用電池はその機種(または電池互換性のある他機種)が製造中止になった時点で、販売中止になり買うことが出来なくなる事が多いものです。
その機種が製造中止になっても、しばらくは修理扱いなら電池の入手が可能ですが、本体を修理に出す事が一般的には必要であり(以前、別件でソニーに販売中止になった消耗品<メインテナンスキット>を要求したら、本体ごとサービスセンターに修理に出すことを求められました)、電池代(割引無し)に加えて、送料、修理技術費(これって腹立たしいほど高いですよ)が請求され法外な値段の電池になる事があります。それにある期間を経過すると(例えば家電製品なら旧通産省の指導で、補修部品保持期間を製品により6年ないし8年と定められていますが、カメラにはその指導が無いようなのでもっと短いかも知れません)、修理扱いでも完全に入手不能になるのです。だから電池の寿命が来た頃にはもう電池は入手できず、機材の機械寿命がまだ残っていても使用不能になりえます。(500回充放電可能な電池の寿命が何年後に来るか考えてみてください)。
※この話はリチウムイオン電池に限りません。汎用ではない、専用設計の消耗品を必要とする機材はその部品供給が止まった時点で使用不能になります。そしてその部品がいつまで供給されるかは、メーカー側の経済的な都合と善意のバランスだけで決定されます。
コストをかけて設計すれば長持する機械を設計できます。コストをかけて長期補修体制を敷けばユーザーはその製品を長く愛用出来ます。しかし、コストを無暗にかけることは企業にとって望ましいことではありませんので、メーカーは自ずと妥協点を探すようになります。例えば個々の部品の耐久性設計を7〜8年とし、補修部品供給を家電製品に対する旧通産省の指導並の6年で止めるとすれば、それはメーカーにとって製品製造コスト、補修部品製造&在庫コストのかからない、会社の利益になる方程式になります。何故なら製品コストを抑えた上で、設計基準外の故障を除けばそのメーカーは一切の補修をする必要が無くなりますから。全てのメーカーを性悪説で捉える事は良くありませんが、消費者として自己防衛したほうが賢明です。そのメーカーの対応方針を探るには製造中止から10年ぐらい経った「プロ用ではない」機械を修理に出すと分かります。門前払いか、メーカーとして手作りでも一生懸命修理しようとするか....前者のメーカーとは付き合わない方が賢明な消費者と言えないでしょうか?
消耗品を汎用品ではなく専用品とすればメーカーは儲かります。汎用品にはメーカー/販売店双方での熾烈は販売競争、価格引き下げ競争がありますが、専用品にはそれがありません。また価格相場も無いので、価格は自由につけ放題です。加えて、汎用品だとそのメーカー以外の部品が使われる事がありますが(つまり自社の売上にならない)、専用品なら必ず自社売上/利益につながります。
例えばEOS1Dのニッケル水素パックは12V
1600mAhで16000円です。その専用充電器は36000円します。これと同じ性能を汎用品で購入しようとすれば、1.2V
1600mAhの単三ニッケル水素電池10本でOKです。実売価格は約4000円。充電器は4本用で約3000円です。10本用というのは見かけた経験がありませんが、あっても5000円ぐらいでは無いでしょうか(4本用を3つ買えば10本同時急速充電出来ますので、いずれにしても9000円以上の価値はないです)。キャノンの専用充電器には放電機能という付加価値があるにせよ、同等性能の汎用品とは価格が違いすぎる(つまりはメーカーが厚い利益を得ている)のが分かると思います。キャノンを例に出しましたが、これはキャノンに限った話ではありません。もう一つ例に出せば、コードレス電話の内臓電池は単三ニッカド2本をビニールで束ねて専用端子をつけた物ですが、2000円程度で売られています。汎用単三ニッカド2本セットは500〜600円です。
だからメーカーには消耗品を専用設計にして儲けようとする本能があります。その様な本能の強いメーカーは、消耗部品売上で儲からなくなった時点でさっさとその部品を製造中止にする本能も強いと言っても間違いにはならないでしょう。最後に泣くのは、機材を長く愛用したいという善意に満ちたあなたです。
さて、消費者の立場から見てリチウムイオン電池の将来はどうあるべきでしょうか。私はリチウムイオン電池の規格を統一して、乾電池のように汎用性/互換性を持たせるべきだと思います。この規格統一/汎用化の方向には二種類あると思います。
その第一は乾電池の様に適切なサイズを決めて統一規格とすること。容量に応じて数種類設定すれば良いでしょう。ただ、一般の乾電池とは電圧が違いますので、誤挿入を避ける為にサイズは変更する必要があります。
第二の方向は乾電池とも互換性を確保する事です。リチウムイオン電池の定格電圧は3.6Vで、ニッケル水素電池、ニッカド電池の丁度3倍です。メーカーの発表している放電特性カーブを見ても、放電開始電圧4.2V、放電安定電圧3.6V前後,放電終止電圧3.0〜2.7Vとニッケル水素電池の丁度3倍なのです。だから、リチウムイオン電池のサイズを例えば単三電池三本束ねたサイズとすれば、乾電池とも互換性が生まれます。
この電圧の互換性については実例があります。ニコンのCOOLPIX5000は、専用のリチウムイオン電池パック(出力電圧7.2V〜電池セル二つ分)に加えて、単三ニッケル水素電池6本でも駆動可能になっています。また世の中にはアダプターを自作して、リチウムイオン電池で動くデジタルカメラ(EOSーD30など)を、ニッケル水素電池6本で使っている方もいらっしゃいます。
この様な規格統一/汎用化をして、ニッケル水素乾電池と同様に、リチウムイオン充電器と汎用電池を市販すれば、充電電池として理想的な特性をもつリチウムイオン電池は、恐らく次世代の主流になるでしょう。
これぐらいの事はメーカー側でも考えているとは思いますが、何故かまだ実現していません。電池の汎用化と汎用充電器による性能/安全性確保に技術的な問題でもあるのでしょうか?あるいは利益優先で汎用化を止めているのでしょうか?ソニーや松下やマクセルのリチウムイオン電池カタログを見ると、実は汎用リチウムイオン電池が様々なサイズで既に存在しています。しかしそれらは市販用ではなく他メーカーに対する業販用です。他メーカーはこれらの電池を使って「専用パック」や「内臓電池」を作っているのです。この様に既に土台はあるので、メーカーサイドに善意があればリチウムイオン電池の汎用化は時間の問題だと思います。
※参考情報;三洋電気は2001年8月に二酸化マンガンリチウム電池CR3Vを発表しました。これは非充電式電池ですが、出力3Vで、単三電池2本と同じ大きさに作ってあります。単三2本を使う機材には互換性があり、マイナス40度で使える極低温性能を売り物にしています。この様に電圧が合えば既存の乾電池との互換性を確保するのは善意と商魂あるメーカーなら当然の事でしょう。
もしリチウムイオン電池の汎用化が進めば、一斉に商品側も汎用電池対応となり、現在の専用電池を要求する商品は電池寿命と共に使えなくなる事が予想されますので要注意です。
リチウムイオン電池で動く機材を購入して「長く」使いたい人は、ここに書いた事を良く熟慮してみてください。しかし1〜2年で買い換えて行く人は全く気にする必要はありません。
最後に蛇足。リチウムイオン電池ほどには優れてはいないニッケル水素電池を用いて、専用バッテリーパックを要求するEOSのフラッグシップデジタルカメラも、ちょっと怖い商品だと思います。キャノンはどんどん規格を変えて行くメーカーで、取り残されたユーザーは苦渋を味わう恐れがあります。EOS1D用のニッケル水素パックは発売したてのEOS1Vなどに用いるニッケル水素パックとは異なるのですよ!それにご存知でしょうか?EOS1NベースのデジタルカメラDCS−1,DCS−3が現行機種とは互換性の無い専用のニッケル水素パックを、それ以前のD2000、D6000がやはり互換性の無い専用のニッカドパックを用いていた事を。カメラ本体が製造中止になっているこれらの専用バッテリーパックはいつまで入手できるのでしょうね。当時本体だけで198万円〜360万円もしたフラッグシップカメラが数年で使えなくなるかも知れません。
蛇足その2。コンタックスNデジタルが発表になりましたね。35mmフルサイズCCDを採用して、電源は単三ニッケル水素電池4本!価格とマウント形式以外はKENにとって理想的なスペックです! |