前回つぶやきのVoigtlander
MACRO APO-LANTHAR 125mm F2.5SLのテスト撮影の為に、他の手持ちの三本のマクロレンズと同一条件で開放からF11まで撮影しました。その画像から語れる事はさほど多くは無いのですが、マクロレンズを検討される方の参考になるかも知れませんので、今回のつぶやきで公開することにしました。
まず最初にお断りしておきますが、各レンズの撮影時の光線状態が同一ではありません。撮影は広島市植物園のベゴニア温室で行いました。当日の天気は曇りでしたが、時折雲間から太陽が顔を覗かせる事が有りました。下記サムネイルで一連の写真を見て頂けると分りますが、シグマの50mmを撮影している時が薄曇り、それがタムロン90mmの時に晴れて明るくなり(それでも日の陰るのを待って撮影しています)、その後マクロアポランター125mmとシグマ180mmを撮影する時にはすっかり雲って暗くなってしまいました。この為に花の発色が大きく変化していますが、これは決してレンズの発色傾向、ヌケの良さの違いによる物ではありません。このサンプル画像では、レンズの被写界深度、ボケ量、ボケ味、そして背景の写る範囲量のみに注目して下さい。
撮影条件は、撮影倍率約1/3倍で各レンズとも揃えています。従って長焦点レンズほど離れて撮影している事になります。
マクロ域における被写界深度/ボケ量の予備知識
35mmフォーマットの撮影倍率1/3倍以上のマクロ域で撮影倍率を揃えると、レンズの焦点距離に関わらず同一絞り値なら被写界深度がほぼ同じになります(焦点距離が短くとも開放値の明るいレンズの方が開放時の被写界深度が浅くなります)。一方、深度を外れたボケ(例えば後ボケ)の大きさには焦点距離の影響が出て、同一絞りなら長焦点レンズの方がボケが大きくなります。しかしその差はF2.8前後だと目立たず、絞り込むと差が出てきます(焦点距離の短いレンズの方がボケた感じが減ります)。このことは近似式ではない「ちゃんとした被写界深度の式」を解いてシミュレーションすると検証できますが、その様子がこのつぶやきにあるテスト撮影画像の比較からもお分りになると思います。
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撮影倍率0.3倍時のレンズの焦点距離と絞りと後方被写界深度の関係
35mmフォーマットの場合、被写界深度は許容錯乱円径を0.035mm前後で計算します。これを拡張して許容錯乱円径を横軸(対数)、後方被写界深度を縦軸(対数)としてグラフ化すると、後ボケの傾向が読み取れます。例えば許容錯乱円1.39mmにおける後方深度の意味は、点像がフィルム上で1.39mm径という大きさでボケる「ピント面からの限界距離」になります。
F2.8ではこのグラフの範囲で焦点距離の影響が殆ど有りません。しかしF11まで絞ると、1.39mm径以内のボケは180mmだとピント面から450mm後方の範囲に限られますが、50mmだと無限遠までこのボケの範囲に収まってしまう(ボケ量が少ない)、という様に読み取れます。
参考までに、撮影倍率0.3倍の時の各レンズの撮影距離、レンズ繰り出し量(全群繰り出しとして)、レンズ前方主点から被写体までの距離(主点間隔がゼロとして)、後方被写界深度、被写界深度の値は次のようになります。望遠マクロなのに標準マクロと被写界深度が一緒?というのは納得出来ないでしょうけど、望遠マクロの場合は同一撮影倍率での撮影距離が長くなります。それで焦点距離で深度が浅くなる傾向と、撮影距離で深度が深くなる傾向が等倍時に丁度相殺されるのです。だからマクロ域では焦点距離の影響が少なくなります。なお下表ではレンズのピント調節によるズーミング効果は無視しています。
撮影倍率0.3倍の時の主要パラメーター
レンズ |
撮影距離 |
レンズ繰出量 |
主点-被写体距離 |
後方深度(F2.8) |
合計深度(F2.8) |
50mm |
281.7mm |
15.0mm |
21.7mm |
1.86mm |
3.68mm |
90mm |
507.0mm |
27.0mm |
39.0mm |
1.85mm |
3.68mm |
125mm |
704.2mm |
37.5mm |
54.2mm |
1.85mm |
3.68mm |
180mm |
1014.0mm |
54.0mm |
78.0mm |
1.84mm |
3.68mm |
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テスト撮影画像の評価
各レンズの描写は前回つぶやきの結論の繰り返しになりますが、一連の画像を見るとタムロン90mmマクロの絞りを問わず素直なボケが印象的です。それに次ぐのがシグマ50mmマクロのボケ味で、タムロンに一歩譲るとは言え、結構よいボケ味だと思います。
フォクトレンダー・マクロアポランター125mmのボケ味は独特ですね。開放の大きなボケで細かい造形を消してしまえば美しいのですが、わずかにボケた部分の造形描写はエッヂの立ったような固いものです。これが絞り込んで行くと、被写界深度の増大と共に細部造形が見えてくるのですが、鼻につく固さも同時に緩和されて行きます。しかし絞り込んだ描写は素直とは言え他のレンズとの違いも少ないので、このレンズならではの描写を追い求めるならば、癖のあるボケ味と戦って(仲よくなって?)開放付近で使う方が良いみたいです。
シグマ180mmマクロも冷静に見ると、少しボケた部分には癖がありますが、大きくボケる距離差のある背景部分は比較的素直で、絞り込んでもあまり不満は無いでしょう。実際の撮影場面では、近接撮影時に時折大きな二線ボケに悩まされる事がありますが、それを除けばボケに気を使った記憶があまりありません。
被写界深度/ボケの大きさに注目すると、何と言ってもフォクトレンダー・マクロアポランター125mm
F2.5の開放時のボケがダントツに大きい(被写界深度が浅い)ですね。一方でF11まで絞り込んだ時に、マクロアポランターの被写界深度が、シグマ180mmはもちろん、タムロン90mmよりも深く見えるのは謎です。F11では絞り羽が表示値よりも絞り込まれているのかも知れませんが、そうすれば露出が狂う筈。それで冷静に写真を比べると.....絞り込んだカットは少し露出アンダーになっていますね。他のレンズの露出は絞りによらず見事に均一ですが、マクロアポランターは絞り込むほどアンダーに振れています。多分絞りの精度に問題が有るのでしょう。一筋縄では手懐けにくいレンズです。
余談ですが、マクロアポランターの開放とF2.8の開口部の大きさの差は、1/3段しか違わない事が信じられないぐらい大きいです。絞り表示値以上に実際には絞り込まれているというのはあり得ると思えます。こちらのつぶやきに掲載した一番下の写真をご覧下さい。
サムネイルをクリックすると、600x400ピクセルの大きめの画像をご覧いただけます。また各画像の下には他の写真へのダイレクトリンクを付けましたので、同一レンズで絞りによる変化とか、同一絞りでレンズによる変化とか簡単に比較参照頂けます。
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Sigma 50/2.8EX |
Tamron SP90/2.8 |
Voigtlander 125/2.5 |
Sigma 180/3.5EX |
F2.5 |
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F2.8 |
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F3.5 |
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F4.0 |
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F5.6 |
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F11 |
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