前回つぶやきからの続きです。前回分をまだ読まれていない方は、先にそちらをお読みください。
7 使いこなし、その3;ピント対策
ブレを抑止し、フレア&ゴーストを抑止しても、ピンボケでは良い映像は得られません。このレンズで良いピントを得る為にはAFを過信せずに、MFで自分の目でしっかりとピントを合わせてください。超望遠ですから被写界深度は非常に浅く、1km先でも無限遠ではありません。私もAFをよく使いますが、カメラのはじき出すピント位置はこれだけの長焦点だとイマイチ不安な物になっています。MFピント合わせの為には出来るだけ良質なファインダーを持ったカメラが良いです。私はEOS3のファインダースクリーンをよりピントの山を掴みやすいEOSー1N用のEcーD(方眼マット)に交換しています。
またこのレンズはズーミングによる焦点移動がかなり大きいので、望遠側で合わせて、短焦点側にズームするというテクニックは使えません。必ず欲しい画角を先に選んでからピント合わせをしてください。
8 使いこなし、その4;ボケを活かした撮影
このレンズは長焦点側の開放付近で使うと、廉価ズームレンズとは思えないほどボケ味が良いです。厳密に言えばボケの品質そのものはさほど良くないのかも知れませんが、非常に浅い被写界深度の為に前景、背景が一気にボケて欠点が出にくいのかも知れません。今まで沢山の写真を撮りましたが、気になるような二線ボケとか、酷くざらついた感じの背景を見た記憶がありません。このあたりはレフレックスの500mm/600mmレンズには真似できない所です。
500mmという焦点距離で、遠くに有る物体をきれいなボケで浮かび上がらせる撮影方法は、遠方マクロ撮法とでも言いたいような面白い感覚の物です。しかし上手く撮る為のコツがあります。今まで述べたことの裏返しになりますが、開放で使う方が良いので、レンズに直射日光が入射するような強い逆光はタブーです。フレアでコントラストが低下します。斜光から半逆光ぐらいの光線状態が良いでしょう。
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遠方マクロ撮法・その1。500mm開放。
わずかにボケた葉の感じはなかなかだと思います。単焦点でももっと醜いボケを出すレンズはあります。 |
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遠方マクロ撮法・その2。400mm開放。
400mmだとわずかに二線ボケ傾向かも知れません。左後方の葉の形がわずかに二線ボケになっています。でもあまり気になりません。同じシグマのAF70-200mm
F2.8EXのボケはこれに比べると遥かに醜いです。 |
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遠方マクロ撮法・その3。再び500mm開放。
すぐ後方にある紅葉の葉が完全にボケて形がありません。極めて浅い被写界深度により背景処理は簡単です。 |
9 テレコンバーター
このレンズで使えるテレコンバーターは、正式にはケンコー製とタムロン製の物だけです。シグマ製やカメラメーカー純正のテレコンはレンズ先端が突出しているために、レンズ後群が奥まっていないこのレンズでは使うことが出来ません。
しかし、ケンコー製は事実上使い物になりません。私はケンコーのx1.5テレプラスを持っていますが、このレンズに用いると、四隅がけられたように黒く落ち込みます。
そこで裏技を使って、私はシグマのx1.4EXテレコンバーターを用いて700mm撮影を楽しんでいます。その方法はつぶやき92をご覧下さい。シグマのテレコンなら四隅の落込みも無く、ズーム+テレコンとしては満足出来る画質で撮影できます(勿論、単焦点で撮ったようなシャープさはありませんよ。念の為)。逆光撮影なら、マスターレンズの絞りをF11以上に絞ることも忘れずに。マスターレンズの焦点距離は500mm付近のみしか使わない方が良いです(ゴースト抑止だけではなく、レンズ損傷を防ぐためにも)。
テレコンを使うと、焦点距離が700mm(または1000mm)と伸びる事に加えて、三脚座を中心とした前後重量バランスが改善してしまうので、却ってミラーショックによりブレ易くなります(完全にバランスしたやじろべえは小さな力で動かせる、という原理です)。ブレ対策には細心の上にも細心な注意を払ってください。
10 SIGMA AF APO 50-500mm F4-6.3
EX HSMとの比較
新しく出た超望遠10倍ズームが気になる方もおられるでしょう。こちらは超音波モーターを内蔵し、フルタイムマニュアルフォーカスが可能になり、ピントリングもそれに相応しく幅広の物がついています。また純正テレコンバーターにも正式に対応しています。ズームの自重落下を防ぐロックが付き(但しこれは50mmで固定するもので、このロックを外さないとズーミングは出来ません)、フードは50mmに対応すべく花形フードになっています。全長同志の比較は新しいレンズが216mmで、170-500mmの229.5mmよりも13mmほど短くなっています(カタログ値)。
一方で新型レンズは太いずんどう型の鏡筒を持ち、オマケに大口径超望遠レンズ群(サンニッパ、ゴーヨンゴ、ハチゴーロクとか)と同じ運搬時にはグリップにもなる超大型三脚座がついていて、取り外しできません。もはやカメラバッグに収まる大きさでは無くなっています。重量は580gも重い1900g(HSMタイプのカタログ値)です。170-500mmレンズの方は「非球面レンズの採用により歪曲収差を1%以下に削減」とありますが、50-500mmの方には非球面レンズの採用は無く、この記載もありません。価格はほぼ倍額の162000円(定価)で、中古でも170-500mmのほぼ倍額します。
ここで冷静に考えるべき事は、170-500mmでカバーできない170mm未満の焦点距離をどの様に対応するか?という事です。170-500mmと50-500mmの価格差で、各カメラメーカー純正の開放値がF4〜F5.6の70-200mmズームを購入してもお釣りが来ますし、キャノンユーザーの場合は上手くすれば、アメリカでは70-200ズームとして世界最高画質の誉れ高い中古のEF70-200mm
F4Lに手が届くかも知れません。また重量的にも170-500mmズーム+200mmズームの方が軽いケースが多い筈。カメラバッグの中も間違いなく200mmズームを別に買った方がスッキリ収まります。それ以前にこのレンズを買われようと思っている方は、既に200mmまたは300mmまでのズームレンズを持たれている筈ですよね。
そして何よりも3倍ズームと10倍ズーム、画質を比較する方が無茶という物です(どちらの画質が安定しているかは言うまでも有りません)。特に50-100mm域は描写が少々甘いようです。私個人の感覚では、1.9kgもある描写の甘い50mmF4レンズを使う情景が思いつきません。
それに、新しい50-500mmズームがここで述べたようなフレア&ゴースト抑制テクニックが使えるかどうか、分かりません(レンズ構成が全く違うので、多分使えないでしょう)。
レンズ交換している暇のない被写体を写す人や、超望遠時のAFスピードを気にする人なら価値が有るかも知れません。冒頭で述べた運動会などは当てはまるかも知れませんね。しかし風景撮影などなら無理して10倍ズームを使わずとも、軽くて、安くて、設計的にも無理のない3倍ズームで良いのではないでしょうか?
SIGMA AF170-500mm F5-6.3というレンズは、以前つぶやきに取り上げた同じシグマのAF14mm
F3.5に似ていると思います。この焦点距離をカバーするレンズの中で飛び抜けて廉価で、サラリーマンにも手が届きますが、一方で安いなりの欠点もあります。その欠点を緻密なテクニックでカバーして行けば、その数倍以上の価格のレンズを見返すことも不可能ではありません。必要なのはイマジネーション。写真は機材の優劣ではなく、機材の能力を活かしてイマジネーションで撮るものです。 |