前回つぶやきからの続きです。
今回はネイチャー写真撮影に於けるSIGMA AF170-500mm
F5-6.3の使いこなしについて色々と書いてみましょう。前回の冒頭でも言いましたが、リバーサルフィルムで風景などを撮る場合、このレンズの持てる能力をきっちり引き出すのは簡単ではありません。安価なレンズ故にあまりに安易に取り扱われて、結果として不満足な画像しか得られていないかと危惧します。
4 画質
このレンズを他の超望遠レンズと比較して酷評するのは簡単です。廉価ズームレンズですから、キャノンの単焦点白レンズや、それに相当するニッコールやミノルタの超望遠レンズに性能で匹敵する筈が有りません。実売価格で10倍も違うし、敵はメーカーの威信をかけて作った単焦点レンズなのです。また逆光時のフレアやゴーストなども目立ちます。しかしこのレンズは注意深く使うと欠点も目立たなくなり思わぬ性能を見せるレンズです。
画像のシャープさは白レンズには敵いませんが、少なくともEF75-300mm
F4-5.6 USMやEF100-300mm F4.5-5.6 USMぐらいのレンズと比較するのであれば、このレンズの方が全焦点距離で性能は上です。300mm付近の撮影ならば前述の廉価ズームは勿論、定評ある70-200mm
F2.8にx1.4テレコンを装着した物よりも上だと思います。焦点距離別では170mm側の方がシャープさは上で、500mm側は多少シャープさに劣りますが、後述する方法できっちり性能を引き出せば余程の大伸ばしをしない限り500mmでも不満は少ないと思います。この辺はSLDガラスを三枚、それも径の大きな前群に二枚も用いた効果が出ていると思います。
5 使いこなし、その1;ブレ対策
このレンズを使う上で最も気を遣うのが、ブレ対策です。中古で三万円台、新品でも五万円台で買えてしまうレンズなので、恐らく99%の人が新品五万円台のレンズの扱いしかしないでしょう。それが全ての間違いの素です。500mmレンズは数万円でも数十万円でも500mmに変わりありません。数十万円のレンズと同等以上の気遣いが必要です。
『頑丈な三脚を使う』
まず手持ち撮影や一脚撮影などは考えないでください。後述しますが絞りはF11以上を推奨しますので、リバーサル(ISO50〜100)でのシャッタースピードは日中でも遅くなり、頑丈な三脚以外での撮影は論外です。微妙なブレによる眠い画像しか得られないでしょう(この点において、実用絞り値の明るい数十万円のレンズよりも使いこなしが難しいのです)。三脚ですが、出来るだけ頑丈な物を使ってください。私はこのレンズで3種類の三脚を使ったことがあります。マンフロット190+141(重量2.6kg)や055+141(3.6kg)では少し力不足です。出来ればスリック・ザ・プロフェッショナル(6.3kg)級の三脚が欲しいところです。しかしこのレンズでザ・プロフェッショナルの様な超大型三脚を使う人は私ぐらいでしょうから、他のブレ対策を総動員してブレを可能な限り抑止してください。
『クイックシューは外す』
私はベルボンの大型マグネシウムクイックシューを用いていますが、このレンズを用いる時には大型の物であってもクイックシューを外す様にしています。クイックシューの持つ僅かな弾性が、500mm界隈の撮影ではブレを大きくするからです。雲台にはクイックシューの付いていない物を用いて、三脚座を直接留める様にしてください。
『ミラーアップを使う』
このレンズでの撮影にはミラーアップが欠かせません。三脚座の有るレンズは重量バランス上三脚座を使わないと不安定になりますが、ブレに関しては三脚座はブレ易いのだという事を御存知でしょうか。クイックリターンミラーを持つ35mm一眼レフは大きな振動源で、最もブレ易いカメラの一つです。三脚座の有るレンズを用いた場合、やじろべえの先端部分に振動源を付ける形になり、ミラーのショックを直接受け止める物がありません。だからザ・プロフェッショナル級の三脚を用いたとしてもブレる事があります。やじろべえの中心を叩いても殆どブレませんが、両端のおもりの片方を叩くと大きく揺れますよね。そういう原理です。ミラーアップはブレを抑制する特効薬です。どうしてもミラーアップが使えないなら、カメラ底部を一脚で保持する様な工夫が必要でしょう。
『ケーブルレリーズ(リモートケーブル)を使う』
ミラーアップを用いるなら、リモートケーブルも必須です。さもないとシャッターを押す手の動きでブレてしまいます。
『シャッター速度を選ぶ』
出来るだけ速いシャッター速度を選ぶのは常識ですが、ベルビアでF11まで絞って朝焼け、夕映えを撮ると1/20秒以下の速度になる事もあります。ならば逆にもっと絞り込んで、超スローシャッターにしてしまう、という事も念頭に置いておきましょう。ブレの振動時間は0.5秒ぐらいなので、2秒以上のシャッター速度だと逆にブレが目立たなくなります。
『ある程度連写出来る状況なら』
ブレに対して神経質とも言える対策を挙げましたが、ある程度連写したい状況でシャッター速度が1/125秒以上確保出来るなら、頑丈な三脚に添えた上で、右手でカメラ、左手でレンズを押さえつけて撮影する方が良いかも知れません。
一番良くない撮影方法は、ミラーアップを使わずにケーブルレリーズだけを使ってカメラには触れずに連写することです。連続するミラーショックがやじろべえ状態のレンズの振動を増幅させて、ほぼ全てのコマをブレブレにしてしまうでしょう。連写が必要な状況では振動を体の一部で吸収する方が歩留まりが良くなります。
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このレンズで日没を狙う。この日は雨上がりで、空の状態は今一つ。三脚はもちろん、スリック・ザ・プロフェッショナル。超望遠、大判カメラ用に作られた超大型三脚で、全高2m、重さ6.3kg。このレンズの焦点距離にはこれぐらいが相応しいのです。 |
6 使いこなし、その2;フレア&ゴースト対策
レンズ枚数の多いズームレンズはどうしても逆光でフレアやゴーストが出やすくなります。オマケに定評有る(?)シグマの廉価ズームですから、その傾向はとても強いです。しかし他のシグマレンズとは違って、このレンズは注意深く使用すると、それらがかなり抑制出来ます。
もし順光で使うのであれば、これから述べることは余り気にせずともコントラストの高い撮影が可能です。勿論、フードは常に付けておいてください。この節では逆光撮影の心得について述べます。
『焦点距離300mm以上を使う』
日の出、日没などの太陽が画面内、あるいは画面外のすぐ脇に有るような場合、ファインダーには盛大なゴーストが見えると思います。このゴーストはズーミングすると形が変わります。170mmから250mmぐらいまでははっきりとした形を持ったゴーストですが、250mmを越えた辺りからゴーストが画面全体に広がって、形が無くなって行きます。見え方だけならゴーストと言うよりもフレアという感じになります。このフレアは次に述べる工夫で抑止出来ますので、まず焦点距離を300mmぐらいから500mmに限定して使うと、太陽が画面内に有る写真でもゴーストの目立たない撮影が可能です。
『絞りは開放から二段以上絞る(F11以上)』
300mmから500mmの間に焦点距離をセットして、例えば太陽を画面の左上に配置して構図を作ると、画面の右下半分に盛大なフレアが発生します。次にプレビューボタンを押しながら絞り込むと、どんどんこのフレアは無くなって行き、F11でほぼ目立たなくなります。従って焦点距離を選び、かつ絞りをF11以上(出来ればF16)にセットすると、太陽が画面内にあってもかなりコントラストのある、ゴースト&フレアの殆ど目立たない撮影が出来ます。私の日の出、日没撮影はこの様にして撮影しています。
F11まで絞ることにより、解像度的な画質もかなり改善されます。従ってブレが完璧に抑止できれば、廉価レンズとは思えない写真に巡り会うことが出来ますよ。そしてそれは紛れのない500mmの世界なのです。
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ブレを防ぎ、絞りをF11以上に、焦点距離を300mm以上にすれば逆光は怖くないです(笑)。
EOS3, Sigma 170-500mm F5-6.3 (500mm), F11,
AE(-0.7EV, 1/60sec.), E100VS |
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太陽のアップを撮っているときに、飛行機が...
構図を一瞬で変えられる事がズームレンズの良いところ。焦点距離が短かったので、ゴーストには注意して撮影。
EOS3, Sigma 170-500mm F5-6.3 (170mm), F8,
AE(-0.7EV, 1/160sec.), RVP |
まだまだ使いこなしの注意点は沢山あります。次回のつぶやきへの続きとしましょう。
続く
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