前回つぶやきの続編ですので、前回分を読んでいない人はまずそちらを読んで下さい。
EOSにマウントアダプター等で電子接点が機能しないレンズを装着すると、
-
レーザーマット・スクリーンを装着したカメラの場合は、F2.8よりも小絞り(暗い側)なら実用的に露出補正は不要。
-
ニューレーザーマット・スクリーンを装着したカメラの場合は、プラスマイナス1EVの範囲で露出が暴れる(日本製のEOS7を除く。これはもっと暴れます)。
-
F2やF1.4という絞りではマイナス補正が必要になる(明るい絞りにTTL露出計があまり反応せず、シャッタースピードが十分に高速側へは動かない)。
というのが前回つぶやきの要点でした。何故こんな事が起きるのか頭の中で考えてみました。
スクリーンの透過特性テスト
まず思いついた理由がファインダースクリーンの透過特性です。TTL露出センサーはスクリーンの後ろ側にありますので、スクリーンの絞りに対する透過特性がリニアでなければ、実絞り測光の場合に露出が狂ってしまいます。しかし開放測光の時代になってからは測光は常に絞り開放の一点で行われますので、スクリーンの透過特性のリニアリティは問題になりません。開放測光対応レンズには開放F値をカメラに伝える機構がありますので、カメラ側に開放F値に対する露出補正値(スクリーンのそのF値での透過率のズレ量)を記憶させておけば済むからです。AFの時代になり開放F値の暗いレンズが増えてくると、透過特性のリニアリティやピントの山の掴みやすさよりも、スクリーンの明るさやザラツキ感の無さを優先した物が増えたのは周知の事実です。キヤノンのレーザーマットスクリーンは、その中にあって透過特性がリニアなのでしょう。一方の明るさ優先のニューレーザーマットスクリーンはリニアリティを犠牲にしていると考えられ、これが電子接点の無いレンズを使った際の露出の暴れにつながっているのだろうと考えました。
という事で、この仮説を検証するためにEOS3でテストしました。
EOS3とEOS-1V、及びEOS-1D以降の1系デジタルには、ニューレーザーマットスクリーンとレーザーマットスクリーンの両方が用意され、しかもカスタムファンクションでスクリーンに対応した露出計特性が選択可能になっています。前回つぶやきではEOS3にレーザーマットスクリーンを装着して、マウントアダプターを使ったレンズでもF2.8よりも暗い絞りなら補正不要な見事な特性を示しましたが、今回は標準装備のニューレーザーマットEc-Nを装着して、露出特性を測定してみました。結論から言えば、EOS3でもニューレーザーマットスクリーンでは露出が暴れます。
上記が測定値です。表示方法は前回つぶやきに説明したとおり、均質に照明された白壁を各絞り値で測光した時のシャッタースピードをファインダー表示通りに記載しています。二つの数字を併記してあるものは、シャッタースピードが二つの値の間で点滅した場合で、測光値は丁度中間付近にあります。1/3段系列(0.33EV単位)のカメラでの中間測光値(0.17EV)なので、点滅した場合を0.2EVのズレとしました。前回測定時にEOS3が測光モードによらず安定した露出を弾きましたので、今回は評価測光でのみ測定しています。EOS3の場合、カスタムファンクションCF-0をニューレーザーマットの場合は0、レーザーマットの場合は1にして露出計特性をスクリーンに合わせることが出来ますが、今回はスクリーンの透過特性の違いを見るために、ニューレーザーマットのケースでは両方のカスタムファンクション値で測定しています。
まずEF50mm F1.4 USMの測光値ですが、メーカー推奨使用法である「レーザーマット/CF-0が1」と「ニューレーザーマット/CF-0が0」は全く同じ露出値を示しました。一方ニューレーザーマットでカスタムファンクションCF-0を1(レーザーマット用)にした場合は、0.2EVほどアンダー目の露出になりました。これは測光しているF1.4の絞り時にニューレーザーマットの方が0.2EVほど透過特性が高い(明るい)為と考えられます。
一方、電子接点を持たないPlanar 85m F1.4 MMJですが、レーザーマットの場合は前回同様に、F2.8よりも暗い絞りでは見事に安定した、補正不要の測光値を返しました。またF2で0.3EV,F1.4で1EVほどオーバー目の露出になるのも前回同様です。
ニューレーザーマットスクリーンを装着した場合は、前回つぶやきでのEOS55などと同様の、プラスマイナス1EVを範囲として暴れる結果を返しました。その分析をするためにグラフ化してみました。
|
略号凡例
EF50 : EF50mm F1.4 USM、P85 : Planer 85mm F1.4
MMJ
LM : レーザーマットスクリーン装着、 NLM : ニューレーザーマットスクリーン装着
CF0 : CF-0が0(ニューレーザーマット)、 CF1 :
CF-0が1(レーザーマット)
|
このグラフはリファレンスとなる「EF50mm F1.4
USM / レーザーマット / CF-0が1 」に対する各測光値の差異をグラフ化したものです。プラナー85mm
F1.4 MMJの曲線を見ると、ニューレーザーマットスクリーンの透過特性が推定出来ます。「CF-0が1」同志の測定値で見れば、『露出計にとって』F4を境として明るい絞り側ではファインダーが明るく、暗い絞り側ではファインダーが暗くなるスクリーンであると言えます(太い水色のライン、下記【注】参照)。電子接点のあるレンズの場合は各開放値の透過率に応じた露出補正が可能な為、スクリーンによる露出のズレを抑制出来ます。案の定、EF50mm
F1.4 USMの露出は見事に安定しており、横一線のグラフになっています。一方の電子接点の無いレンズをニューレーザーマットで使うと、透過率の暴れがそのまま露出の暴れにつながると考えて良いでしょう。プラナーのF2,
F1.4の時に大きくオーバー側に露出が狂うのはふたつのスクリーンで同様に発生しているので、透過特性以外の理由ですね。
【注】ここで言う「明るい、暗い」はあくまで露出センサーに対してであり、肉眼で見た時の印象では無い事に注意して下さい。肉眼ではザラツキ感、陰りがあると暗く感じますが、ニューレーザーマットスクリーンはそれらが目立ちません。また肉眼は常にスクリーンの真正面(光軸上)にありますが、露出センサーはアイピースの周囲にあり、プリズムを通じてスクリーンを斜めから覗き込んでいる形になっています。肉眼にとって透過率の良い明るいスクリーンは光を拡散しにくくなっていますので、光軸からオフセットして付けられている露出センサーには光が行きにくく(暗く)なると考えられます。しかし大口径絞り値の場合はスクリーンに入射する光の最大角度(垂直からの拡がり度合い)が大きくなりますので、透過率の良いスクリーンを通過した光が直接露出センサーにも入射して、センサーにとって却って明るくなる現象も起こすでしょう。ニューレーザーマットの場合、その敷居値がF4ぐらいとも考えられます。
ミラーによるボケのケラレテスト
次に、プラナー85mm F1.4のF2, F1.4の時に露出が大きくオーバー側に狂う理由を考えましたが、思いついたのはミラーによるケラレです。
ミラーのサイズは必ずミラーボックスよりも少しだけ小さいので、大口径レンズの場合は全ての光束をミラーで反射する事が出来ず、ミラーのケラレで絞り込みと同じ現象を起こしているのでは無いか?と思ったのです。電子接点を持つレンズの場合は、開放F値と焦点距離からこのケラレ量が予め分りますから、内蔵露出計の方に開放測光時の露出補正値を記憶させておけば問題なく測光出来ます。しかし電子接点の無いレンズの場合はミラー絞りによって実際の開放値よりも暗い絞り同等の光量しかファインダー側に行かないので、今回の測光値の様にオーバー目の露出になってしまう、という推測です。
この仮説を掲示板の方に書いたら、お客様の方から「本当にケラレが発生しているなら、点光源の丸ボケもファインダーではケラレる筈だ」とヒントを戴き、早速テストしてみました。
明るい点光源を作るために小さな穴を開けた厚紙を懐中電灯の前に貼り、レンズに向けてみました。その時のファインダー像をデジカメで撮影したのが上の写真です。ボケの位置は画面中央やや上よりに配置していますが、F1.4,
F2ではボケが大きくケラレているのが分ります。一方でF2.8ではほぼケラレの影響が無くなり、F4では全く影響がありません。これはF2.8よりも暗い側で露出が安定し、明るい側で露出がオーバーに振れる傾向とピタリ一致します。
このケラレはボケを画面のどこに置くかで変わりますが、画面上部に置くほどケラレは大きくなり、下に置くほど小さくなります。画面一番上に置いた場合はほぼ半分ぐらいケラレてしまいました。また上の写真はピント位置を無限遠にして、懐中電灯を50cmぐらいのところに置いた「前ボケ」状態ですが、ピント位置を至近距離にして、懐中電灯を遠方に置いた「後ボケ」状態でも同様のケラレが観測出来ました。
ボケをファインダー上部に置く程に大きくケラレるのは、ミラー下端でのケラレの影響という事になります。プラナー85mm
F1.4をカメラに装着してレンズを覗き込むと、開放絞りではミラーよりも下側が盛大に見えます。レンズを外すとEOS3の場合でミラーボックス下端とミラー下端の間には3mm程の隙間がありました。これを埋めようとするとミラーとレンズ後端の衝突を避けるためにフランジバックを長くしなければなりませんが、現状でもEF1200mm
F5.6, EF600mm F4でミラー切れがありませんので、わざわざ広角レンズの設計を難しくするフランジバックの延長とミラーの拡大は無意味という事で現在のEFマウントの規格が決定されたのでしょう。マウントアダプターを介してF2以上のレンズを使っても露出計がちゃんと動くミラーを持つマウントは、フランジバックが長くなってマウントアダプターが使えなくなるというパラドックスも忘れてはなりません。現在のEFマウント万歳!ですね。
以上から、ミラーのケラレによってF2.8よりも明るいレンズでは露出がオーバーに振れる事が分りました。これはプラナー85mm
F1.4に限った事ではなく、他のレンズでも起きる筈です。EF50mm F1.4 USMでも、レンズマウントを少しだけ外す方向に回して電子接点の接続を断って測光したところ、プラナー85mm
F1.4 同様に開放で1EVオーバーの露出のズレが発生しました。
ペリクルミラーを持つEOS-1N RS, EOS RTでこの現象は恐らく発生しないと思います。ペリクルミラーは原理的にミラーボックス全面を覆っているのでケラレは無いでしょう。ミラーとレンズ後端の衝突の心配も無いペリクルミラー機は、マウントアダプターを楽しむのには最高かも知れません。
逆に、APS-C, APS-Hのデジタル一眼レフの場合はミラーが更に小さくなっていますので、より小絞り側(F4とか)からこの現象が発生するかも知れず、露出オーバー傾向も強いかも知れません。テスト方法は簡単なので、事前に確認される事をお勧めします。
結論
マウントアダプター等を使った、電子接点が機能しないレンズをEOSで用いる場合は、
-
レーザーマットスクリーンが装着可能な機種なら、装着する。
-
その場合でも、F2.8よりも明るいレンズの開放側では露出がオーバー側に振れるので、F2.8で測光して、その値をベースに撮影する(EOS-1N
RS, EOS RTでは恐らくこの作業は不要。APS-C, APS-Hデジタル一眼レフの場合は露出オーバーになり始める絞りがF2.8よりも更に小絞りの可能性あり、要確認)。
-
ニューレーザーマットスクリーンしか装着出来ない機種なら、F4〜F5.6で測光して、その値をベースに撮影する。
以上を守れば露出にシビアなポジでも不満の無い精度の測光値が得られると思います。
なお、EOS Kiss Digital N, EOS 20D以降の初級/中級デジタル一眼レフにはプレシジョンマットスクリーンが採用されています。このスクリーンの特性が不明ですが、Kiss
Digital Nを使っている方のテストでは、露出はやはり暴れるとの事です。
またEOS 5D, EOS 1D Mk II N(及びそれ以降の上級デジタル一眼レフ?)にはスーパープレシジョンマット・スクリーンも用意されていますが、レーザーマット以上に暗いスクリーンなのでリニアリティが失われていると推測されます。だからマウントアダプターを用いた撮影には使わないか、使われる場合は露出特性のテストを事前にされる方が良いでしょう。(テストしました→つぶやき252)
最後に歴代EOSのファインダースクリーンの種類をまとめておきます。
-
|
ブライトレーザーマット
|
ニューレーザーマット
|
プレシジョンマット
|
レーザーマット
|
スーパープレシジョンマット
|
スクリーン特性カスタムファンクション
|
EOS 600系
|
-
|
◎
|
-
|
○*
|
-
|
-
|
EOS-1, 1N
1Nベースのデジタル
|
○*
|
○*
|
-
|
◎
|
△***
|
-
|
EOS -1N RS
|
○*
|
◎
|
-
|
○*
|
△***
|
-
|
EOS 5
|
-
|
◎
|
-
|
-
|
-
|
-
|
EOS 3
|
△**
|
◎
|
-
|
○
|
△***
|
あり
|
EOS 1V, 1D, 1D Mk II, 1Ds, 1Ds MkII
|
△**
|
○
|
-
|
◎
|
△***
|
あり
|
EOS 1D MkII N
|
△**
|
○
|
-
|
◎
|
○
|
あり
|
EOS 5D
|
-
|
-
|
◎
|
-
|
○
|
あり
|
EOS 20D, 30D, Kiss DN
|
-
|
-
|
◎
|
-
|
-
|
-
|
それ以外のEOS
|
-
|
◎
|
-
|
-
|
-
|
-
|
◎:標準装備、 ○:アクセサリー、 △:装着可能だがキヤノン非推奨、 -:設定無し
*純正設定アクセサリーではあるが、スクリーン特性CFが無いので露出が多少ズレる事があり。
**Ec-Kが装着可能ではあるが、キヤノンは装着可否をカタログ/取説等で明言していない。
※キヤノンサポートに読者が問い合わせた所、「CF-0は[0](ニューレーザーマット)に設定しご使用下さい」との事。つぶやき287でテストしたところ、ニューレーザーマットの設定で開放値F4までのレンズなら問題は無さそうです。
***Ec-Sが装着可能ではあるが、スクリーン特性CFが未対応でキヤノンは装着を認めていない。
※キヤノンサポートに読者が問い合わせた所、「EOS-1D MarkII N専用として設定された商品となりますので、他機種にご使用頂くことはできません」との事。
ブライトレーザーマットEc-Kは既に廃番
※ もし間違いがあれば連絡下さい。
|