ライカフォーマットといっても、カメラのライカの事を語るつもりではありません。私はライカには全く興味がないので(笑)。ライカフォーマット(日本語ではむしろライカ判と呼ばれる)とは、私たちが135フィルムで使っている24x36mmの画面サイズの事です。ちなみにライカフォーマットは、映画用135フィルムの二コマ分を使うようにしたサイズなので、ハーフサイズ(18x24mm)の事を「ハーフサイズ」と呼ぶのも変で、本来はハーフサイズが「フルサイズ」でライカ判が「ダブルサイズ」なのですが、そんな話も今回のお題には関係ないので傍においておきましょう(笑)。
ライカフォーマットの縦横比は2:3です。それに対してスクエアフォーマットは勿論1:1。この縦横比の違いが写真をどの様に変えるか、というのが今回のお題です。桜の撮影では私は持てるフォーマットの殆どを持ち歩きまして、35mm
(24x36mm)、4x5、6x9に加えて24x24mm改造カメラのEOS650 Squareも久々に出動させました。EOS650
Squareでの撮影に際しては、同じ被写体を常にEOS3と並行して撮影したので、二つの写真を比較することで、フォーマットの違いがもたらす写真の違いについて考えてみようと思います。
これから4組の写真をご覧に入れますが、先に私が感じたことを語ってみようと思います。その事を踏まえて最後に写真の比較をご覧下さい。
1 基本的な構図の違い
縦横比が異なると、構図の基本が変わると思います。私が撮影現場で構図を考えているときに、まず基本にするのが次の絵です。画面を縦と横にそれぞれ三等分し、かつ対角線を加えたものです。撮影時のファインダースクリーン上になんとなくこの線を思い浮かべて、ファインダー内に見えている被写体の位置関係、量関係を調節してゆく事が多いです。
この中で、ライカフォーマットとスクエアフォーマットの間で最も大きな違いを見せるのが、対角線の角度だと思っています。スクエアフォーマットの対角線の角度は45度ですが、ライカフォーマット(横位置)の場合は約34度です。この角度の違いにより、被写体の並べ方が根本的に変わって行きますので、二つのフォーマットで同時に撮影していると、レンズの画角だけではなく、撮影ポジションまで変えなければならない事が多いです。
2 被写体の制約からくる画面構成の違い
実際の撮影現場で構図を考えるときには、邪魔物を画面外に外すという引き算の調整をしていることが大半です。例えば目の前にある被写体の左右に邪魔物がある場合、画面の左右方向の最大値はその邪魔物で規定されてしまいます。すると縦方向に写る範囲はフォーマットの違いで大きく異なってしまい、作品の印象も大きく異なるものになります。ライカフォーマットの場合には、縦位置で撮影するか、横位置で撮影するかという二段階の調節方法があり、それらを皆さんも駆使されていると思います。しかしそれだけでは縦方向の写る範囲の変化が大きすぎて、時にスクエアフォーマットが欲しくなることもあるでしょう。
(ライカフォーマットの縦位置、横位置の違いは、左右の写る範囲が一緒だとすれば6x4と6x9の違いと同じで、かなり変化の大きな物です。スクエアフォーマットの6x6は当然ですがその中間になります。)
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橋の写真を撮影する際に、仮に左右のビルが邪魔物だとした場合の、各フォーマットによる画面構成の違い。フォーマットによって写真の印象は大きく変わってきますね(線の範囲の例はあまり良くないかも知れません。横位置の場合に橋の上を切る人はいませんね(^^;。まあ趣旨を理解してください(^^;;;) |
では、桜の写真をご覧いただきましょう。全てギャラリー掲載写真です。今回は特に解説しませんが、新発売のコダック・ダイナHG(EB3)とベルビアの発色の違いも見て取れます。
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EOS650 Square, EF70-200mm F2.8L USM (105mm), F2.8, AE(+0.5EV,
1/750sec.), EB3 |
EOS3, EF70-200mm F2.8L USM (200mm), F2.8, AE(+0.7EV, 1/200sec.),
RVP |
一枚目は可部線・安野駅の桜を、レンギョウの間から狙った写真です。この二つの写真は、フォーマットの持つ構図の基本構造の違いを良く表していると思います。スクエアフォーマットで撮影する際に、ライカフォーマットの左右をカットしたのでは、桜の形とレンギョウの配置にまとまりが付きません。そこで、より広い範囲を取り入れて構図造りをしています。但し結果はあまり芳しくなく、写真としてはライカフォーマットの方がまとまりがありますね。
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EOS650 Square, EF70-200mm F2.8L USM (120mm), F8, AE(+0.0EV,
1/90sec.), EB3 |
EOS3, EF70-200mm F2.8L USM (100mm), F5.6, AE(+0.7EV, 1/60sec.),
RVP |
二枚目は同じ安野駅の桜を、桃の花と組み合わせた写真です。これらの写真の右側には電柱が、下側には民家があり「邪魔物」として排除しましたので、右と下方向はこれ以上広い範囲は写せません。構図造りは上と左の範囲をどう調整するかに掛かっています。結果的にライカフォーマットはスクエアフォーマットの上部分を切り取ることで構図を成立させています。桜の花や桃の花の配置により、両フォーマットの写真ともに「対角線」構図が成立している事がお判りになると思います。
写真の印象としては、スクエアフォーマットが桜の全景的な落ち着きを、ライカフォーマットは桜の一部を切り取った心象的な力強さを持っていると思います。同じ被写体で、少し写る範囲を変えただけで印象はこの様に変化します。
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EOS650 Square, Kenko MC Soft 85mm F2.5, F2.5, 1/750 sec.
, EB3 |
EOS3, Kenko MC Soft 85mm F2.5, F2.5, AE(+0.7EV, 1/250sec.),
RVP |
三枚目は安野駅の名物であるレンギョウ、桃、そして桜を組み合わせた定番構図の写真たちです。この二枚は二つのフォーマットの持つ構図の基本構造の違いを物語っていると思います。対角線の角度が異なるために、三つの花の重心点を結ぶ角度も変える必要が有り、撮影ポジションを変更して撮影しています。Vサインの様なレンギョウの枝の位置の違いが撮影ポジションの違いを物語っていますね。個人的にはスクエアフォーマットの写真の方が落ち着きとまとまりがあると感じています。
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EOS650 Square, EF70-200mm F2.8L USM (70mm), F5.6, AE(+0.0EV,
1/125sec.), EB3 |
EOS3, EF70-200mm F2.8L USM (120mm), F16, AE(+0.3EV, 1/5sec.),
RVP |
四枚目は湯来町の枝垂れ桜の全景です。つぶやき130に書いたように、この画面のすぐ右には電柱と無粋な木があり、すぐ左にも電柱が有るために、左右方向はこれ以上拡げられません。縦方向をどこまで写すかは、殆どそのままフォーマットの選択だけで決まるという被写体です。
ライカフォーマットの横位置では山の稜線を写す事が出来ません。スクエアフォーマットの場合には稜線を比較的バランス良く写すことが出来ます。ライカフォーマット縦位置の場合には稜線の上の空が沢山入ってくるので、間延びした写真にになりがちです。従ってこの桜の全景写真はスクエアフォーマットが一番構図をまとめやすく、似たような構図の写真(もちろんもっと素敵な背景でしたが)がフジ写真コンテストのグランプリに選ばれていました。
この様に、フォーマットの違いは単に画面の上下左右を切るだけではない変化をもたらします。それは写真の印象を大きく変え、被写体によっては時に撮影可否にまで波及する変化です。私の感覚ではレンズ交換、ズームによる焦点距離変更、撮影ポジションによる構図調整などと同じ様に、フォーマット(縦横比)も変化させて撮影したいと思うのです。だからこそ、つぶやき143に書いた「逆パノラマカメラ」が本気で欲しいのです。どこかのカメラメーカーさん、作らないですか???
なお、このページに掲載した桜の写真は、ギャラリー「TRASHCAN」で大きなサイズでご覧になれます。
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