吉舎の彼岸花群生地を2002年、2003年と二年連続で撮影して、私なりの発見や反省、基本みたいな物を掴んだので、私自身の備忘録を兼ねてここにまとめておこうと思います。彼岸花の撮影とは言っても、一輪や一群の花の撮影と、吉舎のような赤い絨毯の様に密生する彼岸花では撮影の方法も露出のあり方も異なります。今回掲載するのは群生地の撮影方法ですので、その点はご注意を。
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1. 光の選択
写真撮影に際してどの様な機材、フィルム、光線状態、露出、構図を選ぶかは「何をどう撮りたいか」によって変わり、正解という物は有りません。私が吉舎の群生地で目指した写真は「深みとコクのある赤に再現された彼岸花」です。今回のつぶやきでは光線状態、フィルム、露出について詳しく語りますが、全ての基準は「深みとコクのある赤に再現された彼岸花の写真」ですから、これを念頭に置いて読んでください。
まず光線状態ですが、曇り空の様なフラットな光線状態と、晴天で直射日光が降り注ぐ光線状態のどちらが私の意図に合うか?という二者択一の問題です。下の写真をご覧いただければ判るように、この光線状態の違いで、写真の性格のみならず、花の色そのものが大きく変わってしまいます。
私はフラットな光線状態の方が彼岸花の発色は遥かに綺麗だと思います。彼岸花の表面は光を良く反射するために、直射日光があたるとコントラストがきつくなり、彼岸花の細かい造形の描写が失われて行きます。そして花の色は深みにかけるオレンジになってしまいます。偏光フィルターを用いる事と、露出を切り詰める事で赤味を増すことは出来ますが、フラットな光線状態の発色と、細部描写の美しさを見てしまうと、積極的に直射日光下で撮影する理由を見つけられません。
しかし吉舎に来られていたカメラマンは、私とは正反対の考えをお持ちの方が大半の様です。私は夜明け前から長時間露出でどんどん撮影して行くのですが、多くの人はカメラをセットした後で、撮影することなくひたすら太陽が顔を出すのを待っているのです。吉舎は霧の名所「三次盆地」に隣接しているので、彼岸花の季節の晴れた日の朝には90%霧が発生します。地表に霧は無くとも上空にはあるので、太陽が顔を出すのは日の出後2〜3時間経った8〜9時ごろです。その頃まで殆ど撮影することも無く、友人同志で「今日はダメかな?」と談笑しながら太陽を待っている人達ばかりで、その中で休むことなく撮影を続けて、フィルム交換を繰り返しているKENの姿は、周りからは奇異に見えていたかも知れません。その内に多くの人が「今日はハズレだったなぁ」と機材を片づけて帰って行きました。
また夕方に群生地を訪れた際には、日没前の斜光線の写真を撮り終えて、太陽が山陰に消えてから「さあ本番だ!」とばかりにトヨフィールドを持ち出したら、隣にいたカメラマンから「こんな状態で色が出ますか?」と質問されてしまいました。私は質問の意味が一瞬判りませんでしたが、恐らくその人は太陽が無ければカラーフィルムに鮮やかな色は写らないと思っているのだろうと思い、「もう少し写真の事を勉強しなさい!」という意味合いを含めて語気強く「もちろん!」と返答しました。
彼岸花の群生地の「花その物」を美しく撮るなら、フラットな光線状態の方が良いと思います。
霧が上空にある朝の、フラットな光
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直射日光(夕方の斜光線)
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深みのある赤に再現されていると思います。花のひとつひとつの造形もきちんと写し込まれています。ベルビアで撮影。 |
ベルビア+切り詰めた露出で赤味を出してはいますが、左の写真と比べれば、深みのある赤というよりも、オレンジという発色です。花の細部には強い印影があり、細かい造形は飛び気味です。 |
2. フィルムの選択
次にフィルムの選択です。深みとコクのある赤を目指していますから、私は35mmの撮影では赤を強調するフィルム、ベルビア(ISO50のやつ)とエクタクロームE100VSを使っています。4x5による彼岸花撮影ではフィルムを何種類も持っていない為にプロビア100F、エクタクロームE100Gといったニュートラルな発色をするフィルムを使っており、私個人は4種類のフィルム比較をしています。4x5の写真はそれをスキャニング出来る機材が無いのでお見せすることが出来ません。ご容赦を。
フィルムメーカーの謳い文句通りに、ベルビアもE100VSも、プロビア100FやE100Gに比べると鮮やかな赤い色をフィルムに焼きつけています。その意味で彼岸花撮影用のフィルムとしてベルビアやE100VSを選択したことは私の意図に叶っています。しかしこの二種のフィルムはかなり異なる赤の発色をします。
ベルビアの方は見た目の色を更に強調する印象で、彼岸花はやや黄色味のある赤で再現されます。一方のE100VSは、明け方の撮影だった為もあり青味が加わり、彼岸花は赤紫からピンクにかけての色合いになっています(明け方や夕暮れの光線状態で藍色に発色するE100VSの詳細は、つぶやき185をご覧下さい)。花の見た目の印象に近いのはベルビアですが、E100VSによって再現された彼岸花は個人的にとても色っぽいと思います。ベルビアとの対比ではE100VSの方が絵として面白く、満足度が高いです。しかし私個人の当初の意図からすると、ベルビアの発色をベースに少し黄味を取りたいので、ベルビア100Fあたりが良いのかも知れません。来年試してみましょう。
ベルビアとE100VSの赤の発色の傾向の違いは、彩度を落とした形でプロビア100FとエクタクロームE100Gの間でも再現されています。ニュートラル〜黄味のある赤のフジと、(早朝は)ピンク系に偏るエクタクロームと言えるかも知れません。
フジクローム・ベルビア50 (RVP) |
コダック・エクタクロームE100VS |
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実際の彼岸花よりも赤味は強く、魅力的に再現されています。しかし実物よりも黄味のやや強い赤なので、その黄味を取り除きたい気分になります。 |
明け方のE100VSなので、青味が加わり、彼岸花の赤は紫〜ピンク系に偏っています。この発色を現実とは異なる物と見るか、妖艶な発色と見るかは見る人次第でしょう。 |
次回つぶやきでは、露出補正と二重露出について語ります。
続く
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